第25話 恐怖と勇気
ウォウが右手に構えた大剣を大振りに振りかぶる。俺は柔剣で、刀身を使って受け流す。
雷属性が付与されている剣に触れたことによって、大剣伝いにウォウにも感電によるダメージが伝わっているはずだ。現にウォウは苦悶の表情を浮かべる。
が、倒れない。踏み止まって再び大剣を振り下ろす。
ウォウがこの状況から俺に勝つためには、俺の防御や回避、受け流しを掻い潜って一撃当てる必要がある。だが、そのためには雷が付与されている剣と打ち合わなければならない。
痛いと分かっているのに攻撃するのは、怖いはずだ。身体的なダメージよりも、精神的な疲労が蓄積していく。
それでも、ウォウは攻撃の手を止めない。
戦士にとって勇気と恐怖はとても大切だ。
敵の攻撃を真正面から受け止める勇気。だが、蛮勇ではいけない。
攻撃が受け止められない程強力な場合、恐怖によって回避などを選択することも重要だ。
大切なのは見極めること。自分が受け止めきれる攻撃なのかを。
宣言通り、ウォウは何度も俺に攻撃を仕掛けてきた。だが、それは剣を打ち合った分、ウォウがダメージを負っているということでもある。
やがて、バテてきたのか、ウォウの剣が鈍る。
「もう無理だ」
自分の限界を測れないウォウではない。自分でもわかっているはずだ。
勇気と蛮勇は違う。
「ああ、そうだな。これで最後だ。受け止めてくれ!!」
ウォウは最後の力を振り絞って剣を振り上げる。人は、体力の限界の時にこそ、無駄のない動きを見せることがある。
それに、ウォウは打ち合いを望んでいる。これで避けたり、受け流したりすれば、また根に持たれるだろう。
「分かったよ」
ウォウはニヤリと笑ったような気がした。
俺はウォウの剛剣を真っ向から受け止める。
剣にヒビが入り、それでも無理をするとポッキリと二つに折れた。
だが、ウォウの最後の攻撃は凌げた。
ウォウは剣を振り下ろした姿勢のまま、俺の腕の中で気絶していた。
俺は、試合終了の合図を待たずにウォウを地面に寝かせ、鎧を外す。
「誰か、ポーションを用意しておいてくれ」
篭手を外すと、指先から手首までが焼け爛れていた。
火ではなく雷でこんなことになるとは、相当やせ我慢したのだろう。
「アリア、左手に《回復》魔法を。右手は俺がやる」
「あ、は、はい!」
見学していたアリアを呼びつけ、治療を手伝わせる。急がなければ。命に別状はないだろうが、剣を握るのに支障が出ては問題だ。
「《回復》」
俺はウォウの右手を治す。時間の早回しのように、火傷が治り、新しい皮が生えてくる。
これで、右手の応急処置は問題ないだろう。
アリアの方を見ると、少しモタついていた。無理もないか、実質初めての他人への《回復》だし。
俺が回復役を変わろうとした時、ウォウの右手が俺の左手を掴んだ。
「もういいぜ、十分回復した」
ウォウは何事もなかったかのようにムクリと起き上がる。
「え、でもまだ治療が――」
「いや、よくやってくれた。十分だぜ、お嬢ちゃん」
ウォウは優しくアリアの手を解くと、騎士団員の一人がポーションを渡してくる。
ウォウはそれを左手にバシャバシャとかけ、残りは飲み干す。
すると、左手も俺が治療した後のように新しい皮が張った。
「さて――」
ウォウはスクッと立ち上がると、俺に手を差し出してきた。
「訛ってなくて安心したぜ、ハヤト」
「ああ、俺もだ。ウォウ」
俺達は固く手を握りあった。
ウォウはスクッと立ち上がると、俺に手を差し出してきた。
「腕が落ちてなくて安心した。いい勝負だったぜ、ハヤト)
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