思惑
「グウワァァァ!」突然後ろからの大きな力によって、青年は思いっきり後ろのホームへと投げ出された、青年が背中から落ちた瞬間に、電車が勢いよくその場から通過していった、「はぁ~~焦った~!」明星は一気に力が抜けてその場からもたれ込んだ、青年は何が起きたのか理解出来なかったが、慌てて取り敢えず明星にお礼をした、青年はさっきまで自分が駅のホームから飛び出して自殺を図ろうとしていた記憶がなかったのだ、「あの、申し訳ありません、大変ご迷惑をかけまして、なんとお礼をしたらいいものか」 すると明星は苦笑した笑みを見せながら手を横に振った、「いやいや、心臓が止まるかと思ったよ!、どうして自殺なんか図ろうと思ったの?」そう明星が問いかけると、青年はとても驚いた様子で困惑していた、「僕…僕が自殺を!?、今日も仕事に追われてて、気がついたら貴方に助けられてて、」 ふと明星はその青年の目元を見ると、明らかに寝不足が続いていたと思われる、目蓋にクマが出来ていた、明星は咄嗟にその青年に言葉をかけた、「君、ちょっと付き合ってくれないか、」。
「失礼いたします、お連れ様が参りました」 老舗の高級日本料亭では、ホープ自動車の取締役千石、そして専務の高橋が緊張した様子で、個室の部屋で膝を組ながらとある人物を待っていた、襖から料亭の女将が丁寧にそう告げると、その数秒後、ゆっくりと腰を低くしながら待ち合わせの人物が、二人の前へ姿を現した、「随分とお待たせしたみたいだね、お二人さん」 「いえいえ、お陰さまで部下ともゆっくり話せる時間になりました、」千石は苦笑いを浮かべながら頭を低くした、千石が待っていたこの男は、日銀の常務を担わされている尾上という大物であった、尾上は上機嫌に畳みに置かれた座布団へと座ると、専務高橋はすかさず尾上に酒を注ぎ込んだ、尾上は笑顔で高橋に礼を告げると、千石の方を振り向き、酒が注がれたお猪口を差し出した、すると千石も慌ててお猪口を手に取り、乾杯を交わした。一時間後、しばらくの間たわいもない話が続いてると、ようやく千石は酒の力を使い意を決して常務の尾上に、長い時間をかけて練り上げていたプランについて話を持ち掛けた、「そう言えば尾上常務、以前お話しした、AIによる自動危険予測ブレーキ開発のプロジェクトに、どうかご尽力頂けないかと思いましてね、」千石は目線をじっと尾上の顔に向けながらゆっくりとお猪口をテーブルへと置いた、高橋は黙り込みながら食いぎみに聞いていた、一方の尾上は日本酒を気持ちよく飲み干しながら、耳を澄ましていると、ゆっくりと尾上もお猪口をテーブルへと置くと、尾上は突如鋭い視線で千石の顔を覗き込んだ、「千石社長、どうやらお忘れのようですが、ここ最近の経営状況につていてはどう考えているおつもりですか?」
千石は意を突かれたかのように、苦い顔で応え始めた、ホープ自動車は確かに自動車産業においてはトップクラスの実力があるものの、ここ最近で発見されたホープ自動車産の車両による事故が多発したことによる、整備不良問題の影響もあり、経営状況は低下傾向にあったのだ、「その事については、社内全体として意識調査を行い、様々な観点から経営を良くしていこうと模索しているつもりです、」 「千石社長もこの業界にいればわかるでしょ、リスクがあるものに関しては銀行は融資できないと、フフッ、」 その場は一瞬にして緊張感漂う危険な空気が漂っていた、「君には申し訳ないが、プロジェクトには今のままでは協力は出来ないね」 尾上常務は濁らすことなくハッキリと、そう告げたのである、「千石社長、ならどうすれば良いのか、わかっているね…」 突如尾上は鋭い視線を千石に浴びせた、「高橋!例の物を、」 すると高橋が持ち出して来たのは黒のキャリーケースだった。
その頃明星は、駅の地下に置かれた、とある居酒屋へと青年を連れて飲んでいた、初対面の人との突然の飲み会に青年は困惑しながらも、帰ることなく明星とのビールに付き合った、「!、そう言えばまだ君に名前聞いてなかった、」明星は少し酔いが入り始めていた、すると青年は一度ネクタイと、ジャケットを脱ぐと、テーブルに置かれたグラスを手に取った、「田中 盛太郎と言います!、明星さん、改めて助けて頂きありがとうございます」 そう言うと田中は勢いよくビールを飲み始めた、明星は田中の顔を見つめ笑みを浮かべながら、お互いがジョッキに入ったビールを飲み干した、「プハァ、ビールなんてここ最近全然飲みに行けてなかったので、やっぱりめちゃくちゃ上手いですね!」 田中は段々と明星との酒の付き合いに慣れ始めた頃、ふと田中は明星の顔を振り向くと、明星はどこか真剣な目付きを浮かべていた、
すると少し重い口調で明星は問いかけてきた、「どうして自殺なんか図ろうとしたんだ?」
その明星からの真っ直ぐな問いかけに田中はしばらく声が出なかった、一瞬の静寂の後、田中は重い口調で応えた、「自分は日銀の銀行員何ですが、ここ最近から、いわゆる上場企業に破格の融資を上司から任されまして、その融資の価格が当初の金額よりも多く融資されていたんです、」
明星は眉間に皺を寄せながら話を聞き続けた、「銀行が一つの企業にここまで融資を進めているのに、疑問が浮かんで、調べてみたんです。そしたら融資を受け取っている企業の社長は、我々が働いてる常務の元同級生だったとわかったんです、もしかしたら自分は知らない間に、大きな不正に関わっているのではないかと、毎日毎日不安で仕方なくて、気がついたら、自分は駅のホームに飛び降りようと…」 田中の表情はいつしか、悔しさと怒りが入り交じった表情になっていた、「どうして私にそんな大事なことを話したんだ?」 すると田中は苦笑した笑みを見せてこちらを覗いた、「貴方なら話しても良いと感じたからです、フッ」 「フフッ、」 互いに笑みが溢れながら再び二人はビールを飲み直し始めた。
数時間後、その頃料亭では、尾上常務が酒の席から帰った後のその座敷は、重くどんよりとしていた、尾上が消えたことで緊張感は無くなったものの千石は浮かない様子で酒を飲んでいた、「社長、やはり経営状況を上げていかなければ、尾上は聞く耳を持ちませんよ!」 「わかっている!、そんなことは当にわかっている!」 焦る高橋に千石は苛つきを見せている、千石はふと座敷の壁に取り付けらた時計の針をじっと見つめながら考え込んだ、「社長、私は一度会社に戻って新たな経営策を……」 すると千石は突如あることを思い出し、席を立とうとする高橋を呼び止めた、「一つ思い出したことがある、上手くいけば、この状況を打破できるかもしれない」 そう言いながら千石はニヤリと笑みを浮かべた。
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