入院

 入院した先は、隔離病棟と呼ばれるところだった。簡単に説明するのであれば、外界との接触を絶たれた閉鎖空間で三ヶ月過ごすというものである。スマートフォンなどの携帯類は、自分の場合一時没収されたが、二週間後には手元に戻ってきた。


 閉鎖病棟にはいろんな人間がいる。


 暇を持て余し、病棟内をうろうろと歩いているもの。日がな一日、与えられた使い回しのトランプでポーカーもどきを行うもの。ロビーの地面を這いながら奇声を上げるもの。そして、私はといえば部屋の中でぼんやりと天井を眺めているばかりだった。


 外の空気に触れていないと気がおかしくなりそうだったので、冬が近いのにも関わらず常に少ししか開かない窓を開けて外の空気に触れていた。


 病室の外に出始めたのは病棟に入ってから一週間ほどだろうか。あまりにも退屈すぎて、人と触れていない時間がなさすぎて寂しかったのかもしれない。病室に置かれている書籍といえば、軽い自己啓発本と、有名作家の代表作が数冊。どれも読む気は起きなかったので、退院まで一度も手につけることはなかった。


 入院先で仲良くなった人もいた。


 前述でポーカーをしている人たちがいたという話をしたが、することもなかったのでその連中と集まってポーカーをしてよく遊んでいた。オセロなんかもよくやっていたが、元々得意ということもあって全員を相手に連勝して『先生』なんて呼ばれた時は、昔のことを思い出して少しだけ複雑な気持ちになったのを覚えている。


 入院してから、先生が変わった。


 福島に戻ってからも入院した精神科に通ってはいたが、当たった先生は東京にいた時と大差なく、ただ少しだけ話を聞いて薬を出すというだけの流れ作業で行う先生だった。


 だが、入院してからの先生は違った。仮にF先生と呼ばせてもらうが、とにかく自分の話をよく聞いてくれる人だった。自分の思考、価値観、趣味、そのどれもを退屈な話かもしれないのによく聞いてくれて、特に刀の話になると一緒になって興奮しながら話をしてくれたのはとても嬉しかった。そして、自分の心理士の先生、こちらもA先生を呼ばせてもらうが、よく自分の話をして、色々な解決策を考えてくれる良い先生だ、特にamazarashiが好きで、たまに心理の話以外でもその話題になる時がある。


 入院して良かったことは、自分自身の価値観と向き合うことができたこと。そして、自分のことを考えてくれる先生たちに出会えたことだろうか。


 今まで、人に頼らないで、自分の中に感情を押し殺してきた自分だったが。人を頼ってもいい、それほど他人というのは怖くはないということを教えてくれた良い機会だったと思う。


 退院したの突然だった。父が敗血症にかかり死にかけたからだ。

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