再会

今の日本は不況で溢れている。毎日のように報道される政治家、生活の困窮によって子供を見殺しにする夫婦、パワハラ、セクハラによって隠蔽が多発する世の中、そんな厳しい世の中だからこそ、何か人々が娯楽を求める物が必要なのではないだろうか。


とある中小企業の会議室のモニターには、地方の田舎地域にリゾート地を建てる計画を綴った、そのような文面が並べられていた、そんな中、社長である佐藤が一言口を挟んできた、「君の話は確かに良いと思うが、内の会社にはそれ程までの金は無いな」 プレゼンで前に立つ明星は困惑しながらも、簡単には引き下がらなかった、「ですが今この会社の現在の業績のままではいずれ会社を畳むことになります、社長!ここは一度掛けてみる他、道はないと思います!」すると突然社長である佐藤がデカイ声で話を遮った、「やめて!会社潰れるとか、そんなこと私の前で言わないでぇ!」佐藤は現実逃避するかのように両耳をふさいでモニターから目を反らした、明星は冷めた目付きで佐藤の顔を見ていると、ふと回りに座る社員達も皆冷たい目付きで佐藤を見ている事に気がついた、今年いっぱいで定年を迎える佐藤からしてみれば、会社の後先の事など、何を言っても目を向けなかった、「以上でプレゼンは終わります、役員の皆様にどうか検討の程お願いします」そう言い終えると明星は浮かない様子で席へと戻った。






夜の8時、明星は仕事終わりのサラリーマン達が入り交じる帰りの電車に揺られながらふと窓の外を眺めていた、いつもと何ら変わりのない暗闇から明かりが灯る町並みに、何故かいつも明星はこの景色を見たいが為に、日々頑張っているように感じていたその時、突然、乗務員のアナウンスと共に乗っていた電車から急ブレーキが掛けられた、「ギイィィィィィ!」慣性によって明星や他のサラリーマン達は電車内から一斉に倒れ込んだ、「何だ?何だ?!」突然の急ブレーキによって回りの人々には動揺が起きていた、すると急ブレーキから数分後、車内アナウンスが再び流れ始めた、「只今、人身事故が発生した為、電車を急停止しました、乗客の皆様はしばらくお待ちください」そのアナウンスにより、乗っていた人々には落胆した様子で待つ空気が流れた、そんな時、ふと明星は、電車のドアから見える道路の運転手に目を向けた、その運転手はよく見るとどこかで見たような顔であった為、明星は目を潜めてその運転手の顔を更に見つめてみた、運転手は既にこちらに気がついており、手招きしていた、すると明星はようやく誰なのか判明した。




2時間後、明星は急停止した駅でようやく電車を降りると、電車の外で手招きしていた、学生時代のいわば悪友であった蝉 靖美の元へと向かった

、「久しぶりやな明っち、」 蝉は明星の方を振り向くと笑顔で懐かしいその関西弁で手を振ってきた、「急に何のようだ?」始めに明星は少し冷たい様子で蝉に問いかけた、その理由は学生時代の時に蝉に何度か裏切られた経験があるからであった、「用も何も、偶然通りかかったら明っちがいたもんやから、」 蝉は昔と変わらずの飄々とした雰囲気に思わず明星の頬が緩んだ、「まぁ乗ってけや、明っち!」明星は蝉に促されるまま車へと乗り込んだ、やがて車を走らせると明星は蝉の仕事を問いかけた、「今は何の仕事をしてるんだ?」すると蝉はニヤケながら突然話を変え始めた、「明っちコンサルタントの仕事してるみたいやな、」そう話すと蝉は一度こちらを振り向いた、「同級生の仲間から明っちの事聞いたで」すると明星は困惑しながら再び蝉に問いかけた、「やっぱりお前、俺に何か用があって会いに来たんだろ?」 その明星の問いかけに蝉はニヤケながら頷いた。

やがて明星の自宅マンション前へと車を止めると、しばらくの間、二人は車内で静かに話し込んでその場に居続けていた、「とにかく明っちにはこれを見て欲しいんや」そう言うと蝉は後部座席から少しデカイ封筒を取り出すと、そのまま明星に手渡した、明星はその封筒を受けとると、恐る恐る封筒の中から一枚のデカイ写真を抜き取った、「これは何だ?」その写真には遠くから撮影したと思われる一つの島が映っていた、「ハハハ、これだけ見てもさっぱりやろ!」蝉は明星をおちょくるかのような様子で笑った、「こんな島に何の用があるんだ?」すると蝉は一度咳き込むと突然さっきまでの様子が一変し、真面目なトーンで明星に話し始めた、「実はその無人島からリゾート会社を立ち上げよう思ってな、だが今の人数で経営すると必ず事業は失敗する、そこで優秀な協力者が必要なんや」 明星は蝉の話しに耳を傾けながらじっと例の写真を見つめこんだ、すると、蝉の予想とは裏腹に明星の返答は早かった、「こんな無人島でリゾート開発なんて無理だ、大体、その分の予算なんか持っているのか?」

明星は仕事柄、蝉の提示した事業の厳しさに納得は出来なかった、「家まで送ってくれてありがとう、だが、俺はその計画には参加できない、後は他をあたってくれ。」明星は車から降りると、蝉にそう呟き助手席の扉を閉めた、「明っち!気が変わったら何時でもこっちは待ってるで!」蝉はマンションの中へと去る明星に向けて、姿が見えなくなるまで言葉を投げ続けた。

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