胸の高鳴り
翌日の朝、その日は午前から複数人の役員達が会議室へと集まっていた、「このままの業績では、経営状況は更に悪化する一方だと考えています。」役員の前で現在の経営課題について話す明星はふと目線を奥の席に座る社長の佐藤に目を向けた、「なので今この状況を打破するには、ここ最近になって業界に名乗りを挙げてきている東京ベルモード倶楽部と提携を組むことが最善の策かと思います、」そう話すと明星はモニターを映すパソコンを閉じ、プレゼンテーションを終えた、「社長、提携案にご賛同頂けますか?」そう投げ掛けたのは、社長の側に座る副社長の瀧川であった、社長である佐藤はその問いかけにすぐには応えず頭を悩ませている、社長に取っては会社を守るよりも、会社の利益が一部他社に取られることに納得が出来なかったのだ、「悪いが東京ベルモード倶楽部とは会社の性質が違う、後は君達で他の策を考えてくれたまえ」社長は責任を押し付けるようにして会議室からそのまま出ていってしまった、社長が会議室から出た後の、回りにいた役員達の雰囲気は重苦しいものであった。やがて会議が終わると、明星は腑に落ちない様子で資料を搔き集め、席から立ち上がり会議室を出ようとしたその時、副社長の瀧川が明星の名前を呼んだ、「どうしました瀧川さん?」 副社長の瀧川はいつも冷静な人物であり、眼鏡の奥から轟かせるその目はどこか不思議な雰囲気を持ち合わせた、会社の中では優秀な方の人間であった、「君にはすまない事をしたな、上の人間は自分の保身の事しか考えていない、君の提案は正しい考えだったと思っている」 「そうですか、そう言って頂くと嬉しい限りです」明星は苦笑しながら瀧川に頭を下げた、すると瀧川は眼鏡を抑えながら突如重い口調で明星に囁くように話しかけてきた、「そこで何だが、君が推し進めようとしていたリゾート建設のプロジェクトは白紙に戻すことになった、これも会社のリスクを抑えるためだ、理解してくれ、」そう言い終えると瀧川は浮かない顔を見せながら、明星の肩に手を叩き、会議室から去っていった、明星もまた瀧川と同様に納得が出来ず、すぐに瀧川の後を追おとしたその時、ポケットに閉まっていた携帯から一通のLINEが送られてきた、明星は一度会議室から抜け出し、瀧川を追いかけながら携帯を開いた時、画面上に連絡が来ていたのは、蝉からであった。
午後12時、明星は会社から早めに退社すると、蝉から連絡のあった待ち合わせの場所へと車で向かっていた、「多分ここら辺だと思うんだけどな?」カーナビが目的地周辺を差しているのにも関わらず、ふと外を見ると、周辺には中華料理屋のビル一棟だけがある、空き地のような場所であった、やがてカーナビの案内が終わると、明星は確認の為に中華料理屋の店員から場所を聞きに行った、店の中へ入ると、以外にも店内は午後にも関わらず繁盛していた、「何名様?」 明星に気づいた若い女性中国人の店員がこちらに駆け寄ってきた、「あ、、いや、場所を伺いに来たんですけども」明星は少し戸惑いながらその店員に問いかけようとすると、店の奥から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた、「明っち!こっちや!」ふと店内を見渡すと、席から立ち上がりこちらに手を振る蝉の姿を見つけた、蝉はすぐに明星の元へと駆け寄ってきた、「待ってたわ、もしかすると来うへんかもと思っとったで、」蝉は嬉しそうな様子で明星を席へと案内した、「お前、会社はどこにあるんだ?」 明星は率直に浮かんだ疑問を投げ掛けるも蝉は先に応えず、案内された席に座っていた一人の大柄な男性を紹介し始めた、「こちら取締役に任命した…」 「大鷹と申します。今後はよろしくお願い致します、」 その男は名前を言うと、その強面から明星に手を差し出してきた、明星は戸惑いながらも一先ず大鷹という男と握手を交わした、「大鷹わな出会う前は、バリバリの銀行マンだったんや、」 「株については、そこらの奴よりかわ詳しい方です」
「必ず力になってくれるはずや、だからよろしく頼むわ」明星は終始理解が追い付いていない中、頭の中にパッと浮かんだ事を蝉に問いかけた、「お前の会社はどこにあるんだ!?」
すると蝉は呆れた様子で上を差した、「この上や」。
五分後、明星は蝉と大鷹に連れられ、一階の中華料理屋から抜け出し、裏路地に設置された階段を駆け上がると、事務所のネームが貼られたドアを見つけた、蝉はジャケットのポケットに閉まっていた部屋の鍵を取り出すと、すぐさま鍵を開けて中へと入った、明星も蝉に続いてゆっくりと事務所の中へと入ると、事務所内はみすぼらしい光景の中に、部屋と割り合わない高価そうなガラステーブルと、でかいソファが事務所の真ん中にドンッと置かれていた、「まぁ今はこんな感じやけど我慢してくれ」 「いや…こんな高いテーブルとソファ、どこから?」 明星は困惑しながら蝉に問いかけると、蝉はニヤケながら片腕を叩くジェスチャーを見せつけた、「それは全部もらいもんや」そう呟きながら蝉はソファへともたれ込んだ、一方の大鷹は既にこの景色に慣れているのか、冷静な様子でソファに座ると、運んできた鞄の中からタブレット端末を取り出した、明星は気になりながらも大鷹の隣へと座り込んだ、「社長、こちらが例の無人島を経営するに辺り必要な資金です、」大鷹は歳費を表示した画面を端末に表示させると、テーブルの真ん中へと端末を置いた、「やはり経営するにはまだ幾つかの支援がないと厳しい状況です」 蝉は眉間に皺を寄せながらじっと端末を覗いてる、明星も同様に細かく目を通していた、蝉は一通り読み終えると、深く溜め息をして明星の方を振り向いた、「明っち、どうすればいいんや?」 そんな無茶な問いかけに明星は困惑しながら、すぐに応えを返した、「やっぱり、リゾート開発は多額の資金が付き物だ、これに関してはとても無理だろうな」 明星はハッキリとした口調で二人にそう告げた、しかし蝉は簡単には食い下がらなかった、「俺は今まで何かに全力で打ち込むような事はしてこんかった、このままろくな人生を送るんなら、俺はもう決めたんや、何か人々が娯楽を求める物が必要なのではないのやかと!」
蝉が話したその言葉に、明星の心の何かに砕け散られていた物が一気に再び集まって来るような、感情が突き動かされたかのように明星はその場から立ち上がった。
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