決断

「初めまして田中 盛太郎と言います。」そう言うと田中は二人に向けてお辞儀をした、ソファに座り込む蝉と大鷹は困惑しながら田中にお辞儀を返した、「あの~明星さん、こちらは何方ですか?」大鷹は気まずそうな表情を浮かべながら再び問いかけた、「まぁ、急にで困惑するのは無理もない、田中は日本銀行に勤めている銀行員だ、」  「よろしくお願いします、」明星と田中はソファへと座り込むと颯爽に訳を話し始めた、「銀行員ちゅうことわ、俺達に融資してくれる言うことか!?」  「いや、融資はまだだ」

 「何や違うんかいな!、ほな何でここにおるんねん?」 更に頭が混乱してきている蝉に対し、田中は持ち運んでいたトートバックの中から、ファイルに閉まわれた資料を蝉の前に提示した、「あの島を買収しようとしている大村リゾートの大村社長は、日本銀行の現常務である尾上との間に秘密裏の癒着関係がある!」 大鷹と蝉は食い気味るように耳を傾けた、「その二人はどうやら学生時代の間柄で、不正に多額の資金を受け取っている、」その明星の話からふと、二人は横に座る田中の方に視線が向けられた、「まさか、」  

「尾上常務の不正が世の中に出れば、大村リゾートの信用性が無くなり、そしてあの島を買収されずに済むことになる!」   「ほ…ほ…ほんなら!田中君が週刊誌に漏らせば、」

「いや、それだけならただ揉み消されて終わるだけです、確かな証拠が無ければ尾上を引き摺り下ろす事は出来ません」  「ならどうするんや?」     

「田中は直接と言っていい程尾上の不正に携わっている、不正に大村リゾートへ資金を流している事がわかる記録は、尾上のパソコンにある筈だ、」  すると突然大鷹が明星の話を遮り疑問を投げ掛けてきた、「申し訳ないが、この問題は彼にしか託すことが出来ませんよ、我々にはどうすることも出来ない」   

その大鷹の疑問に明星は首を横に振った、「尾上を引き摺り下ろす為には、どうしても協力者が必要だ」明星は鋭い視線で蝉の顔を見つめた。








ホープ自動車前、明星は蝉を連れてもう一度千石の元へと訪れようとしていた、気合いの入る明星に対して、蝉は自信なさげな様子であった、「よりによって何で俺なんや!」   「お前は事務所の社長だろう!もっと責任感もてよ」

「ホープ自動車とは格が違いすぎるんや!よりによって大鷹は!」 明星は呆れながらも蝉を連れてホープ自動車のエントランスへと足を踏み入れた。

一時間後、二人は受付が終わって長らく社長室前の廊下に置かれていたシートに座り込んでいると、ようやく社長室の扉が開き、室内から男性秘書が二人の前に姿を見せた、「お待たせしました。どうぞ中へ、」そう案内されると二人は緊張した様子でシートから立ち上がった、「失礼します。」 明星は威勢よく中へ入ると、社長室にいた千石はコーヒー片手にソファへも垂れ込んでいた、「どうぞ、こちらに腰掛けて下さい」 千石は硬い表情を浮かべながらも、丁寧な口調で二人にそう呟いた、ひとまず二人はソファへと座ると、明星はすぐに初めて会う蝉を紹介した、「こちら代表の蝉 靖美と言います。」 明星に紹介されると蝉は緊張を隠しながら低く頭を下げて挨拶した、ふと蝉は頭を上げて千石がどのような表情をしているのか気になり、千石の方に目線を向けると、蝉は我々に興味が無いのか、社長室の窓ガラスに千石は視線を向けていた、「こんな男、信用できへんちゃうか?」蝉は心の中でそう呟きながら苦笑した笑みを明星に見せた、明星は戸惑いを隠せていない蝉の様子に困惑しながらも、千石にホープ自動車を再び訪れた理由を話そうとしたその時、千石から思わぬ言葉が飛び出してきた、  「投資してやる、」  「え、え!?」明星はまさかの発言に一瞬頭が真っ白になってしまった、「事情はそこにいる秘書から聞いた、大村リゾートと言う大企業と尾上常務が密かに結託しているのだろう、だが生憎俺も尾上がどうしても邪魔でな……お前達が立ち上げようとしている株式に、協力してやるよ、」  「本当ですか千石さん!、ありがとうございます!」 明星は嬉しさを隠しきれない様子でその場から立ち上がり頭を下げた、それに続き慌てて蝉も千石に頭を下げた、「正し、一つ条件がある。」 すると突然千石の口調が変わった、 「それは何でしょう?」

「儲けの半分は俺が頂く、それに納得さえすれば俺は手を貸すぞ、」 その発言に二人は動揺を隠しきれなかった、「儲けの半分ですか? 」 戸惑う明星に、蝉はグッと明星の手首を掴んだ、驚いた明星はふと蝉の方を振り向くと、蝉は険しい顔で首を横に振った、「どうする、明星?」 千石からの鋭い視線が明星に向けられている、必死に明星は頭を悩ませた、「利益はほとんど千石に取られるかもしれない、でもこのままでは、計画自体白紙になってしまう」明星はじっと目を瞑り決断を下した、「わかりました!」その発言に千石は頷くと共に、蝉は慌てて明星を呼び止めようとした、「ちょっ、ちょ待てや!正気か明けっち!?」 明星は覚悟を決めた目付きで蝉の方を振り向いた、「俺は正気だ、千石さん条件は呑みます、」 すると千石は笑みを浮かべながらソファから立ち上がると、二人に手を差し出した、「尾上と大村社長を引き離すぞ、明星さん、蝉社長、」そう話すと、二人は再び立ち上がり千石と固い握手を交わすのであった。

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