承 仲良ししてても減るもんな

追伸2:私バカだから、目印の建物が全部無くなってるなんて考えても無くて、1日目はホント迷いました。途中で線路だったら残ってることに気づいたので、なんとか今はそっちに向かえてます。

 あと、テンション上がってミロッチのポーチなんて持ってきちゃったんですけど、途中で男の子に見られちゃって、超恥ずかしかったです。でも、その後は人が居ても寝てるか、こっちに興味ないみたいで、ちょっとだけ慣れてきちゃいました。

 きっと皆、私なんか見てる暇もないぐらい、色々なことを考えてるか、考えることを止めることを頑張ってるんだと思います。私もきっと、そうだから。


 すすだらけのベッドで目を覚ます。少し焦げ臭かったけど、外で寝るのを覚悟していたから全然悪くない睡眠だった。ここは地下鉄の宿直室。火とかガスが流れ込んだみたいでもう人は居なかったけど、かわりに色んなドアも開きっぱなしだったから私でも入ることができた。当たり前のことだけど、人って逃げるときはドアを閉めないんだなぁ、という感想。

 宿直室を思いついたときは我ながら天才だと思ったけど、こんなに運よくベッドが残ってる駅がこの先あるとも分からない。なのでもう少しだけ、寝転んで過ごすことにする。3つ隣の町って、何日かかるんだろう? 私はホントに何も考えてないな。こんなだから、多分天才じゃない。やっぱり手紙に書いたとおり、私はバカの方だ。

「考えるのって疲れるもんね。お腹も早く減っちゃうし」

 そういえば、家を出てから何も食べてない。けれども、あんまりお腹が減ってない気がした。いや、減ってないというより、食べることをしたくないって感じ。

 なんだか、前に同じ感じになった覚えがある。あれはいつ何のときだったか……。そうだ、思い出した。思い出さなきゃよかったけど、思い出した。5年生のころ好きだった子にバレンタインのチョコを渡したんだけど、次の日その子がクラスの皆に「あいつのチョコすっげぇマズかったんだぜ」って言いふらしてて。そのときの感じによく似てる。お腹減ってるのかもしれないけど、そんなこと私知らないって感じ。 きっと今好きだった人も、これから好きになる人も、いつか結ばれたかもしれない人も、全部全部消えちゃったんだろうから、あのときのあの感じが、一気に押し寄せて来たんだ……。

 考えがまずい方向に行きそうだったので、慌ててベッドから降りる。あんまり長く考えてちゃ駄目だ。

 とりあえず地上に出て、また線路の方へ向かう。地下鉄をたどった方が早いのかもしれないけど、なんだか怖いからやりたくない。地上の線路は先が見えるけど、地下の線路は真っ暗で、このまま一生外に繋がってなかったらって思っちゃう。

 急に誰かの怒鳴り声が聞こえて、体がびくりと飛び跳ねた。少し先に男の人が2人いて、食べ物を取り合ってるみたいだった。ひとりが缶詰を見つけて、もうひとりが無理やり取った、らしい。

 つまりこの人達は、お腹が減ることを考えられてるんだ。それは、少し羨ましい。だけど、こうやって喧嘩しちゃうほどお腹が減るのと、お腹が減りもしないのとでは一体どっちが健全だろう? どっちもきっと、健全じゃないな。

 あんまり見てても面白くなさそうだから、私はそっとその場を離れた。何かと何かがぶつかる「ゴッ」「ゴッ」という音が、背後でだんだん小さくなる。何の音か考えちゃいけない。何か楽しいことを考えなきゃ。ミロッチ、次の話はどんな感じかな。次の話なんて無い、なんて考えちゃいけない。出版社も作者もきっと潰れた、なんて考えちゃいけない。何も考えちゃいけない。


 あのことに気づいちゃうから、何も考えちゃいけない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る