キーマン
二日後、明星は以前コンサルタントとして担当していた大手自動車企業、ホープ自動車へと訪れていた、明星は役員の一人に案内されると、案内された60階の部屋は、とても広々とした間取りで、床に引かれたカーペット上にはでかいソファ、そしてオフィスが置かれ、窓ガラスから周りの景色が一望できる、明星は思わず呆気にとられながら窓の外を眺めた、「もうじき代表がお来しになると思います、」役員の男性はそう言うと、静かに部屋から出ていった、明星は周りの高級感溢れる景色に目を見渡しならがらゆっくりとソファへと座り込んだ、しばらくの間明星は腕時計で時間を確認しながら、ふと数日前の事を思い出し始めた。
「幾つか株を買ってくれる人間を探ってみる、」
明星はさっきまでと様子が違って、真剣な目付きで蝉、大鷹に提案を持ちかけ始めた、「銀行からの融資だけでは簡単に事が進む筈がない、だから、私の人脈を使って協力者を集めてみる」
「明星さん、我々に協力を促すのはちなみにどなたですか?」大鷹は食いぎみに明星へ問いかけた、「とりあえず、当たるだけ当たってみる、」 すると、耳を傾けていた大鷹が何かを思い出しかのように明星に話した、「以前、銀行マン時代に融資していた企業の一つに株を買って儲けていた企業を思い出したんですが、明星さん、ホープ自動車の千石と言う方をご存じですか?確か今は代表取締役になっているとか」
大鷹が口にしたその名前に明星は聞き覚えがあった、「ホープ自動車は、以前担当していた会社ではあります、」 「ほな話が早いな」
蝉は安心した様子で提案を進めようとしたが、明星の表情は堅かった、「千石はそう簡単に話が通る相手じゃない!、いくら金があろうと、リスクしかない物に金を注ぎ込む筈がない」 明星はそう強く応えると蝉は再び気に食わない様子へと変わった、「明星さん、どうかよろしくお願いします」
大鷹はとにかく明星を信じるように低く頭を下げてお願いした。
「コンコン!」ふと明星はドアのノックオンで我に帰ると、先程退出した男性役員が先に姿を見せた、「社長が到着しました、」すると、その呼び掛けの後に、男性の後ろから千石がゆっくりと明星の前へと現れた、「お久し振りです、明星さん」千石はピシッとした紺色のスーツを身に纏い、高価なそうなサングラス、革靴を身につけて明星と対した方のソファへともたれ込んだ、「さっきまで会議でしてね、遅れて申し訳なかったね」 千石は自分が担当していた時代の時と変わりなく、緊張感が漂う空気感を醸し出している、冷静さの影の裏では何を考えているのか、全く掴み所のわからない大物である、「それで、今回わざわざ御越しになった理由は?」 千石はゆっくりとサングラスを外し、スーツの胸ポケットにサングラスを閉まい込みながら、大きく足を組んだ、「えぇ、実はですね、会社を立ち上げようと思いまして」すると千石は、驚いた様子でうっすらニヤけた、「ほぉ…、」 「まずはこちらを見て貰いたいんですが!」 すると早速明星はタブレットを取り出し、大鷹が作成した見積書、そして建設場所の土地を映し出すと、千石の前へと見せつけた、「これは尖閣諸島付近に位置する孤島なんですが、私はこの場所でリゾート開発を計画しようと思いまして、勿論かなりリスクのある計画かも知れませんが、私はどうしてもこの孤立した島からリゾート地を建てたいんです!」
明星の熱弁に千石は応えることなくじっと見積書に目を通していた、「現時点では、銀行からの融資を通すには、より多くの資金が必要になります、その為に…」すると突然、「ゴトン、」千石は明星の話の途中でタブレットをテーブルへと置いた、恐る恐る見た千石の表情は無であった、「残念だよ、君がこのような見積もりで成功すると思っているのか?」
その発言に明星は動揺を隠しきれなかった、「何か不信な点があればすぐにでも見直します!」
明星は必死に千石の意見を聞き入れようとした、すると千石は再びゆっくりとサングラスを取り出し、明星に話し始めた、「ここ二ヶ月の間に何回台風がこの海域に侵入した、確かにこの見積書には緻密な計画は立てられている、だが不足の事態に対する歳費は提示されていない!」千石は強い口調でタブレットの画面を指で突き付けた、「残念だが私は、リスクある物に賭けるつもりはない」 「待ってください千石さん!」どうにか引き止めようとするものの、明星の説得も虚しく、千石はそのまま部屋から退出してしまった、千石が去った後の明星には大きな落胆が降りかかった。
夜の8時、気がつけば陽は落ち、自分は駅のホームに立ち電車を待っている、今日の午前の記憶は千石と会って以降いつの間にか無意識で消えていた、深くタメ息をつきながら考え事をしていると、スラックスのポケットに閉まっていた携帯から着信が鳴り出した、明星は考え事を中断して携帯を取り出すと、電話の相手は妹からであった、「もしもし、」すると向こうはホッとした様子で応えてきた 「もぉ~やっとでた、全然電話に出てくれないから、何かあったのかと思った」
しばらく会っていない妹の声に、明星は照れ臭そうに話した、「ごめん、今日はやけに色々忙しくて、それよりどうしたんだ?」
その頃、明星の妹である未紗希はとある病室へと来ていた、ふと横を振り向くと、そこには病室のベットに横たわる母親の姿があった、「今度はいつ地元に帰ってくるの?、お母さん、またここ最近容態が悪くなってきて」 「あぁ、そうか、早いうちに時間作っておくよ」 すると突然、駅員のアナウンスがホームに流れ始めた、「間もなく、二番線上り電車が到着します、黄色線までお下がりぃ~下さい~、」 アナウンスが流れ終わると明星は電車が到着する前に、電話を切ろうと妹に話そうとしたその時、明星の横を通りすぎるかのように、スーツを着た若い青年が前へとゆっくり歩き始めた、その歩く様子にはどこか異変を感じ始めた、すると眩しいライトを照らしながら電車が姿を現した、青年は既に黄色い線を越えている、明星は危険を察知し、すぐさまその青年のもとへと手を伸ばした、「プァーーー!」
青年は駅のホームへと身を投げ出した、眩しい光に照らされながらゆっくりと身体が地へと落ちていった。
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