代表取締役

第二部


 

意を決して明星は、オフィスの扉を勢いよく開いた、そして中へ入ると、明星に気がついた社員達が一斉に明星へ挨拶を交わし、明星の元へと駆け寄ってきた、「おはようございます代表、こちら今朝の売り上げ状況です」 「代表、エントランスで、代表に用件があると言う方がお出でですがどういたしますか?」 明星は颯爽と歩きながら社員の話に耳を傾け応えていった、まず最初にリゾートの売り上げ状況を記したレポートとを受け取った、「先週よりも、売り上げは伸びてきているな、この調子で頼む」   「はい!」

そう応えるとレポートを明星から戻し下がっていった、「代表、エントランスでお待ちの方は…」

「恐らくメディアの人間が来たんだろう、五分後に行くと伝えてくれ」 「わかりました」 明星は一切足を止めることなく的確に社員達に応え、そのまま本部長のいるオフィスの中へと入っていった、「ガチャン、」扉が開くと、本部長である高木が明星が入ってきたのに気がつくと、座わっていたソファから立ち上がり頭を下げた、「おはようございます、明星代表、」ふと、隣のソファを振り向くと、そこには見知らぬ女性が座っていた、「あぁ、こちら観光雑誌の…」 「初めまして、編集長の田原と申します、」 田原は高木の話を遮ってソファから立ち上がり、真っ先に明星の元へ名刺を差し出してきた、明星は気になる様子で受け取った名刺を目にした、「ルルラトラベルの編集長さんですか、私、OASIS代表取締役の明星と申します」 明星は丁寧な口調で向かい合う田原という女性に自信の名刺を差し出した、ルルラトラベルは大手観光雑誌でもあり、日本の以外での観光スポットを紹介するなど、知名度の大きい雑誌社でもある、「ところで、今日お越し頂いた用件というのは?、」明星は田原をソファへと誘導しながら、高木の隣へとソファに座り込んだ、「まさに今、話題となり始めている、このリゾート地へ、私どもの雑誌に是非掲載させて頂きたいと思いまして」   「おぉ!、それはありがたい話じゃないですか、明星さん」大手雑誌と言うこともあり、高木はこの提案に喜びの表情を見せた、「経営が始まって僅か五ヶ月で、このような話が来るとは、驚きましたよ、……宜しくお願いいたします」 明星の応えは、田原の期待どおりの応えであった、「それでは早速、詳細についてお話したいと思います」。






午後8時、明星はいつもより早い時間で会社から退社すると、自信が運転する軽自動車は自宅に帰宅すること無く、とある駅前ビルの地下駐車場へと入っていった。30階、高級フレンチ店、明星はエレベーターが開くと着替えてきたスーツを改めて身に整えながら、高層ビル内に店舗を置くフレンチ料理店へと入店した。

「ご無沙汰しております、明星です。」 店内には既に、窓の外を一望できるテーブルでフレンチ料理を口にする千石がきていた、千石は一度明星に気がつくと、まだ口の中にある食べ物をワインで流し込み、話しかけてきた、「昼にテレビで見たぞ、どうやら反響は良いみたいだな、」  「えぇ、ありがたい事に、出だしは順調です」 明星は腰を低くしながら千石に応えた、「立っているのもあれだからな、座ってくれや」すると店の従業員が椅子を用意して、千石の座るテーブルへと持ってきてくれた、明星は一度会釈をし、席へと座り込んだ、「そういえば高橋さんは今どうなさっています?」  「あぁ、高橋なら何とか不起訴処分に終わって、未だ内で働いて貰っている、まぁ~尾上の件もあって見逃してくれたんだろう」 明星はふと、あの時こちらを睨み付けていた女将の恐ろしい目付きを思い出し、寒気を覚えだした、「それは、良かったです」 すると千石はグラスを手に持ち、残っているワインを飲み干すと、店員に再びワインを注文した、「明星、例の件は未だ覚えているな?」  「例の件?」とぼける明星に千石は思わず突っ込むように言いかけた、「売り上げの半分は、俺に回ってくるていう話だ!、まさか忘れたとは言わせないぞ」

千石は強い目付きで明星の方を見ている、明星は少し困惑しながらも温厚に応えた、「えぇ、勿論覚えていますよ」 「君もわかっていると思うが、わが社はAIによる更なる自動ブレーキの開発に進みたいのだ、今のままでは開発資金が足りない、利益は早く渡すようにな、」 明星はせっかくの好調なスタートから突然釘を刺されたかのように、頭の中でモヤモヤとした悩みが募った、すると、先ほど千石が注文したワインがテーブルへと運ばれてきた、「ブー、ブー、」タイミングが悪いのか良いのか、バイブにしていた携帯から、着信がかかってきた、「すいません、電話がきまして」   「構わない、」千石はそう言うと、テーブルに置かれた新しいワインを堪能し始めた、明星は席から離れると、すぐ電話に応答した。





二日後、明星は母親の入院する大学病院へと訪れていた、母親は六年前にステージ3の膵臓がんを患い、手術のお陰で一次は回復していたものの、今年に入ってから再びがんは肝臓へと転移しており、入院を余儀なくされていた、明星は担当の医師と話をしながら、母親のいる病室へと向かっている、「大変言いにくい話ではあるのですが、お母様の様態は深刻な状況です、」   「先生、母はあとどのくらいまで生きられる事が出来るのでしょう?」 すると医師は険しい表情を浮かべながら明星に応えた、「例え、肝臓がんを摘出出来たとしても、数年後には、肺やリンパ節、副腎、脳、骨などに転移することがあります、奇跡が起きれば三年までは長生き出来る可能性はあるでしょう」 そう会話をしていると、母親のいる病室の前へと到着した、「ガラララ、」医師がハンガードアを開けると、病室の中にはベッドで横たわる母親と、二日前に連絡をしてきた妹の未紗希がいた、「道心……やっときたよお母さん」 未紗希は明星がいるのに気が付くと、呆れさと、嬉しさが入り交じった表情で母親にそう話しかけた、母親の顔はカーテンで見えない、明星は緊張しながらゆっくりと母親の近くに歩いた、「母さん、随分と遅くなりました」 カーテンに囲まれたベッドの奥には、以前見た時とはガラッと変わった、痩せ細った病弱な顔つきで明星の顔を見上げていた、「道心…道……心…」しかし、かなり弱りきっているのにも関わらず母親は、明星だとわかると、とびきりの笑顔を見せてきた、「母さん、」明星は思わず涙を堪えながら細い母親の手を握り締めた、「お母さん、お兄ちゃんがこれない間ずっとこれ見てたのよ」 共に母親を見つめる未紗希はそう話すと、ベッドの横に置いていた未紗希のバックから、とある新聞の記事を取り出すと明星に手渡した、「何だ?新聞、」明星は疑問を浮かべながらその新聞を開くと、そこには、OASIS設立によるリゾート運営が開始された当時の記事が記載されていた、「これって?」 「立派な事をやり遂げているって、お母さんずっと自慢ばかりしていたわよ、」

その妹との言葉に明星はすぐに新聞を置いて母親の方を振り向いた、すると、母親は小さく明星に何か囁こうとしているのに気が付いた、「母さん、」 明星はそっと母親の顔に耳を近づけた。

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