三章 精霊鎖

精霊鎖の消滅

 再会したメイラとティエン。

 そしてミシェルと風の精霊ソライ。

 ティエンの目標は精霊鎖の根絶と精霊たちの解放だ。

 ミシェルも同じ目的だが、機会を窺うため、チャイシン帝国の精霊使い長ボイラーの側についていた。

 メイラはティエンを救うため、風の精霊ソライと再会するために今回精霊たちを動かした。


 そのまま森に戻るつもりだったが、ティエンと風の精霊ソライに頼まれ再び力を貸すことになった。


 まず帝国の東部、ドンミラであった場所を襲撃。

 そこには火の精霊を使うミラーがいたが、メイラの四つの精霊、ティエンの火の精霊フィン、ミシェルの風の精霊ソライには歯が立たず降伏。

 ミラーの精霊鎖は破壊し、火の精霊の精霊主の元へ帰った。

 それから南部のナンガン、東南部のトランデンの精霊使いたちと戦い無力化させた。精霊鎖は破壊され、残りの精霊鎖はボイラーの二つの精霊鎖、風の精霊ソライが宿るもの、ティエンの精霊鎖ー火の精霊フィンが宿るものになった。


「ボイラーの精霊鎖を破壊するまでは、俺たちの精霊鎖は破壊しないほうがいい」


 ミシェルがそう言い、ティエンも合意。精霊たちも賛成し、再び戦いに挑むことになった。


 帝国は精霊鎖をもつ精霊使いによって、他の三つの地区を治めていたが、精霊鎖を失い、帝国は力を失った。

 三つの地域は精霊使いという脅威がなくなり、今や帝国から派遣された軍隊を壊滅させようとしていた。

 メイラは、戦いの意味を本心から理解することはできなかった。ただ精霊鎖が破壊され、精霊たちが自由を取り戻し精霊主に戻っていくことは嬉しかった。

 精霊たちが喜びを露わに消えていくのを見て、メイラは自分の精霊たちに聞いたことがある。精霊主のもとへ戻りたいかと。

 答えは簡単だった。

 メイラがこの世からいなくなったら、戻りたい。それまで、メイラのそばにいたいと。

 人間の世界に長くとどまりすぎた精霊の中には、ボイラーの精霊のように精霊鎖に囚われながらも、自我を持ち続けることを好む存在もいる。

 だからといって、精霊を無理やり縛り付ける精霊鎖を作ることを推進しているようなボイラーを放置しておくわけにはいかなかった。

 メイラはティエンたちと共に王宮へ踏み込んだ。

 そこには王はおらず、ただボイラーだけがいた。

 いや、王はいた。しかしものを言わない骸を化していたのだ。

 ボイラーは笑いながら、メイラたちに精霊使いによる帝国の支配を持ちかける。しかし、メイラは断り、ティエンもミシェルもそれに追随した。

 ボイラーの精霊はたった二人。

 敵うわけがなく、ボイラーは精霊鎖を失う。

 火の精霊カズンと水の精霊アリーナは自我を失うのは嫌だと叫びながら、精霊主の元へ還っていった。


「じゃあ、精霊鎖を返す。ありがとう」


 ミシェルは風の精霊ソライが宿る精霊鎖をメイラに返し、王宮から姿を消した。今や帝国は四つに割れていた。

 百五十年の時を経て、帝国は四つの国へ還ろうとしていた。

 ミシェルは東部ドンミラの王族の血を引いていて、彼を中心にドンミラを再興するようだった。

 その他の地区も同様に帝国を離れ、再興の道を歩んでいた。

 今度こそ精霊の力を頼らず、人間の力だけで。


「俺もフィンとは別れないとな」


 ティエンは火の精霊フィンが宿った精霊鎖をメイラに渡す。


「……どうしても別れないといけないの?」

「うん。爺ちゃんの願いでもあるし。フィンの願いでもある」

「フィンは精霊主の元へ戻りたいの?」


 フィンは何も答えなかった。


「自然に戻すんだ」

「ティエンは淋しくないの?もうフィンには会えないんだよ?」

「寂しいさ。だから、俺、メイラと一緒にいてもいいか?」

『お断りです』

『カゼサン。ティエンはメイラに聞いているのです。口を出さないでください』『ふん。オレも嫌だな』

『アタシも〜』


 風の精霊フィンが、カゼサンに注意をすると、他の精霊たちが口々に発言し始める。


「みんな黙って。私は、ティエンと一緒に暮らしたい。だめ?」

『……メイラが言うならしかたありません』

『そうだな。メイラが言うなら』

『まあ、仕方ないわ』


 メイラの精霊たちが仕方ないとばかり、今度は合意し始めた。


「ティエン。一緒に暮らそ。私は嬉しいよ」

「俺も、ありがとうな。メイラ」


 二人は微笑ましく握手をし合う。

 風の精霊ソライと、火の精霊フィンが宿った精霊鎖は、メイラのヒーサンによって焼かれ、精霊主の元へ還る。

 それを見送ってから、二人は森の家に戻った。


 二人は成長し、結婚し、子供が生まれた。

 子供たちは精霊を見ることができたが、メイラは精霊と契約することを教えなかった。


「もう精霊鎖なんてものを生み出すきっかけを人に与えてはいけないから」


 メイラとティエンは子供たちに森の外に積極的に連れ出した。ティエンは子供を連れて近くの村に行く。そうすると同じ年頃の子供たちと遊ぶこともあった。徐々に子供たちは外に興味を持ち始め、年頃になり森から出ていった。

 子供たちは、さらに子供を産み、孫を連れてメイラとティエンの元へ遊びに戻ってくる。

 メイラは八十歳まで生き、その生の終わりとともに精霊たちは精霊主の元へ還っていった。

 精霊という存在が再び人に利用されないように、メイラは子供達に精霊を契約する行為すら教えず、最後の精霊の愛し子になった。

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