邪魔者

午前10時、明星は足早に社内の廊下を歩きながら会議室へと向かっていた、やがて遅れて会議室に入ると、既に部屋の中には、社長である蝉と、部長の高木、課長の松田等、役員達が顔を揃えて待っていた、「遅れて申し訳無い、」明星は颯爽とスーツを整えながら蝉の隣の席へと腰かけた、明星が座るのを確認すると、モニターの前に立つ松田は蝉の相槌を受けると、プレゼンをし始めた、「それでは始めさせて頂きます」 松田がプレゼンを話し始めるなか、蝉はこっそりと集中して提示されている資料を眺める明星に小さく囁いてきた、「また例の件で呼ばれたんか?」すると明星は松田に気づかれないように蝉に応答した、「はぁ…ここ最近になって千石からの連絡が多くてな、さっきも融資金が必要だからって、早く見返り金を差し出すようにだと」  「明けっち、正直言うて内の会社も、今千石に金が回せる程の余裕はないで」   「あぁ、そんなことは端からわかってる」明星は険しい表情になりながら再び資料を見直した、「今回の新たな新建設プラン、瀧川社長からも賛同は受けています、是非とも検討の程よろしくお願いいたします!」やがて松田によるプレゼンが終わると、明星は目を瞑りながら深く二つの問題を頭に悩ませていた、一つは資金面での問題である、瀧川社長が受け持つ建設会社は以前明星がコンサルタントとしてお互いに利益のある関係を構築しているものの、一刻も早く利益を出さなければ行けない状況であるため、多額の資金をかけて、一か八か掛けてみるか、リスクを回避するかの選択が迫られ、そしてもう一つの問題は数日前の事であった。





その日は夕方の時間、明星は高級和食屋にて、先客のいる個室の席へと廊下を歩いていた、「お連れ様が来られました、」明星を前で案内していた若い秘書の男は、個室の前へと着くと、襖を開ける前に一度そう言うと、素早く襖を開いて明星を中へ促した、明星は緊張した様子で個室の中へと入ると、そこには高級なジャケットを脱いで、スリーピースを羽織って座り込む一人の官僚の男が個室にいた、「お待ちしてました明星さん、私、首相補佐官の佐々木と申します。どうぞそちらに腰かけてください、」 官僚の佐々木は柔らかな表情の笑みを見せながら明星を座席へと促した、やがて案内をしてくれた秘書が個室から退席すると、二人のだけの空間となった、「あの今日呼ばれたのは?」  「まぁ、そんなことより、今日はご足労頂いたので、どうぞ呑んでください」明星の問いかけにすぐに男は応えず、テーブルに置かれていた日本酒を手にとって明星の酌へと注いできた、明星は促されるまま、日本酒が注がれた酌を片手に取り、静かな空気で乾杯を交わした、しばらくの酒の席では淡々とした世間話が続いていると、瓶に日本酒が無くなったタイミングで、佐々木は等々明星に本題を話し始めた、「実は明星さん、今月日本で開かれるG7サミットにて、是非とも会談が行われるまでの間に、日本の美しい海を各首脳人にも知って貰うために、明星さんが現在開拓を進めいらっしゃいる、あのリゾート地で!新たに海外とも繋げることが出来るグローバル施設の建設を是非ともお願いしたい。」

「それは、首相からのお願いと言う事でしょうか?」   「まぁ、検討して頂けることでも宜しいですので…」そう話すと、佐々木は酌にまだ残った酒を飲みほして店員を呼び出した、その時明星はまさかの大きな事業を国からお願いされたことに、大きな不安と興奮が入り交じった、複雑な心境へと立たされた。




夜の8時、明星は自身の会社OASISから退社すると、蝉と高木、そして久しぶりに会うことになる銀行員の田中を呼び出して、高架下にある焼肉店で外食をしていた、「国からのお願いちゅうことなんやから、事業は進めた方がいいんやないか、明けっち?」  「そんな簡単に事は進められないんだよ世の中は!」 テーブルへと運ばれてきた二人前のハラミを七輪の上に乗せて、焼き上がるのを待つ間、二人は軽い口論をしていた、「何やねんさっきから、俺達はあの無人島を手にして大企業にまで上り詰めて行こう言う所で、こんなところで足を踏みとどまってては、いつまで立っても千石に支配される中小企業のままやで」 

「ちっ、俺はただ余りにもリスクが多すぎると言うとるだけだ!」 お互いに意見がぶつかり合いながら酒の勢いはどんどんと増していこうとしている、そんな時、まだ酔いが薄い田中が二人の口論に一言割って入ってきた、「こんな調子が続くなら、いっそのこと千石とは契約を切ると言うのはどうなんでしょう?」  その発言に思わず明星は口に含んでいたビールを吹き出した、「おい!俺の服にかかったやないかい!」明星は咳き込みながら田中に忠告するよう口調で応えてきた、「そんなことしたら、内の会社一気に潰れてしまうぞ、大体、ここまで来れたのも千石のいるホープ自動車のお陰なんだぞ!恩を仇で返すようなもんだ」 すると、それまで黙っていた高木が一つの提案を明星に提示してきた、「なら、あえてホープ自動車の方から縁を切らせるようにしたらどうですか?」 高木のその鋭い目付きに明星と蝉は釘付けになった、「つまり、それは…」   「ホープ自動車の不正を探って、千石社長を辞任させる。と言うことです」 予想だにしない高木からの提案に、明星は更に頭を悩ませ始めた。

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