本当の始まり

二日後の朝、日本銀行内では、朝早くから頭取室へ常務の尾上、専務の石岡、そして田中、副頭取の槻岡が室内に集まっていた、尾上は頭を下げ不安げな様子を浮かべながら頭取の顔を覗き込んだ、頭取は呆れた表情を浮かべており、グッと心の中で怒りを抑え込んでいるようにも見えた、「君の犯した問題は、銀行員として失格だ、銀行は信用されているからこそ成立できる機関なのだぞ、」   「大変申し訳ございません、」尾上は頭取の言葉に言い返す事が出来ず頭を下げるだけであった、その時、頭取室の扉が突然開き、廊下から黒のスーツを身に纏った警視庁の捜査員達が一斉に中へと入ってきた、すると先頭を歩く一人の刑事が尾上の前へとやって来た、「警視庁の赤星です。尾上常務、不正融資の件で逮捕状が出ている、署まで御同行を」そう話すと別の刑事が後ろから逮捕状を目の前で見せつけてきた、赤星はするどい目付きで尾上の顔を見つめながら、手錠を取り出すと、尾上の両手首に手錠をはめた、「行くぞ、」後輩の刑事にそう言い放つと、尾上は複数の刑事達に連れられて、頭取室から出ていった、彼らが去った後の頭取室は殺伐とした空気が流れ込んだ、頭取は険しい表情で席へと居座っている、そんな時、窓の外を見つめた専務の石岡が口を開いた、「頭取、外でマスコミが群がっています、どういたしますか?」 すると、深くタメ息を吐きながら席から立ち上がった、「全責任は私一人だけにある、」頭取はゆっくりと歩きながら副頭取の槻岡の前へと来た、「後は…任せたぞ!」槻岡の両型を握りながら頭取はそう告げた、槻岡は応えることなく黙り込んだまま、頭取室を去ろうとする頭取の背中にあたまを下げた、田中も計り知れない罪悪感を抱えながらも静かに頭を下げた。


 


日本銀行前へと辿り着いた、赤星達率いる警視庁の刑事達は、入り口から出ると、外には大量の取材班でごった返していた、「今回の事件について何かコメントをお願いします!」 「責任はどう取るつもりでしょうか!」

激しく飛び交う記者たちの質問と、カメラマンのシャッター音が、その場に響き渡っている、赤星はパトカーを塞ぐマスコミを遮りながらどうにか、尾上をパトカーへと乗せれた、やがてパトカーの助手席へと座り込んだ赤星は、パトカーが現場から走り去る間、車内の中にいても追求を続ける記者達のを方見つめた、その光景を遠くの現場から覗いていた明星は、ふとポケットに閉まっていた携帯から着信が鳴っていることに気がついた、電話の相手は蝉からであった、「もしもし、何かあったか?」。







「どういう事だこれは!、ふざけるなぁぁ!」マスコミの火の的となっているのは銀行だけだはなかった、社長室でテレビの中継を見ていた大村社長は、警察に連行される尾上の映像を見て強く激昂していた、「社長、マスコミが外に押し寄せています!」 女性秘書の天岸は気が動転する大村を冷静な態度で状況を報告した、大村はガラステーブルに置かれたグラスを強く握り締めながら

、天岸の報告を耳にした、「情報は、誰が警察に漏らしたんだ?」すると、同じく社長室に居合わせ、ソファに座っていた大村社長の息子、大村 虎太郎が口を挟んできた、「未だハッキリとはわかりませんが、銀行内部の人間が警察に漏らしたと、考えられます」 天岸はそう応えると大村虎太郎は唇を噛み締めながら手を組んで、父親に提言し始めた、「父さん、大至急役員会を開きましょう。残念ですが計画は取り止めるよう連絡してきます」 そう話すと大村虎太郎はソファから立ち上がり社長室から出ていった、やがて数分後、社長室のテレビには日本銀行の頭取が会見を開く中継が流されてきた、大村社長は悔しさを滲ませながらその会見にじっと目を通した。






午後の1時、明星は蝉から呼び出され、待ち合わせ場所のとあるショッピングモールに内にあるカフェへと入った、明星は店内を一度確認するも未だ蝉はここには来ていなかった、コーヒーを一杯店員に注文し、商品を受け取ると、店内ではなくコーヒーショップの外に設置された座席へと座り込んだ、蝉が来る間暇をもて余した明星は、携帯を開くと、真っ先に日本銀行内の不正が露になったネット記事が流れ込んだ、そのネット記事に明星は一切触れることなく横へとスクロールした、その時、「わりぃ、遅くなってもうた」

ふと携帯から顔を上げると、そこにはこちらを見つめる蝉が立っていた、「急に呼び出して、どうしたんだ?」 すると蝉は明星の隣へと座り込んだ、「今回の件は、明けっちに感謝しかせぇへんな、まさか大鷹があんな事を考えてるとは、全く思いもせんかった」    「銀行からの審査はどうなったんだ?」   「あぁ、それやったら多くの支援金が集まったんで、上手くいったで!」 その言葉に明星は喜びの笑顔を見せた、「それは本当か!」 「あぁ、ほんまや!」すると固い握手を交わしながら互いに笑顔で笑いだした、ようやく訪れた穏やかな時間に浸っていると、蝉が一言明星に言いかけてきた、「やはり、今回の件で改めてわかったんや、会社を立ち上げる時、横には明けっちが必要なんやと、」   

「あぁ、わかったよ、蝉社長、」そう呟くと笑いながら明星は蝉の肩を叩いた。


リゾート開発が始まったのはその1ヶ月後、新しく社長に就任した瀧川の勤める建設会社の、白紙になっていた建設事業が改めて再始動し、リゾート地が完成するまでに二年間の月日が流れ、大まかなリゾート施設が完成に至っていた、しかし、建設事業は規模を拡大するため、事業は継続していた。

リゾート地となる無人島、そしてもう一つその本社はリゾート会社OASISと名付けられ、東京の中心部へと設立された、明星はオフィスの廊下を足早に歩きながら、社員達の待つオフィスへと向かっていた、「さぁ、本当の戦いはここからだ!」オフィスの扉に手をかざし、その場で一息吐くと、次の瞬間意を決して明星は扉を開いた。










「何故こんなとこになってしまったんだ?、あなたは優秀なコンサルタントだと、周りの人間からそう話していましたよ、」暗闇の中で照らされるスタンドライトから、僅かな光りの中に男の顔は映っている、取り調べをする刑事は、その異様な男の目付きに困惑な表情を浮かべている、「話題を変えましょう、あなたは会社が立ち上がる前に何度か、当時ホープ自動車の社長でもあった千石と、よく接触していましたよね、それは、銀行の不正を暴く協力者の仲であった筈です、何故、千石はあのような事になったのでしょうか?」 その刑事はじっと男の目を見詰めながら、当時の様子について男に問いかけた、男はしばらく記憶を思い出そうとしており、しばらく暗闇の取り調べ室には沈黙が続いた、すると突然男の表情が変わり、前のめりながらテーブルに肘を置くと、刑事に当時の事について話し始めた。


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