転 夜中にこっそり出てきて
追伸3:そうえば、ミロッチ4巻の感想書くの忘れてました! 手紙を歩いて持って行く計画に夢中で、ごめんなさい。宇宙人のクネロンくん、とってもいいキャラだと思ったので消されちゃったのが残念です。ああいう真面目な子が居てくれると、よりミロッチの憎たらしいところが映えると思うんです。でも、消されちゃった理由も今なら分かるんで、複雑ですね……。
昨日は結局眠れなくて、手紙を書き足してからもずっと歩き続けていた。もう旅路も後半に差し掛かっている。そろそろMiMiさんの家がある町に入るはずだ。
実は1度だけ、こっそりMiMiさんの家まで行ったことがある。ミロッチのファンサイトで出会った本名も知らないペンフレンドが、どんな顔をしているのか見たいと思ったのだ。結局、勇気が出なくて顔を見ずに帰って来たけど、近くまで来ることが出来れば、なんとなく場所は分かるはず……。
線路沿いを歩いて町を眺めていると、建物の壊れ方にも種類があって面白い。何かに押しつぶされてぺっちゃんこな建物もあれば、溶けたり黒焦になった建物もある。ガスもまかれたらしいけど、これは建物には関係ない。
「なんかいっぱい試したかったんだろうな。人には何も作るなって言っておいて」
ひし形の金属片が沢山突き刺さった建物を見て、独りつぶやく。たまにこういう、他のと違う壊され方の建物がある。あれも使ってみようぜ! みたいな感じかな。
そこで私は、ひし形の突き刺さった建物が古本屋なことに気がついた。チェーン店じゃないっぽい、多分おじいちゃんとかが半分趣味でやってるようなところだ。看板も目立たないから、普通に通り過ぎるところだった。こういうところだと、今は手に入らないような本も置いてあるかもしれない。手紙に書いちゃったから、ミロッチの4巻を探さなきゃ。
何かの衝撃だろうか、ガラス戸が粉々になっていたので、中には問題なく入れた。右端の棚が漫画コーナーみたい。
『見ろ見ろミロッチ!』の4巻……『見ろ見ろミロッチ!』の4巻……私は心の中で何度も念じながら、本棚を順番に確認する。『見ろ見ろミロッチ!』の4巻……『見ろ見ろミロッチ!』の4巻なんて……『見ろ見ろミロッチ!』の4巻なんて……
『見ろ見ろミロッチ!』の4巻なんてありませんように。
あった。結構巻数の出ている漫画だから、見落としようもない。4巻も数冊ある。問題はここからだ。私の探している4巻は初版、最初に印刷された4巻だった。普通の4巻なら、もちろん私も家に持ってる。宇宙人のクネロンくんは初版にしか載ってなくて、それを見たくて私は、わざわざMiMiさんから借りたのだ。
初版かどうかは、本を手に取って開き、一番後ろのページを見ればわかる。もくじを見てもクネロンくんの話が消えてるか消えてないかで分かるけど、とにかく中身を見なきゃいけない。私はMiMiさんに初版の4巻を返したいから、ここで中を見ないのは不自然だ。その不自然を、多分私は無視できない。
「どちらにせよ、行き止まりのどん詰まりだなぁ」
意を決した私は、本棚に手を伸ばした。震える指が本を掴むことはなく、そのまま背表紙をすり抜ける。
やっぱり。私が持てるのは自分の物だけだって、何となく分かってた。だって本当は、チョコ持って行きたかったもん。でもあれは、お母さんのだったから。
何も持たずに古本屋を飛び出す。ミロッチのポーチを高く掲げて、大きな声で周りに見せびらかす。
「見て! 中学にもなってキャラのポーチ使ってるー! 恥ずかしくないのかなー!
しかも顔面って! 顔面そのまんまって!」
それはかつて、私が言われたこと。その時は周りが皆、私のポーチを指さし笑っていた。私だけが、返して、返して、と繰り返していた。
今は、誰も笑えない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます