第22話 ポーション

 そうだ。俺の考えが甘かった。騎士団員は元々騎士の家計だったり、元冒険者だったりと、小さい頃から剣を振るってきたものが多い。対して、アリアはウォウの言う通り、数ヶ月前まで剣を振ったことすらなかった。

 たとえ、アリアに才能があったとしても、その差は簡単には埋まらない。

 俺は、自身の失態を隠すため、頭をかきながらアリアに駆け寄った。

「アリア、大丈夫か?」

「ぜぇ、はぁ……。はい、大丈夫です」

「ちょっと休憩してろ。アリアはまず素振りからみてもらうことにしよう」

「……申し訳ありません」

 さすがのアリアも堪えているようだ。

「嬢ちゃん。これ使えよ」

 ウォウはアリアに緑色の液体が入った小瓶を投げ渡す。

「これは……ポーション?」

 ポーション(回復薬)は飲めば傷を癒やしたり、体力を回復したりしてくれる。冒険に出る際にはアンチドーテ(解毒薬)と一緒に一本は用意しておきたい便利アイテムだ。

 とはいえ、ポーションにもピンからキリまである。最上級のものは失くした四肢ですら再生するが、そんなものは希少すぎて一介の冒険者では買えない。

 それこそ国家レベルの資金がいる。俺達勇者パーティーが旅をしているときでさえ、常備はできなかった。

 よく市場に出回っているのは中級ポーション。縫わなければいけないような傷がたちどころに治り、体力も回復するというものだ。だが、それでも成功したベテラン冒険者が一本懐に忍ばせておくお守りのようなものだ。

 傷が大したことなければ渋って使わないことまである。

 新人冒険者や村人に愛されているのは下級ポーション。こいつは魔法や錬金術で作るのではなく、薬草を煎じて薬師が作る。

 冒険者ギルドが年がら年中発注している「薬草集め」のクエストも、こいつを作るためというところが大きい。

 話がそれたが、今ウォウがアリアに投げ渡したのは上級ポーション。最上級ほどではないが、それこそ失くした指くらいなら生えてくる代物だ。

 決して「訓練で疲れたから」飲むものではない。

「おい、ウォウ……」

 俺の言いたいことを悟ったのか、ウォウが俺の言葉を遮る。

「良いんだ。お嬢ちゃんにはまだまだ動き回ってもらいてぇからな」

 上級ポーションの価値を知らないウォウじゃない。ここはありがたく使わせてもらおう。

 ちなみに、元王女であるアリアは、ポーションの価値に疎く「風を引いたときに中級ポーションを飲む」事も多々あったため、遠慮なくラッパ飲みしていた。

「……なんか済まないな。俺の弟子が」

「いや、いいんだ」

「?」

 当人のアリアは全く分かっていなかった。

「さて、嬢ちゃんには予定通り騎士団員たちと基礎的な訓練をしてもらうとして。なあ、ハヤト」

 俺はため息を吐いた。本当はやりたくない。だが、ここで俺が無理に拒めば、ウォウとの仲はより一層深い溝ができるだろう。

「分かったよ。一本だけな」

 ウォウはニカっと笑うと、俺の肩をバシバシと叩いてきた。

「そうこなくっちゃな! せっかくだ、騎士団員たちにも見学させていいか?」

「ああ、好きにしてくれ。俺もアリアに見学させる」

 かくして、俺とウォウの決闘が始まろうとしていた。

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