第23話 決闘

 俺は「準備がある」と言ってどこかに消えてしまったウォウを模擬戦をするための外に土を敷き詰めたスペースで待っていた。流石は広い敷地を持つ騎士団詰め所だけあって、公式の試合が行われるのに十分な広さを持っている。

 俺は腰に佩いていた剣を抜き、ブラブラと振り回しながら時間を潰す。

「待たせたな」

 しばらくすると、ウォウがやってきた。予想通りというべきか、その姿は魔王討伐時と同じ「不壊の鎧」に身を包んでいた。

「おいおい、こっちは聖剣なしなんだぞ。ちょっとくらい手加減してくれても……」

「俺に見せてくれ。お前は聖剣がなくても十分強いんだってところを」

 俺はウォウを観察する。髪の色と同じ真紅のフルプレートアーマー。材質もこの世で最も頑丈な金属「アダマンタイト」で作られており、防御力は抜群。加えて、厄介なのは「不壊」の魔法の付与によって、絶対に壊れないことだ。

 つまり、ウォウを倒すためには、何かウォウ本人……〝鎧内部に貫通するような攻撃手段〟が必要になる。

 対して、俺は自身の装備を見る。擦り切れたマントと傷だらけの、申し訳程度の胸当て。そして数打ちの鉄剣が一振り。

 「Bランク冒険者、ユウ」のいつもの装備だ。魔王討伐時とは比べるのもおこがましい貧相な装備。

 まあ、やれるだけやってみるが。

「何か要望があれば装備でも剣でも貸してやるぞ。流石にアダマンタイト製のはこれしかないので無理だが」

 俺が自分の装備を確認しているのをウォウがそんな提案をしてくる。

「いや、いいよ」

 正直魅力的な提案だが、戦場ではいつだって物資が足りない。今ある装備でなんとかしなければならないような修羅場だって飽きるほど潜っている。

「おい、試合開始の合図を」

 俺の返事を聞いて満足したのか、ウォウは手近にいた騎士団員に声を掛ける。

「試合開始!!」

 まず、踏み込んできたのはウォウだ。ウォウは俺と違って純粋な戦士だ。魔法は使えない。よって、距離を詰めるしかない。

「《火球》」

 俺はウォウが距離を詰め切るまでに少しでもダメージを負わせるべく、得意の《火球》の魔法を放つ。

「うおおおおおお!!」

 が、ウォウは大盾で《火球》を防ぎながら走り続ける。

 もちろん、普通はそんな事できない。当然怯むし、《火球》の熱で蒸し焼きになる。

 だが、ウォウならそれくらいしてくるだろうと俺は確信していた。今まで共に戦ってきた信頼と言い換えても良い。

 ウォウがパーティーの盾として防げなかったのは、魔王の《連火球》だけだ。

「おいおい、魔法の無駄撃してんじゃねえぞ!!」

 そして、俺がウォウのことを知っているように、ウォウも当然俺のことを知っている。

 魔法剣士という中途半端な職業を選んだ俺は、エレンやリーナという純魔法職より魔力量が少ない。魔法を撃ち続けるのにも限度がある。

 そして、人類最高の魔法使いであるリーナを持ってしても、魔王のように《火球》を連続して撃つことはできない。

 魔王だけが特別であり、規格外だった。

 

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