後悔

「早く離れろ!」その頃明星達のいる料亭では、尾上が千石、蝉を振り払って、携帯を覗く明星の背中へと飛び付いてきた、明星は突然の後ろからの重さに思わず、背中から和室に倒れ込んだ、その隙に尾上は明星の携帯を奪い取った、「通話の相手は誰だ!」尾上が携帯を手にした後に、慌てて千石と蝉は取り上げるよう尾上の腕に掴みかかり、その場は揉みくちゃと化した、ふと腰を痛めながら立ち上がろうとする明星の視線に映ったのは、さっきまでとは一変した柔らかい表情で眠りにつく高橋の姿が見えた、「さっさと離すんだ尾上!」  「携帯を取り返すんや!」その時、蝉は勢いよく尾上にタックルを繰り出すと、尾上はバランスを崩しながら近くの襖を再び突き破って、二人は勢いよく廊下へと飛び出していった、明星はすぐさま尾上から携帯を奪い返すと、瀧川からのLINEの返信が来ていた、「キャーー!、お客様!何をしているんですか!」 物音を聞きつけて駆けつけた女将が思わず腰を抜かしながら現場を目撃してしまった、「おい!不味いことになっちまったぞ明星、」千石は焦りを浮かべながら携帯を覗く明星にそう言いかけた、「千石さん、今誰がファイルを持っているのか、ようやく判明しました!」 その言葉に思わず千石は驚いた様子を見せた、「それは本当か!、一体誰なんだ?」すると明星は何故か困惑した表情で携帯を差し出してきた、千石は疑問を浮かべながらふと携帯の画面を覗き込んだ。


「この男が持っているのか?」千石はもう一度確かめるため明星に問いかけたその時、廊下に倒れていた尾上が隙をついてその場から逃げ出してしまった、「畜生、待ちやがれ!」急いで明星は尾上を追いかけようとすると、タイミング悪く料亭の従業員が廊下に駆けつけてきて足止めを喰らってしまった、「お客様、もう少しで警察が来られますので、逃げないでくださいね、」優しかった女将の表情は鬼のような殺気を放つ恐ろしい笑みを浮かべていた、明星は料亭を抜け出す事が出来ず諦めようとしたその時、「誰か助けてくれ!酒に酔っ払って殺されるぅぅ!」和室の奥から千石が助けを呼ぶ声が聞こてきた、「早く助けてくぇぇぇぇれ!」呼び声は更に激しさを増し、慌て従業員達は明星を遮り和室の奥へと走っていった、従業員が通り過ぎたその瞬間、明星は察知して隙間の空いた廊下を抜け出していった、騒がしくなる和室の方を振り向くと、和室の前には女将が立ち尽くし、こちらの方に気づいており、じっと自分の顔を睨み付けていた、明星は寒気を感じながらもその場を後にし尾上を追いかけていった。







その頃日本銀行前では、田中は足早に銀行から退社すると、銀行近くに待機している大鷹が乗る車の方へと向かっていた、夜分の時間であるため駐車場には数台の車両しか止まっていない、すぐに田中は大鷹の車を見つけ出した、「すいません、予定よりもかなり遅くなりました」  「証拠となるファイルはどうだった?」 大鷹はハンドルを握りながら助手席に乗り込んだ田中に問いかけてきた、「常務のパソコンには既にファイルが抜き取られていて、常務がファイルを転送したと思われる人物をずっと探っていました」    「クソ、尾上常務は先に把握してたのかよ」大鷹は険しい表情を浮かべながら車のエンジンをかけ始めた、「他に考えるとすれば専務、それか、他の銀行員しか、ありませんね」。

やがてクルマを走らせ駐車場を抜けようとしたその時、夜分にも関わらず一台の車が駐車場の中へと入ってきた、「こんな時間に入ってくるなんて、誰なんだ?」大鷹は疑問を浮かべながら出口の方へと向かおうとしたその時、中へと入ってきた車がまるで足止めをするかのよう左を曲がり車体を横へと向けて出口を封鎖した、「おい!どういうつもりだよ!」大鷹は思わず怒りを露にしてその車にクラクションを鳴らした、すると、前で封鎖する車の助手席から一人の男が降りてきた、車のライトによってハッキリと姿が見えない、その数秒後、遅れて運転席、後部座席からもう二人の人間も車から降りてくるのが見えた、動揺を隠せずにいると突然大鷹の携帯から着信が鳴り始めた、「田中君、こいつら何者なんだ?」 そう言いながらふと田中の方を振り向いた、「まさか、常務に探っていたと張れたのかもしれません!」田中も激しく動揺した様子であった、やがて最初に車から降りてきた人間がこちらへと近付いてきた、「コツ、コツ、コツ、」 その男の正体は、疑惑を疑われている専務の石岡であった、「石…岡…専務、どうしてここに」田中は頭を抱えてシートに背中を倒した、すると、着信が切れてメッセージに切り替わった音声が流れ始めた、「素性の知らない男から情報が漏れた、すぐにファイルを私のデスクに転送するんだ!早くしろ!」

「ハッ!」大鷹は急いでその携帯の電源を切った、「瀧川社長!、それと明星さんでしたっけ?、やはりまだ居ましたよ!」 石岡かそう呼び掛けると明星は足早に運転席へと座る大鷹の方へと向かっていった、やがて辿り着くと、大鷹は困惑した様子でこちらを見ていた、「お前が協力者だったとはな、まさか、思いもしなかったよ」

その明星の発言に横に居た田中は驚きを隠せなかった、「どういう事ですか?大鷹さん!応えてください大鷹さん!」目を瞑り黙り込む大鷹はグッと携帯を握り締めていた「始めからファイルを持っていたんですね、あなたが」やがて大鷹は諦めた様子で車から降りると、明星は裏切られた怒りから大鷹の襟に掴みかかった、「どうして…どうしてあんな男に協力なんかしたんだ!」

明星は怒りのままに怒号を大鷹に言い放った、大鷹は蒼白した表情で小さく口を開き始めた、「本社に……協力すれば、もう一度銀行に戻れると言われたんです、私は以前大きな過ちを犯して、銀行員という職を剥奪されました、こんなことでもしない限り、戻れなかったんですよ!!」 

「尾上は不正に癒着関係から抜け出させずにいた、それをお前は庇おうとしてたんだぞ!」 すると大鷹は後悔を浮かべながら膝から崩れ落ちてしまった、「ファイルは、間違いなく送られてある筈だ、」   「ありました!」助手席に座っていた田中はシートに置かれたままの携帯を見つけると、再び起動させてファイルを見つけ出していた、「石岡専務、情報をありがとうございました、」二人の方を眺めていた瀧川は、尾上と大鷹が裏で繋がっていたことを近くで見ていたと言う情報を伝えてくれた石岡に感謝を告げた、「まさか、あの融資が癒着であったなんて、田中には申し訳ないことをしてしまった、ゲフ、」石岡はまだ酒が抜けきれていない、「明日は間違いなく二日酔いですよ瀧川社長、」そう言うと頭を抑えながら石岡は助手席へと戻っていった、「このファイルを警察に提示すれば、尾上はもう時間の問題だろう。



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