巨大な敵

数日後、小笠原諸島の海へ長らく、船に揺られながら蝉と大鷹は例の無人島へと向かっていた、しばしの間、大きな波による船の揺れに目を瞑りながら耐えていた蝉であったが、大鷹の突然の呼び掛けによって蝉は俯きながら目を開けた、「靖美社長!ようやく見えました」 蝉はゆっくりと手すりに掴まりながら船上に立ち上がると、目線の先に映ったのは、画像で見ていたあの無人島を青い海で囲んだ美しい景色であった、「待ちくたびれたで、フフン」蝉は興奮をグッと抑えながら、船が無人島へと到着するのを待った。


一時間後、ようやく二人を乗せていた船は、目的の無人島へと到着した、蝉は動きやすいシャツと短パンに着替え、勢い良く砂浜へと飛び降りた、「へへ、久々の地上や!」   「ほんの数時間前ですけどね、」一方の大鷹はこの場所には似合わないスーツの状態で船から降りてきた、「他に無かったんかいな、着替えは」 大鷹は革靴で砂浜を歩きにくそうにしている、「急遽予定が入ったので、これしか用意できませんでした…あぁ畜生!砂が入ってきたぁぁ!」 蝉は困惑しながらも、ふと改めて周りの景色を見渡すと、無人島ならではの美しい海に囲まれた絶景がそこにはあった、「俺は何としてでもここにリゾート地を建てるんや、」蝉はそう心に誓いを立てていると、ふとある事に疑問が出始めた、遠くの砂浜で何故か幾つかの足跡があったのだ、ついさっきまでここは誰もいない無人島であった筈なのに、幾つもの足跡があると言うことは、何物かが既にこの無人島へと訪れているということだ、「社長、何かあったんですか?」  蝉は険しい表情を浮かべ大鷹に告げた、「俺達以外に誰かいるで、」

すると大鷹も遅れて足跡があることに気がついた、「社長、今すぐ確認しましょう、恐らく東の方に向かっている筈です!」 二人は確認の為に足跡の先へと歩き始めた。





その頃明星は、ホープ自動車との交渉が決裂した後も、他の投資家へ手当たり次第に当たりに行っていた、「明星さんには昔、よくお世話になりましたから、協力致しましょう、」

「本当ですか!齊藤さん、」 その頃明星は、ホープ自動車との交渉が決裂した後も、他の投資家へ手当たり次第に当たりに行っていた、「明星さんには昔、よくお世話になりましたから、協力致しましょう、」    「本当ですか!齊藤さん、」 明星は驚きを見せていると、齊藤は明星に手を差し出してきた、明星は笑みを浮かべながら嬉しそうに握手を交わした、「ですが明星さん、申し訳無いのですが私にはこれ程の金額でしか差しのべられないのですが、」 申し訳なさそうにする齊藤の表情を押し退けて明星は首を横に振りながら感謝の言葉を掛けた、「いえ、私には協力してくれることだけで感謝しています齊藤さん!」 明星はようやく来た好機に嬉しさを噛み締めていると、ジャケットのポケットに入れていた携帯から着信が鳴り出した、「すいません失礼します」   「構いませんよ、」

明星は一度席から立ち上がり、携帯を開くと、電話の相手は蝉からだった、「もしもし」   

「明けっち、面倒な事になったで」 蝉はいつもよりも暗いトーンで話してきた、「面倒な事、何かあったのか?」    「明けっち、大村リゾート言う会社知ってるか?」

その名前に明星は一度耳を疑った、「その大村リゾート言う、大企業が俺達の無人島を先に売却しようとしてるんや!、そんなのされてみぃ、端から計画が白紙に戻されるんやで!」  

「待て蝉、さっきどこの会社と言った?」 すると蝉は苛つきながらもう一度売却しようとする会社の名前を応えた、「大村リゾートや!」

ふと明星は携帯を耳から離すと、数日前の記憶を思い出した、自分が駅のホームから飛び降りようとする銀行員の田中を助け出したあの日、田中が酒の席で話していた、常務と癒着関係にある会社、その会社の名前がまさに今蝉が口にした大村リゾートであった、「明けっち、どうにかせないとこの無人島が奴らに取られるで!」 蝉は電話の向こうで冷静さを失っていた、「大至急こっちに集まってくれ、大事な話がある。」  そう言うと明星は携帯を切った。






日本銀行社内、銀行員の田中は険しい様子で足早に廊下を歩く専務の石岡に着いて歩いていた、その時、二人の目の前から、部下を連れて階段を駆け降りてきた常務の尾上の姿が見えた、石岡はすぐに道を譲ると尾上が目の前に来る間に低く頭を下げ始めた、田中も慌てて石岡の横並びに頭を下げた、「悪いが今日の予定はキャンセルだ、大事な先客があるんでね、」常務の尾上は足早に歩きながら秘書にそう話している会話が聞こえてきた、するとその数秒後には、頭を下げる田中の目の前へを通りすぎていった、ふと田中は通りすぎる際に一瞬だけ尾上の目線を覗くと、尾上は鋭い視線を配りながらこちらを見ていた、その視線を見られた田中は、尾上が去った後にも、何故だか気が気でいられなくなった、「田中何してる、早く来い!」 田中は専務の石岡の呼び掛けによって我に戻ると、慌てて既に歩きだした石岡の後を着いていった。






二日後、中華料理屋近くの空き地へと運転していた車を止めると、すぐに明星は車のキーを抜いて車から降りた。

「いらっしゃいませぇ、」若い中国人女性店員の声と共に店内へと入ると、店の中は以前よりかは食べに来ている客の人数は少なかった、明星は薄く笑みを浮かべながら上を指すジェスチャーで女性店員に伝えた、すると女性店員は頷いて階段に繋がる道を開けてくれた、「こっちだ!」



やがて事務所の前へと到着すると、明星は二回ノックを繰り返し、扉を開いた、事務所内にはソファに座り込む大鷹の姿がすぐに見えた、「お久しぶりです明星さん、」大鷹はこちらに気がつくとすぐにソファから立ち上がり挨拶を交わした、「蝉はここにいないのか?」  「いや、事務所内にいた筈ですよ」  すると何か鍵が閉められる音が鳴ると、ソファで隠れていた蝉が立ち上がって姿を見せた、「ちゃんとここにいるで、」

そう応えると蝉は大きな金庫を持ち上げ事務所の端の方へと運んでいった、「その金庫に何が入ってるんだ?」明星は思わず気になって金庫の中身を問いかけた、「別に対したもん入ってへんは、この金庫にあるんわ、ただの紙切れや」そう言いながら蝉は金庫を置くと、そのまま大鷹の座り込むソファに座り込んだ、「それよりも、大事な問題があるやろ、」蝉の様子は、どこかの事業者に島を奪われてしまうのではないかと言う、焦りと苛つきが露になっていた、「あぁ、その事で二人に会わせたい人がいる」  「我々に会わせたい人とは何方ですか?」 大鷹は疑問を浮かべて明星の方を振り向いた、明星は一度応える前に、事務所の扉の方を振り向いて呼び掛けた、「出てきてくれ!」 「ガチャッ、」 事務所の扉が開くと中に入ってきたのは、銀行員である田中の姿であった、「初めまして田中 盛太郎と言います。」 



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