ポスト・アポカリプス・ポスト

BD

起 仕方がないからお手紙書いた

拝啓

 日本から季節が無くなりましての候 如何お過ごしでしょうか。

 私の家は壁も屋根も吹き飛んで、部屋が雨ざらしです。周りに無事な建物が一つも見当たらなくて、世界中がこうなんじゃないかと思うんですけど、MiMiさんの家は大丈夫とかだったら嬉しいです。

 いつも手紙を入れていたポストも、消し飛んじゃったみたいです。仕方ないので、この手紙は歩いて持って行こうと思います。いまさら紙の地図に頼る日が来るなんて思ってもなかったので、ちょっとワクワクしています。

 せっかくなので便箋とペンも持って、道中で見たもの、考えたことなんかを、書き足してつけようかと思ってます。どのぐらい長くなるか分からないので、とりあえず結びの挨拶をしておきます。

 季節の変わり目もない時代ですが、どうかご自愛ください。

                            敬具


追伸:お借りしていた『見ろ見ろミロッチ!』の4巻も燃えちゃいました! 道中でもしも手に入ったら持っていきます。ごめんなさい。


 よし。私は書き終えた便箋をそっと三つに折り、ミロッチ柄の封筒に入れる。いつもならシールを選んで封をするけど、今回はまだだ。

 肩から下げたミロッチ型のポーチに、封筒と、ペンと、便箋を入れる。後はチョコも入れようと思ったけど、溶けてそうなのでやめておく。他に食べ物も無いけれど、MiMiさんの家は3つ隣の町。そんなに遠くないと思うので、多分平気。

 玄関だったはずの場所から、敷地の外へと一歩出てみる。靴はこの頃履きっぱなしだ。家中瓦礫だらけなので、これがないと歩けない。壁が無かったから、あまり外に出た気がしないけど、まぁいいや。右手の地図を見ながら、ペンでなぞった道を歩き始める。結構しばらく真っ直ぐみたい。

 全ての建物が消し飛んだこの町には、人の気配も全然ない。皆死んじゃったのか、それとも何処かに逃げられたのか。でもそのおかげで、今の私は最高にルンルンしている。何故って? それは肩から下げた、このミロッチ型ポーチが理由。『見ろ見ろミロッチ!』の主人公、ミロッチの顔を模した巨大なポーチ! こんなの中学生にもなって使ってたら、皆に笑われてしまう。でも今は、笑う人なんて何処にもいない。きっとこの先も、何処にもいないといいな! それなら堂々と、大好きなミロッチのグッズを身につけられる。こども向けと言われようが、ミロッチは可愛いんだもの。

「あーあ、よかった! みんなみんな吹き飛んで!」

 テンションが上がった私は、両手をあげて大きな声を出した。きっと大人が聞いていたら、とっても怒られただろう。

 ふと視線を感じたような気がして、ゆっくりと右を見る。顔中黒く汚れた男の子が道端にしゃがんだまま、こちらの方をに顔を向けていた。焦点の定まらない眼で視線は合わない。それでもなんだか無性に恥ずかしくなった私は、ポーチを裏返してお腹に抱えると、逃げるような早足でその場を通り過ぎた。少し進んだあとで、来た道を振り返ってみる。小さくなった男の子が、寝る様な姿勢に変わっているのが見えた。

 なにも私も、ホントにみんな吹き飛んでよかったなんて思ってない。ちょっと気が大きくなっちゃたのと、そうでも思わないと、なんだか入っちゃいけない所に、心が引っ張り込まれそうな気がして、それで、それであんなことを言ってしまったのだ。

 心の中で言い訳を呟きながらも、そろそろ曲がらなきゃいけない事を思い出した。地図を広げて確認すると、歯医者さんとコンビニのある角らしい。そこで私は、最悪の見落としに気がついた。自分はどうして、こうも考え無しなんだろう。


一体どの瓦礫が、歯医者さんとコンビニだというのか……。

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