第20話 招待状

「凄いわアリアちゃん! もうこんなに上達して!!」

 エレンがあまりにも自分のことのように褒めるものだから、若干アリアが引いているが、確かにアリアの回復魔法の修行は順調だ。リーナのところで属性診断をしてもらったのが、上達に繋がったのかもしれない。

「そういえば、ハヤト。サマー騎士団からこんなものが届いていたわよ」

 エレンが俺に書類を手渡してくる。封を切って中身を確認するが、確かに騎士団長から俺への招待状のようだ。

「騎士団長からって事は、ウォウからか……」

「そうね……」

 俺たちの重い空気を察したのか、回復魔法の修行を切り上げてアリアが近づいてくる。

「あの、ウォウさんって、皆さんと同じ勇者パーティーのウォウ・リアーさんですか?」

「ああ、そうだ」

 仲間のことを大切に思っているとアリアに思われているであろう俺のイメージからすれば、俺やエレンがかつての仲間であるウォウの事でこんな渋い顔になるのは想像が着かなかったのだろう。

「ウォウとは喧嘩別れをしていてな。俺は会いたいが、向こうは俺に会いたくないと思っていた」

 もし、俺のことを許してくれたのだとしたら、俺としても是非とも会いたい。だが、もしも最後に分かれたときのように、決闘をしろと言い出すのだとしたら、それは……。

「ハヤト……」

 エレンが俺の肩に手を添えてくる。

「師匠。私、ウォウさんに会いたいです。もしかしたら、稽古を着けてくれるかもしれないですし」

「そうだな……。行ってみるか!」

 ウォウは強面だったが、子供に優しく、面倒見が良かった。アリアに稽古を着けてくれる可能性は大いにある。そして、ウォウは剣士としても戦士としても俺より上だ。きっといい教えをくれることだろう。

「そうだな、行ってみるか!」


 「じゃあエレン。行ってくる」

「ええ、例え決闘になっても、死んでなきゃ治してあげるから安心して行ってきなさい……って、あなたの呪いも解呪できない私に言われても、説得力ないかもしれないけど、とにかく、やれることはやるから」

「ああ、ありがとう」

「アリアちゃんも、ウォウは脳筋だから、無理なことは無理ってちゃんというのよ。強面だけど優しいから、謝ればきっと許してくれるわ」

「何故か私がやらかすのが前提になっていますが、ありがとうございます。行ってきます」

 翌日、俺たちは教会から騎士団の詰め所へと旅だった。と言っても、王都は人工の割に狭い。特に教会や魔法研究機関なんかは近いし、王城と騎士団詰め所なんかも隣同士だ。まあ、王城で何かあったときに一番に駆けつけなければならないのは騎士団なので、当然と言えば当然なのだが。

 ものの十数分で教会から王城まで辿り着く。久しぶりの王城は、なんだか傷が増えたり、汚れが増えたりしているような気がした。

「わあ、これが王城なんですね。フーバー王国の王城とはまた違った趣がありますね」

 アリアは元フーバー王国の王女なので、王城……というか、城というものに関心があるのかもしれない。

 しばらくアリアの好きにさせて辺りを散策していると、槍を持った軽装の兵士。衛兵に呼び止められた。

「貴様ら、何をウロチョロしている!!」

「ああ、悪い悪い。お城が物珍しくて、ついな」

 俺がそう言うと、衛兵は気をよくしたのか、饒舌に語り出す。

「そうかそうか。まあ、サマー王国はこの辺りで一番の大国だし、この王城も立派な造りだからな。こんなところで働けて、俺も光栄だよ。だが、場内へは一般人は入れないぞ」

いい話の流れになったので、俺は紹介状を差し出す。

「紹介状があれば別だろう?」

「うん? 確かにそうだが……本物かどうか確かめさせてもらうぞ」

 衛兵は封蝋を見る。封蝋には何種類かあり、それぞれに意味がある。例えば王族だけが使える紋章だとか、御用商人の証だとかだ。中身を見られると不味いものを王家も取り扱う可能性があるため、この制度が生まれた。

「確かに、騎士団の封蝋で間違いない。通れ」

 俺たちがゆっくりと城門を通過すると、最後に衛兵が聞いてくる。

「あんたら、冒険者に見えるが、騎士団へのスカウトでもあったのか?」

 俺は振り返り、笑顔で言う。

「いや、ちょっと騎士団長に会いにね」

 衛兵は一瞬ポカンとしたあと、冗談だと思ったのか、笑って片手を上げる。

「そうか、まあ、せいぜい頑張れよ」

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