第26話 和解

 決闘が終わった俺たちは、さすがに疲れたため、ベンチに座って、アリアと騎士団員達の稽古を見ながら昼食をとっていた。ちなみに昼食はハムがたっぷり入ったサンドイッチだ。大味だが、濃い味付けで美味い。

「それにしても、俺が知らない間に騎士団もだいぶ様変わりしたな。やるじゃないか、ウォウ」

 俺が褒めると、ウォウは照れ臭そうに鼻の頭を指でかいた。

「いいや、俺の力じゃねえよ。勇者パーティーのときの仲間が助けてくれるんだ」

 そういうと、サンドイッチをひとくち食べ、言葉を区切る。

「エレンは聖水や護符をたくさん作ってくれるし、リーナだってポーションをたくさん卸してくれるんだ」

 なるほど、上級ポーションをあんな気軽に使えていたのは、リーナのおかげというわけか。

 てっきり自分の知識欲を満たすために魔法研究機関を作ったのだと思っていたが、あれで意外と国のためを考えていたのかもしれないな。

「俺だってガラにもねえ騎士団長なんてのをやってる。何もしてないのはお前ぐらいなもんだぜ」

 さすがにその言いようには俺も反論がある。

「おいおい、俺だってちゃんと弟子を育てたじゃないか」

「……最初からそうしていれば、俺も納得したんだがな」

 それを言われると辛いものがある。たしかにあの時は俺も言葉が足りなかった。

「俺は昔、勇者になりたかった」

 ウォウの独り言のように呟いたその言葉に、俺は思わず立ち上がる。

「そんなこと、旅の間も言わなかったじゃないか!!」

 ウォウは諦めがついたたような清々しい笑顔で続ける。

「学がなかったから、腕っぷしを鍛えるために冒険者になった。聖剣を引き抜きにも行った。だが、選ばれたのはお前だった」

 勇者とは、聖剣に選ばれたものがなる。当然、王侯貴族や騎士団員の中から選ばれないこともある。その場合、冒険者や村人にも挑戦権が与えられる。

 得体のしれないものが勇者になるリスクもあるが、それ以上に、勇者が生まれないリスクは大きいのだ。

「お前と旅をする中で、納得したよ。俺よりお前が勇者に相応しいと。だが、お前は勇者の地位をいとも簡単に捨てた」

 最後のウォウの言葉には、憎しみが、怒りが宿っていたように感じる。

「それは――」

 俺が言い訳するのを、ウォウは手で制した。

「分かってるよ。聖剣を握れない勇者に意味はない。お前は合理的な判断をした。だがな――理屈じゃないんだ」

「ああ、そうだな」

 こういうのは、感情の問題だ。

 だから俺は、感情的に対処した。

 ウォウに向かって綺麗にお辞儀する。

「すまないな。お前の心を踏み躙って」

 頭を下げている俺からは、ウォウの表情は見えなかったが、多分笑ったのだと思う。

「そういう素直なところも、お前のいいところだな」

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勇者は聖剣に嫌われている 八月十五 @in815

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