お前は強い子だな
オレはアイツが嫌いだ。
「ハル、学校からお前がイジメをしているって電話があったんだけど本当?」
小学五年になってオレはアイツをボコボコにしてやった。
服を脱がせて隠し、机に落書きをしてはゴミを詰め込んでやる。
その度にアイツが眉間に皺を寄せて悔しがる顔を見るのが楽しい。
それをアイツがチクったせいで学校からママに電話が行ったんだ。
「そんなことボクがするわけないでしょ」
「そうよねえ。ハルは良い子だから」
ママは中肉中背で肉付きが良い。
チクりやがって。覚えてろよ。
けど、それはパパの耳にも入った。
怒られるのかもしれないけれど、パパからは褒められた。
「お前は強い子だな」
オレはその日から、強い子を目指すことにした。
オレがアイツをシメ始めたのは、いくつかの出来事に遡る。
オレは小学校に入学して初恋をした。
とても元気で可愛い女の子だ。
見た瞬間に恋に落ちたと悟った。
でも、陽那はいつもアイツの傍に居てアイツから離れない。
アイツ以外とは喋っているのを見たことがないし、アイツが陽那以外と遊んでいるのも見たことがなかった。
陽那と遊ぶにはアイツが邪魔だ。
何とかしなければとずっとずっと考えた。
アイツは見た目がめちゃくちゃ整っている。
人形みたいに可愛らしく、そこらの女子よりもずっと可憐だ。
陽那と同等と言える外観のアイツは、どこに行っても人目を引く。
それは小学四年の合同遠足で中央公園に行った時に更に強く実感させられた。
アイツは他校の児童の男子女子に関わらず異性としてモテた。
陽那は男子からモテていたし、その隣に居るのが同じレベルのルックスで男子にもモテるアイツ。
他校の児童が羨ましがり、誰彼構わずに「あの子誰?」とか「なんて名前なの?」と訊かれたもんだ。
それを恨めしく見ていたのが
「アイちゃん、あっちで遊ぼ!」
陽那がアイツの手を引く。
「ひなっち、そっちに行っちゃダメって先生が言ってたよ」
アイツは陽那に注意して足止めする。
そこに他校の男子たちが駆け寄った。
「アイちゃんにひなっちって言うの?」
「いっしょにあそぼう」
次々と声を掛けられて困惑するアイツと他校の児童からの誘いを断り続ける陽那。
断られた男子が離れると、今度はアイツ目当ての女子が陽那の目を盗んで近付いた。
「アイちゃんって呼ばれてるの?」
「ん?そうだけど、どうして?」
他校の女子の問いにアイツが答えると陽那がアイツと女子の間に割って入る。
「アイちゃんはヒナと遊んでるの」
陽那は女子の言葉を遮るとアイツの手を引いて離れていった。
「もう、アイちゃん、優しすぎだよ!ちゃんと断らなきゃダメッ!」
アイツは陽那に引っ張られて人が少ないところに走る。
陸田は「男のクセに気持ち悪ッ!」と悪態をついていた。
オレは何とかアイツを排除しなきゃとその時も思った。
それから五年生になったある日。
学校帰りに陸田がトイレから出てきたところに
陸田は目を腫らして泣いているのか?涙の跡が見える。
「陸田!どうしたんだよ?」
オレに気が付いた陸田はおずおずと話す。
四年生の時の合同遠足で話すようになった陸田とは砕けた会話が出来るくらいに仲良くなっていた。
「アタシ、振られたんだよ」
「上田だっけ?イケメンの?」
陸田は好きな人とやらに告白したらしい。
その好きな人というのが別のクラスの上田。
陸田はコクリと頷いた。
「上田。紫雲のことが好きだからって、紫雲、男子なのに。男子のクセにッ!」
陸田は恨みを込めた目をオレに見せる。
「アイツ、調子に乗ってるよな。ちょっと顔が良いからってよ。生意気だと思わね?」
陸田は女子の間では名の知れる存在だ。
コイツの協力があればアイツを排除できる。
俺の言葉を聞いた陸田は力強く首肯した。
オレたちは直ぐに行動に移した。
二時間目のあとの二十分の休み時間。
オレは俺の友達と陸田と陸田の友達、合わせて十名ほどでアイツの机を囲んだ。
「男のくせに気持ち悪い」
陸田が腕を組んでアイツを見下ろす。
「お前、気色悪いな!女みてーな顔してよぉ」
アイツはオレと陸田を交互に見て何のことだと理由の分からない表情だ。
「生意気なんだよお前はよぉッ!」
机を蹴っ飛ばして殴った。
ガツガツと殴り、蹴る。
オレに続いて友達も陸田もアイツを殴る。
「はッ!きめぇッ!シウンコ!シウンコ!」
「ウンコか!コイツはウンコ!くせえぇッ!」
「ゴミだ!ゴミ!ゴミは捨てちまえッ!」
オレは
「ねえッ!何シてるの?アイちゃんのランドセル!」
オレたちの行動を見た陽那が当然言い寄る。
「わかんねーか?お前がアイツに紫雲にかかわるからこうしてやるんだ!」
「そッ!そんな──ッ!」
オレの言葉で陽那は顔を真っ赤にして怒るが、ここは多勢に無勢。
「白下がウンコにかかわるからだー」
「ウンコにさわるなー」
「ウンコに触ったらウンコをぶちのめーす」
それからオレたちはしばらくの間、陽那がウンコに近付く度にウンコをガッツリとシメた。
それを繰り返す内に陽那は誰とも口を聞かなくなり常に一人で過ごしている。
オレの友達。と言っても南町ベアーズっていう野球少年団繋がりだが、ソイツ等と陸田のグループでウンコを排除し続けた。
すぐに学年中に広がってウンコは孤立した。
ザマァねえ。
これが調子に乗った奴の末路だ。
学校から連絡が来たのはそのタイミング。
けど、パパが「もう、大丈夫だ」と言った。
次の日からオレたちがウンコをシメても誰からも文句をいわれることはない。
先生も保護者も誰もだ。誰もオレには逆らえない。
オレのパパは県議会議員。
逢坂家は代々県議会に議員を輩出している名家で逢坂の名を知らないものはこの都市には居ないと言えるほど。
ウンコをイビっても誰にも咎められないのはパパの力が及ぶからだ。
だから誰もがオレに媚び諂うし、誰もがオレのやることに文句を言わない。
中学の三年間は何不自由なく過ごせたし、ウンコをどれだけイビっても誰にも責められること無く快適な学校生活を送った。
高校はこの辺で随一の名門と言える東高校を受験する。
もちろんオレの学力じゃ受からないが、パパが受験しても良いというので願書を出した。
何でも採点を低くして合格したものを不合格にすることは難しいらしい。
ウンコもこの高校を受験した。
ウンコは全国や県の学力テストでは高得点を叩き出していたが、学校の定期テストでは点を取れていない。パパの力でウンコの点を改ざんしまくった。
ウンコの内申書はボロクソに書かれているし通知表の成績もどの教科も2以下だから内申点は最低点。
それでも東高を受験できたのはインターネットからの申込みをしたからだ。
採点は外部の業者を使うから得点の改ざんは難しい。全国でトップに近い点数を叩き出し続けたウンコは内申書や内申点に関わらず素点のみで受かるだろうとパパに言われた。
逆にオレの学力じゃ合格は到底ムリだからパパが働きかけて合格ラインギリギリで合格したであろう数人の不合格と引き換えにオレの主要な友達とともに合格させてもらった。
偉いパパを持つと人生はイージーモード。
入学式が終わりパパが入学祝いに寿司屋に連れて行ってくれたんだが、そこで釘をさされた。
「今まではパパが手を回せたんだけど、高校は数人の教師しかこっちに取り込めなかった。中学までと違って好きにやれないと思ってくれ」
「ああ、わかったよ。気を付ける」
パパはそう言うけど大丈夫大丈夫。オレは強い男だ。ヘマはしないさ。
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