負けずぎらいな令嬢は、紳士に求婚したい相手がいると知らない

「意外ときちんとした令嬢になってたろ?」


 侍女のエリカを伴って上半身を微動だにせず、滑るように歩く妹の姿を見送りながらセオドアは傍の親友に言った。


「ああ、確かに、表情をあからさまにせず、俺に対する言葉遣いも "再会した兄の友人" にふさわしいね」


「母上が仕込んでらしたな、来春にはデビュタントだ。あのお転婆をどうにか形にしなくてはと」


 レジナルドは苦笑して、遠い目をして言う。

「お陰で大人しくなってしまった、ガッカリだ」


 肩をすくめて、セオドアはレジナルドに尋ねた。

「きみはロッティに何を求めていたんだよ? 結構じゃないか。中身はともかく、どこに出しても恥ずかしくない娘になったろ」


 シャーロットは生まれながらに人形のような可憐さの外見を持ち合わせていた。

 蜂蜜色の柔らかな巻き毛、青灰色の瞳は白目に対し比率が高く、血色を薄く透けさせる透明感のある肌。

 派手な美女ではないが、全体の印象がまとまっていて、齟齬がない。

「女の子らしさ」を煮詰めて固めたような、幼い頃はビスクドールのような見た目の女の子だった。


 成長するに従い、手足も首もすんなりと伸び、ますます人形めいた姿に成長した。

 背はそこまで低くないのに、頭が小さく骨格が華奢なせいで小作りな印象を抱かせる。

 細い骨組みに筋肉を感じさせない肉体は、見るからに柔らかそうで、男女問わず見た者が手を伸ばしたくなる魅力があった。


 その外見に反し、発言がおとなしやかではないのが一家の懸念だったが、どうにか取り繕える程度に中身も成長した......という訳だ。


 しかし、レジナルドにとっては昔のままのシャーロットの方が魅力があった。


「自由で負けん気の強い女性と結婚すれば、我が侯爵家の理不尽に心折れず革命を起こしてくれるかと昔は期待してしまっていたけど......馬鹿げた考えだったな。そんなに都合良くはいかない」


「別の道をもう決めたんだろ、求婚の準備がいよいよ整ったんだ。今更言うことじゃないさ」

「そうだな......三年かけて準備したんだ、彼女に求婚するため。先に進まなくては」


 レジナルドは少年時代に世話になったウッドヴィル伯爵夫妻に挨拶と今後の話をするため、親友と共に城の中へと歩んで行った。


 +++


 少女時代の憧れの王子様には、すでに心を決めた女性がいること。

 求婚の準備は整っていること。

 シャーロットは知らず、まだ幼い頃の夢と現実の狭間に微睡んでいた。

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