権力闘争の開始

時刻は午後の2時半、時計を確認した日本銀行営業部長の大山は、自身のデスクから立ち上がると、退社する前に一度、田中のデスクへと立ち寄った、「お疲れ様です、」大山に気がついた田中は小さく会釈をした、「田中、今何やってるんだ?」大山は真面目な目付きで田中のパソコンに目を向けた、「え~と、今は私が担当しているOASISでの今後の事業計画について資料を纏めている所でして、」  「そうかぁ、………田中今日は確か定時で帰ると言ってたな?」  「えぇ?、ですがどうしても今日中に終わらせておきたい案件が御座いまして」 するとその時、優しく大山は田中の両肩を叩いて囁いてきた、「たまには休息を取ることも仕事の一貫だぞ田中、今日はもう帰って、後の計画書は私がやっておくから、」そう言うと大山は微笑みながら田中の背中を優しくぽんっと叩き、田中に退社させるよう促した、「ありがとう御座います部長、では、今日はお言葉に甘えさせて頂きます」 「うん、お疲れ様!」 大山は優しく田中を見つめながら、社内へと出ていく田中を見送った、田中の姿がほぼ見えなくなった頃、その瞬間大山は、周囲を確認しながら急いでマウスを手にすると、田中のパソコン内にある一つのファイルをクリックした、やがて大山は田中のパソコンを閉じると、こッそりUSBを抜き取って自身のバックの中へ入れると、足早に社内から立ち去っていった、「お疲れ様、、、フフッ」。




二時間後、大山は日本銀行から少し遠く離れた道路に立ち尽くしていると、一際目立つ黒いセダンの外車が大山の前に止まると、助手席の窓からゆっくりと運転手が顔を見せた、一度会釈すると大山はすぐさまセダンの助手席へと乗り込んだ、「お待たせしました、例のファイルです」そう言うと、大山はバックの中から田中のUSBを運転席に座る男に手渡した、USBを手にした男は、大手リゾート会社の重鎮である大村虎太郎であった、大村はすぐさま後部座席に置いていた自身のパソコンを手に取り起動させると、田中のUSBを取り付けた、「御苦労だったな大山、次の人事では希望の部署へ移動できるよう上層部に連絡しておこう」大村は目線を合わすことなくそう発言した、しかし、自分とはかなり年下である大村のそんな冷たい態度を受けながらも銀行員である大山に取って昇進のチャンスとは、それ程嬉しいものであった、大村は無表情な顔付きで田中のUSBに入ったファイルを漁っている、やがて大村はふと気になった一つのフォルダをクリックした、「フフッ、なる程な~、これを手玉に取るか、」大村は嫌な笑みを浮かべながら田中のUSBを抜き取り、大山に返却した、何を考えているのかわからない大村の表情に困惑しながらも大山はUSBを再び受け取ったのだ。





「ホープ自動車の不正を探って、千石社長を辞任させる。と言うことですよ、明星代表」 夜の8時、明星は取締役室の窓の外を眺めながら、昨日の会話がずっと耳に染み付き、どうにかこの頭を悩ませる迷いを、夜の町を眺めながら払拭しようとしていた、サミットの期間が刻々と迫る中、この月で建設事業の決議を行われなければ、グローバル施設の完成が間に合わなくなってしまう、明星は深く目を瞑ると、意を決したかのように社長室へと歩き始めた、「コツコツ、コツコツ!」足早に廊下を歩き、やがて蝉のいる社長室の前に来ると、素早く二回ノックをして、社長室へと入った、「蝉、大事な話がある」扉を閉め蝉のいるデスクへと顔を上げたその時、蝉は誰かと電話をしていた、蝉は明星にその場で静かにするようジェスチャーをしながら、受話器を握りしめて相槌をうっていた、「はぁ……」タイミングが悪いことにさっきまであった明星の覚悟が薄れ、通話が終わるまでの間に、明星は社長室の周りの様子をゆっくりと歩きながら見渡していった、事務所時代の時に使用していた、懐かしのソファと、当時場違いのように感じていたガラステーブルも今や様になった様子で置かれている、そして蝉のデスク後ろ端の床に置かれたままの、謎に包まれている金庫も変わらずその場にあった、「はい、では又後程お願いします」やがて通話が終わると蝉は疲れた様子で一息つきながら受話器を戻した、「電話の相手は誰だったんだ?」  「例の千石社長からや、今度開かれる懇親会に出席してくれやとよ」 その発言に明星は動揺を見せた、「是非明けっちにも出席してくれやとも言ってたで」 

「その事で話があったんだ蝉、もう時間が無いことはわかっているよな、残念だが俺は、恩に報いる事は出来ないと思っている」   「ほな建設事業は白紙に戻す言うとるのか、」明星は口を噛み締めながら答えを話そうとしたその時、「時間はまだ残ってる、もう一度懇親会であってから決めようや、明けっち」頭を悩ませる明星の負担を減らそうと蝉はそう発言した、「……うん、そうだな、また会ってから決めることにしよう」





一週間後、千石が招待した懇親会に明星と蝉はしっかりとしたスーツを羽織ながら、開催されるパーティー会場へと足を運んでいた、会場内には、流石の千石社長による影響力は凄まじく、様々な業界の重鎮達が顔を揃えていた、「本日はホープ自動車創業80年を祝う席にお集まり頂きまして、皆様誠にありがとうございます!」 盛大な席の渦に巻き込まれながら明星はワインを片手に持ち、壇上に立つ千石に視線を向けていた、千石は微笑みながらスピーチをする社員に目を配っている、千石との縁を切ればどうなるのか、明星は身に染みて感じていると、突然背後から何者かが、明星の肩を優しく叩いてきた、ふと後ろを振り向くとそこには、同じく片手にワインを持ちながらこちらを微笑む、若い男が立っていた、見知らぬ男に明星は嫌な気配を感じ取った、「すいませんが貴方どちら様です?」   「申し訳ありません、挨拶が遅れまして、なんせ偶然通りかかったところに明星様がいらっしゃったので」 そう話すと男はジャケットの懐から名刺を取り出した、「私、大村リゾート副社長の大村虎太郎と申します」 その名前に明星は思わず目を疑った、「大村…リゾート……」 するとその時、   「誰やお前は?」こちらに気がついた蝉が大村の前に立ち塞がってきた、殺伐とした緊張感がその場に漂い始めた、「大村リゾートが尾上と結託して内の島を買収しようとしていたの、知らなかったとは言わせんで、」 蝉と大村互いが睨みを効かせている、「まぁお互い立場を忘れて、話しでもどうですかな、それとも千石が許さないとか?」大村の言葉に明星は息を呑んだ。



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ライフ・フル・オブ・ライス たけ @Takesaku0001manabu

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