第14話 命を預かりに来たら陽気な団長さんが見れた

 さて今日の門番は恰幅のいい中年さん愛想がいいけれどお疲れ気味、なんかごめん。


 詰め所について中庭に転がっている人たちを井戸の近くの芝生に抱えて行って再度転がす。

 大事件が終わったとしてもあんまりだ。

 まあそれでも恩義を返すぐらいはしないといけないよな。


 井戸の影に行ってテーブル型冷蔵庫が乗った台車を引き出してリサとリリカに頼む。

 塩を多めに入れたミックスジュースとサンドイッチを作ると匂いに誘われたのかゾンビのように皆起き上がってくる。


 一番近くにいた赤毛の男が虚ろな目でサンドイッチを受け取って食べると目を剥いて叫んだ。

 「うまっ」

 「うまいぞー!!」

 

 そうかいそうかい。紅茶も作ってやろう、ミルクもやろう。


 「うまぁぃぞ、ぐう、うごっごへぇごぼ、ごはぁ」

 「寝るなぁ!!」


 あぶねえ、サンドイッチで溺れるやつを始めてみた。


 「あと頼むよ、ほんとに」

 なんとなく呟いたんだけど歩いてきた女性騎士の一人が返事してくれた。

 「はあい」

 「朝ごはん食べないでよかったー」

 「ホント寝坊助が役に立つ日が来るなんてねー」

 「え?いや、あの、ごめん」

 グループ制なのか三人いた女性騎士の一人ボブカットの人が申し訳なさそうにしている。


 美味しい美味しいと言ってくれる団員たちに囲まれてリリカもリサもサンドイッチ作りに忙しそうだ。



 「団長さん大丈夫ですか?」

 大の字に寝転がって目を閉じまいと空を睨んでいるセリアーヌさんを見つけて声を掛けた。

 「う、おう、なんとかね」

 「いや馬車とか見張とかですよ?」

 「こ、この3人はダメ」


 近くに転がっている人たちを指さす、護衛予定が三人も無茶したの?。


 「あと三人いるから大丈夫ぐぅ」

 「四人荷物で三人で護衛ってどうするのさっ」


 これはあれだなあれを使うか。

 小さなウインドウを出して小瓶を引き寄せる。

 栓を開けて団長の鼻先に着けてやった。


 「うぎゃぁぁ、何だこれ、なんだぁ!!」


 ふふ、気付け薬という匂いの拷問薬だ、ぐぇ、くさっ!!。


 「貴方たち何してるの?」


 のたうち回る私たちを見下してショートカットの美人さんが声をかけてきた。


 いや作ったときはこれほどの破壊力はなかったんだ、発酵でもしたのか。


 「テミスー」

 「ち、ちょっと、近寄らないで、そこに井戸があるから洗って、ちゃんとっ!!」


 私たちは体を引きずるように井戸に向かった。



 ふう少し落ち着いた。

 「「えらいめにあった」」

 ハモってしまった。

 「ちょっと、釣瓶までくさいわよ」


 もう許してください、ごめんなさい、あんなものポイッしたポイッどっかの星が腐るかもしれん私は土下座した。


 「まったく君という男は毎度毎度、」

 鼻をハンカチで拭いながら団長が唸った。

 「そんなトラブルメーカーみたいに言わないで下さいよ」

 自分の手をかいでしかめる私に冷たい視線が刺さる。


 「なにか?」

 「昨日のティーセットだよ」

 「頑張りましたよ?」

 「やっぱりかっ!!」


 しまったわきが甘いとは生前から言われていたがまあ工房を作るつもりだしいいよね。


 「き、奇麗だったでしょ」

 「何をどうしたらあんなものが出来るんだっ!!!」


 う、トランプを作ったときに凹凸なんかだと厚みがすごくて考えたんだ、それで拡大率で色が黒から白っぽく変わるのを見て混ぜたらうまくいった。

 同じ調子でカップにも絵を描こうとしたけど無理だった。

 複雑なのはいいけれど左右対称とか絶対無理、なので見た儘を写し取れないかやってみて出来たんだ、それで、できたんだ。


 写真が。


 「奇麗な花があったので貴族が持つのにふさわしいと思って」

 肩を掴まれて逃げれなくなって焦っている私の前に団長の綺麗な瞳が迫ってきた。

 「いや奇麗だけど、カップに月下美人があってカップ越しに家の館が有ってぇっ!!」

 「こ、怖いです」

 「ほんとに怖かったよ、母と妹がカップを並べてさあじっと見比べてるわけさぁ、妹が並べると風に揺れているみたいって言いだして、母が拡大鏡を持ち出してさぁ家の窓のとこあたりを見るわけさ」

 「はい?」

 「針の孔程度の窓がいくつもあるだろ」

 そこまで小さくはないが。

 「はい、チャンとありましたよ」

 「あほかーーっ!!」

 「は、はいー??」

 「なんでそこに母上がいるんだーっ!!」


 ・・げぇ、交通事故だ、写し取る事だけを考えてるからそんなの判るもんか。


 「もうなそれから三十分は誰も音すら出せなかったぞ」

 顔を手で覆って団長さんがつぶやく。


 「母上の殺気を初めて知ったよ父上が恐れるのがよぉく分かった。」

 「ふ、普段使いの分もありましたよね」

 「ありがとう!!っ、本当にそれだけは奇跡だった」

 わぁい団長さんに抱き着かれた、汗臭いけどこれはこれでぇいだ、いだい、しめ、しめっ。


 「妹があれ以上食い下がったらと思うとほら手がほら、血を見てたらホントに恨むところだよ」

 はぁはぁ良かった、離してくれた。

 「まあそこはほらこれからのこともあるし、特別中の特別ということで」


 目の前の小さく震える手を握ってきゅるんを演じて言うと。


 「騙されんぞ君だけは気を許さん!!」


 手を振りほどいて後ずさる団長を見ながら。


 「まあ、はい、わかりました、皆の練習を兼ねて昼食を上で摂りたいので準備しましょう?」

 「ぬう」

 「それで馬は大丈夫ですか?」

 「ああほら厩舎から顔を出してるだろ」


 井戸の反対側にそれらしき扉がみえるけ、ど。


 「でか!!」

 「世話係が優秀でネエ」


 どや顔でいうな、まあ確かに平屋の軒より上に顔がある。

 この世界の生態系は基本地球と同じ、宇宙の遺伝子説をよく聞かされたせいか違和感はない。ただすこし太古寄り、何より小型恐竜がまだいる。

 あとスキルを全生物が持っている、だいたい昆虫が精神汚染系、爬虫類が神経、生体汚染系、そして哺乳類が自身改造といえばいいか一代限りの進化というか。


 有名なのが昔あったサーベルタイガー取りこぼし事件、人食いになったタイガーを討伐に向かったが手傷を負わしながら逃がしてしまった、十日後に見つけた時には体毛が剣の刃を通さなかったそうだ。


 つまりこの馬はそれなりの虐待を受けていたことになる其のうえでこの人懐こさ、あ、給餌の人が頭齧られてる。


 「いい馬ですね」

 「ふふっ、そうだろ、そうだ、ぐう」


 バタンってまた寝た。

 「ちょっと団長さん段取りは、ねえ」

 「フフッ、いいですよこんな寝顔久しぶりに見ました、私があらかた聞きましたし物資の用意は終わっています」

 テミスさんが微笑んでるのですべて許そう。

 でも三人で馬に乗ってきてもらっても全部で六頭、一頭はパンテさん家だし、足休めを兼ねてもう一頭は必要かな?


 「もう一頭なんとかなる?」

 「あ、それならダーウンの娘がいます、ほら少し小さい子が横に」

 「ああ栗毛の」

 「そうですあの子ならお父さんの後ろをついてきますよ」

 「じゃあお願いします、あ、エサは今まで道理給餌箱に毎日入れてもらうようにお願いします」

 「わかりました、て、え、何してるんですか?」

 「いえ、馬車二台は無理かなと、、」

 「全員傾注ーー!!っ」

 

 そこらあたりから返事が聞こえる。


 「窓を閉めろっ、耳をふさげっ、良いというまで目を伏せろ、いいかっ!!」

 「「「「「はいっ」」」」」

 「もう助けてくださいよ坊ちゃん」


 面食らって丸目で固まっているとテミスさんがのどをさすりながらいってきた。


 「上領主様がスキルを見せるなんて聞いたことがありませんよ」


 すまない、農家の育ちなんだ。



 しばらくして出来たのがミニバス?テミスさんの意見を聞いて昔のバス風に横並び座席、但しシートは座面が前後に動いて軽いリクライニング仕様、おかげで前輪の舵がホントに日本並み、ダブルウィッシュボーンとやらを目指してみた。


 ちなみに甲斐田流空拳は元は護身術だがあまりの効率で無傷で捕らえた奴らに復讐された歴史がある、まあ全員二度と歩けなくしたそうだが亡くなった人は帰らない、相手が外国の拳銃、拳法使いを連れていたことから、わが流派に座学が組まれた、とにかく生き延びろと、なので様々な機械の修理法なども習う、武器や車なども。

 他流派の武者修行なんかも後日レポートを書かされる。


 そのせいで私の中二病は留まることを知らなかった、ということ。


 さあ馬を二頭立てにして、皆を連れてきてもらおう。

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