第21話 サマー王国騎士団
騎士団の詰め所には、広い演習場があり、そこでは各々が剣の素振りや模擬戦などを行っていた。
「おう、来たか」
比較的ガタイがいいものが多い騎士団の中でも、一際筋骨隆々で高身長な男は、重りを何重にも巻き付けた大剣で素振りをしていた。
「ああ、久しぶりだな。ウォウ」
俺たちは互いに距離を詰めて睨み合う。というより、どうすれば良いのか分からなかった。古い男の友人と再会した時、普通は握手したり肩を組んだりするのだろうが、俺たちは喧嘩別れをしていて、そういうことをする雰囲気でもなかった。
「それで、要件は?」
「おう。お前が弟子を取ったって聞いてな。未来の勇者様の顔を見ておこうと思ってよ」 ウォウはアリアに視線を向ける。
「初めまして。アリア・フーバーです」
アリアの名前を聞いて、ウォウの目つきが変わる。
「フーバーって言うと、フーバー王国の……」
「はい、そのフーバーで間違いありません。元王女ですが、今は気さくに接して下さると嬉しいです」
ウォウはため息を吐いて肩に担いでいた剣を卸す。
「弟子を取ったって聞いて、見直したんだがな」
ギロリと俺を睨み付けるその目は、獲物を見る肉食獣の目だ。
「ハヤト。お前はかつてフーバー王国を救えなかった。その負い目があってアリアを弟子にした。違うか?」
「ああ、その通りだ--」
俺が答えた瞬間。俺の真横で爆発が起きるた。そのように感じたが、実際は違う。ウォウが重り付きの大剣を振り下ろしただけだ。
「お前はいつもそうだ。急に勇者を止めたり、お情けで次の勇者を育てたり……。勇者の責務をなんと心得る!!」
ウォウはかつて勇者を目指していた。だが、なれなかった。俺という勇者が現れてしまったから。
そして、その俺は勇者の地位をいとも簡単に捨てた。
納得がいかないのも分かる。
「勇者ってのは、無理に続けたり、才能や努力だけで決まるもんじゃない。それに、アリアを弟子にしたのだってお情けじゃない。アリアに謝れ」
俺の目を見て、ウォウはニヤリと口角を吊り上げる。
「なら、見せてもらおうじゃねえか。そのお嬢ちゃんの本気を。実力を」
ウォウは一呼吸着いて、それぞれ稽古していた騎士団員を全員集めた。
「ここに居るのは、世界を救った勇者、ハヤト・メロウスだ」
騎士団員の間でざわめきが起こる。まあ、自慢じゃないが俺は有名人だからな。
「そして、その弟子のアリア・フーバーだ。今日は二人の実力を見せてもらおうと思う」
俺は思わずため息を吐いた。結局のところ、ウォウは俺と白黒つけたいだけなのだ。
「おい、ウォウ、俺はーー」
「「戦う気はない」ってんだろうが、そうはいかねえ」
ウォウが指で合図すると、一人の団員がこちらに走ってきた。
「まあ、とりあえず、その嬢ちゃんの実力を見てみようじゃねえか? それはお前も構わないだろう?」
「あ、ああ……」
確かに、ウォウを相手にするのはまだ早いかもしれない。騎士団員に剣を見てもらえるのは願ってもない。
「んで、そっちの頼みを聞いたからには、こっちの頼みも聞いてもらわなきゃ、フェアじゃねえよな?」
「分かったよ。でも俺は勇者に戻る気はないぞ?」
俺がそう釘を差しておくと、ウォウは笑った。爽快かつ豪快に。
「なぁに。その気にさせてやるさ。剣士なら、いや。男なら、戦わなきゃ伝わらないことだってあるってもんだ」
……というわけで、まずはアリアと騎士団員の模擬戦を見ることになったのだが……。
「この嬢ちゃんを弟子にしてどのくらいだ?」
「数ヶ月ってところかな?」
アリアはボロボロの泥だらけになって訓練場の地面に突っ伏している。対して、騎士団員は額についた汗を袖で拭っていた。
「……そうか。まあ、剣を握って数ヶ月のやつにやられてるようじゃ、騎士団員失格だからな」
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