第41話 外堀とブランコ飛行と水鉄砲
「クーちゃん、ほら起きて、ほら」
「お、うん、ぁマリナだぁ」
「はいマリナだよーまだお仕事中だからねぇ」
慌ててきたマリナさんに両脇に手を入れられて引きづって拉致されていく、多分トイレ前の監視に来た時私達を見てすぐわかったんだろう。
インナーのおかげか割と軽そうに引きずっていく。
「うぅん、マリナぁ、気持ちいいよぉ」
「ばか、もうばか、確かに言ったけど、勘違いされただけで家に帰された夫人の話したけど」
「僕絶対嫌だからぁz」
「まだそんな立場じゃ、クーちゃんあんた軽いわね、え?、どうゆうこと、寝てないで、ねえ?」
徐々に小さくなっていく声を聞いてると後ろで声がする。
「同い年ぐらいかな、確かにね」
そんなこと言わないでリサさん。お腹にギューッと抱き着いた。
「もう、大丈夫ですよオムルくんの体が心配なだけ、じっとしてる所見ないから」
年寄りはゆっくりに見えても胸の奥では時間に追われている、新しいものを受け入れられないんじゃなく、新しいものを探す時間すらが惜しいのだ、今感じることが全て愛おしいんだ、その上子供の感性があるので止まることを忘れてた。
「向こうに着いたらゆっくり出来るよ」
「そうだよ!みんながいるし、寝よ」
「明日は朝から二人を呼ぶの?」
「あー朝からシャサちゃんのお願いタイムだった」
「ジャンケンの?」
「五点でお願いの権利」
「じゃあまたファーストフードね?」
ちゃんとした呼び方を教えた。
「皆喜ぶ」
マリナさんが戻ってくる足音がする、ため息をついてお茶を入れているなんか大人だ。
★
「おこのみやきー」
「力うどん」
餅を薄めに切って効率を上げたそうだ。
「あたしは新しいの、キツネ」
「ホットドッグとミルク」
「あとポテト、ポテト」
「じゃあ私はコーン」
「私はあの焼き菓子、美味しかったー」
「ここはいろんな調味料がありますからね、よそでは食べれませんよ」
私の記憶だけでもユリシアさんがメニューを広げてくれる、薄揚げは少し別の味が混じっているがうまいのでよし、後で聞いとこう。
ホットドッグも美味かった、キャベツに辛子マヨをかけてウインナーにケチャップを掛けた奴、キャベツは絶対必要。
「シッ!」
今避けた木剣が軌道を変える。
前に突っ込んで手の動きを封じると左足を異様な角度で後ろに下げる。
しまった、上体をわざと残して、体幹を外すのを見て感覚がぶれてしまった。
木剣が更に軌道を変えて追いかけてくる。手首を撓らせ最小円で迫ってくるのを左手の盾で受ける、使わさせられた。
剣を捨てるように右手を置き去りにして体を捻るガラさん、ほぼ水平の回し蹴りでスピードが乗り切れない。
子供の体で良かった、弾かれた左手を逆らわずに後ろに回して、しゃがんで躱しすぐに右後ろに体重をかける。
目の前を木剣が通る。力は入ってない様に見えるが剣任せのこの振りは技があれば簡単に槍ごと頭蓋骨を断ち切る。
地面すれすれに蜘蛛のように後ずさる、後手に回りすぎた。
半身の構えを取られてしまった、この構えの上級者を見たことが無く動きがとらえにくい。
蜘蛛のように地面に伏して構える私もさぞやりにくいだろうけど。
だけどやるようになった、一度の半回転で五回の攻撃をしてきた、又割りの効果ありだな。
「ちいっ!」
ガラさんの左足がわずかに伸びていた、つまらなそうにしてちゃんと聞いてたな。
後ろに下がった私にわずかに木剣が届かない、しゃがんだりして体長を勘違いさせる手にかかった。
ガラさんが必殺で出した突きだったから出来る白刃取り、伸び切ってしまった腕は簡単には修正できない。
上から回した左足の踵で右手の甲を蹴りつけ剣を奪いそのまま回し蹴り。
すんでに躱すガラさん。
「勝者オムルくん!!」
「え、ちょっと団長まだ決まってませんよ」
「これは、し・あ・い、頬にかすったろ」
「そんな、あれ、ほんとだ」
「はいおわり、休憩、休憩」
セリアーヌさんが私を前に押しながら蟹股気味に歩き出す。
「明日はかつ」
「もうやりませーん」
「なんだぁ、勝ち逃げか?」
「つーん」
「あ、おい、まじか」
冗談じゃない次は絶対負ける、今日のが最後の手段だった、六年後に遭おう。
「ミルクティーふたつ」
「三つで」
テミスさんが来た、いつもより大人しい。
「はいはーいお茶はリリカがだしまーす」
スタッフ?はリリカ、リサ、ユリシア、リオナさん、リリカ以外は洗い物をしている。風力洗濯機を見ているのはマリンカさん。ナツフカさんとライカさんは子供の相手。
と、今日も膝抱っこされる、なれたけどなんかいつもと違う、まったりしてるというか、これが当たり前っていう圧に近いものがある。
テミスさんを見ると姿勢を正した。
「オムルさん」
「はい?」
「昨日言ったことセリちゃんに報告しました」
「え、まあ、はい」
「クリームさんが何処から出てきたか聞かれまして、その報告が遅れたと言って・・」
「ちょっと、勘違いとかじゃ無いよね、ね」
「全員を嫁にすると宣言したといいましょうか・・」
テミスさんはまじめですね。
「嘘じゃないですよ、もちろん了解がいただけたらですけど」
「なんだそんなこと当たり前じゃないか、もう思い残す事は無い」
「「変な事言わないで!」」
「はい、すんません、なんか照れちゃって」
上を見ると、ほっぺたが薄く色づいている、かわいいな。
リリカとリサも片づけが終わって同じテーブルにきて話に混じる。
シャサちゃんのお願いを聞くために長い鉄棒にブランコをいくつもぶら下げていく。セリちゃんとテミスさんが巡回に行くと出て行ったので地獄耳発動、ただの興味。
「セリちゃんは大丈夫だと思う?」
「テミスはことし二十歳だよな?私は二十四だし、いくら大人びててもまだ八歳?」
「もうすぐだって」
「大都の店では十二歳で来るのは普通らしいね」
「それくらいなら求められても大丈夫、か?」
「この装備付けてれば大丈夫よ」
「まあ身支度はしとくさ」
「でもかわいいわよ、まつげ長いし」
「それなー、例の茶器の写しで自分書けないのかな?」
「そんなにしょげた顔しないで、早いと十歳くらいで求める子もいくらでもいるよ」
この世界の女性は自分評価が低すぎると思います、ほんとに。
デバスさん情報だとセリアーヌさんのスキルは蹴撃、なんかやらしいプレイを強要した前の彼氏を蹴り殺そうとしたらしい。
能力ではないので筋力が上がるわけではなくて効率がいいとか自由度が高いとかだと思うけど。
兎も角そのおかげか足が美しい、お尻がリサタイプでそこから太ももの後ろに繋がるラインがイルカのよう、昭和の網タイツの洋画ポスターなんて比較にならないくらいの美脚。
風呂で見た足を思い出した、エイトティーン、セブンティーン、シックスティーン、ファ、フィフティーン、
「オムル様これですか?」
シャサちゃんが様呼びしだした、急に大人びて見える、女の子だなぁ。
「そうだよマミルちゃんはどうだった?」
「ていじょうぶだって」
リリカが確認してくれたらしい。
ブランコに集まったのは、ユリシアさん、ブリシアちゃん、シンシアちゃん、サイカちゃん、ミレイヤちゃん、フクリちゃんとコハクちゃんの九人。
真ん中がシャサちゃんでそれぞれ一メートルくらいの高さのブランコに乗せる、ユリシアさん微妙に脚広げないで、見るけど。
「他の人は後ろの柵につかまってくださーい。」
男組以外が柵につかまっているのを確認する。
「それじゃあ始めるよー」
高さ三メートル横十メートルほどのウインドウを斜めに出す、ブランコの足元から目の前一メートルほどに。
「キャーー、下、下に森!!」
「浮いてるー、ミーちゃん高ーい」
「それじゃあ行くよー今日まで移動した道だー」
シャサちゃんのお願いは空を飛ぶこと、多分いつかのやじろべえの事だと思ったけど、じいの矜持が許さなかった。
遊園地で体が固まった縦に回る部屋を思い出してやってみる。
瞬間にセレガの町から見える伝声塔に移動する、伝声塔の上で書類に目を通している伝声師が見える。
上空から伝声師の横を抜け、道すれすれまで下りて又上昇、空気も通しているので臨場感抜群。
「ヒヤァァア!」
「鳥さん鳥さん」
「おち、おち、ひい」
「ひょおおおおお」
「これくら、これぇえええっ!」
「地面に立ってるのに、たってるのにぃ」
「すごーい、あはははは」
山のベースキャンプ地は今親子が休憩している、そこをぐるりと回りまた下に降りて馬車の横を並走。
馬が不穏な目を向けたのでまた上昇し離れる、草原を抜け森に入る、伝声塔の砦を見ると畑にいる人やトランプをしている人が見えた、伝言板が新しくできてる、水の量の絵が描いてある。
そこから降りると風力車がミレジにむかっていた。
恐怖、戦き、歓喜、賞賛の声を聴きながら小一時間ほど楽しんでもらった、もうちょっとする予定だったが座り込む柵組が出始めたのと気がかりが出来たので終了。
「すごーい、ぶわーってとんだ」
「あのお風呂に入っていいです?」
「はい?今入れますからどうぞ」
ユリシアさんが珍しくしおらしく離れていく、酔ったかな。
「ビューんてビューンって」
マミルちゃんも喜んでる。
「信じられないものを見ました」
「もう一生涯見れないでしょうね」
「ブランコ怖くなかったの?」
「横のオネイちゃんが持っててくれたー」
ハニラシアちゃんの問いにシンシアちゃんが答えた。
「オムル様有難うございます、一生の宝物です」
「喜んでくれて良かったよ」
リサとリリカと苦手だったのかマリンカさんがお茶の呼びかけをしてくれるので皆で向かった。
皆が座るのを確認してパーテイションに入る。さっきちらりと見えたテミスさんの馬車の後ろに、いくつか影が付いていた。
さっきの場所を上から見てみるあれは、オオカミ?いや鼻から頭までがほぼ真っすぐ、ハイエナ系か?、だけど大きい、どれも三メートル弱はある、それが十頭以上。
馬車は停止して女性二人が暴風板を出して馬を守っていて風魔法で追い払っている、カテルの兄貴が突っ込むが相手は早い。
メリルさんも突っ込んでくれないと致命傷にしにくいみたいだ。
もう一人の男はスピードタイプみたいだが斬撃が通っていない。
こう早いとウィンドウからの攻撃をする前に動かれてしまう、槍など出したままウインドウ移動はできなかった。
スリングでボウガンを打ってみる。刺さるんだが意味が全く理解できないとひるんだりしてくれない。
昨日蟹を取っていて思いついた奴をやってみるか。
一頭がカテルの兄貴に飛び掛かった横一線で薙ぐが切れない、傷持ちだ。
それでもダメージは有るようでよろけている、こいつでテスト。
ぎゃうんっ!!。
胴体の半分が千切れ飛んだ。
「よしっ、次、水透過!!」
ぎゃん!!
この世界の海の最深部は十キロを超える、そこから水だけをピーピングウインドウで透過させれば大出力のウオーターカッターになるかと。
ぎゃああおん!
なったな。
流石に三頭も倒れたら恐怖を感じたか唸りながら周りを回り出したハイエナたちを見ていると唸り声が後ろから聞こえる。
振り返るとナク、ネル、ユウがウィンドウを見て唸っている見えてはいないはずだが空気は通している、匂いか?。
ハイエナたちが徐々に包囲を広げてやがて逃げ出したのでウインドウを閉じた。
く~ん。
泣きたいのはこっちだ。
「どうしたい坊ちゃん変な声出し・うええええ!」
デバスさんが気合を出して身構える。
「違う違うこれナク、ナクだから、すとーぷ」
何がどうなったのかナクの体高は二メートルに達していた、立ちあがったら三メートル超えるぞ。
一頭だけで良かった、食事どうしようか?。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます