15. 初めて誕生日が嬉しいと思ったよ




 10月31日。ハロウィンの日でもあり、僕の誕生日。とはいえ今までそういったおめでたい雰囲気はした覚えがなく、いつも通りの生活だった。


 「よっ、おはよーさん鏑木かぶらぎ

 「あぁ、おはよう赤坂くん」


 だから今日もまた変わらない一日なんだろう。いつものように朝の挨拶を交わしながらそう思う。


 「お、そういえばよ。今日、お前の誕生日なんだってな。誕生日おめでとう鏑木」

 「えっ……」

 「おん? あれ、違ったか?」


 赤坂くんの言葉に面食らった。彼に僕の誕生日は教えていただろうか。その覚えが無いけれどそれでも誰かに祝われたのは記憶が新しければ初めてと言っても良いだろう。


 「ううん違わないよ。ありがとう赤坂くん」

 「おう、そりゃあ良かった」


 ニッと笑った彼は鞄からお菓子を取り出して僕の机の上に置いた。


 「これは?」

 「へへっ、誕おめってのとほら、ハロウィンだろ? 今日」

 「あ〜なるほどね。トリックオアトリートってことね」

 「そ。そゆこと」

 「それじゃあありがた〜く受け取らせてもらうよ」


 お菓子を手に取って掲げながら頭を下げる。こんなふうに友達から祝われるなんてのは嬉しいものなんだなぁ。





 昼休み。いつも通り香織先輩とお昼ご飯を食べる。今日は僕が三年の教室に向かう。前の扉はすでに開けられていて開けられた扉にノックしながらも顔を出す。


 「香織〜来た……よ……って、え?」


 唐突にクラッカーが鳴った。僕はそれに驚きただ目の前のことを見るだけだった。


 『誕生日おめでと〜!』

 「へ? えっ?」


 未だに状況が飲み込めてない。僕は祝われた……で良いのかな?


 「誕生日おめでと〜彼氏くん♪」

 「いや〜香織ちゃんから聞いて急ピッチで揃えたんだけど〜どうだった?」

 「え、いやあの……突然過ぎてまだあまり理解が……」


 いつも香織先輩と仲良くしている女子の先輩がにへらっとした顔で続けた。


 「ほら〜だから言ったじゃん。こーいうのは喜ぶかわかんないってさ〜」

 「え〜でも私は喜んでくれるって確信してたんだけどなぁ……琉椰りゅうやくん、嬉しい? それとも迷惑、だったかな……?」


 眉を八の字に下げて申し訳なさそうな顔と声をする香織先輩に僕は首を横に振る。


 「その……初めてこんなふうに盛大に祝われたから驚いたけどでも嬉しいよ。だから今日、僕から来てって言ってたんだね」


 ようやく状況が飲み込めてきて僕は照れ笑いを浮かべる。


 「えへへ、喜んでくれてよかったぁ……みんなに頼んでよかったよ〜」

 「ほーんとウチらにもっと感謝しなー」

 「ありがと〜!」

 「あーはいはいどうどう」


 友達の先輩を抱きしめて喜ぶ香織先輩。そしてそれをへつらうような言葉だけど顔に浮かんでいるのは優しい表情で背中をあやすような優しい手つきで叩く先輩。


 「鏑木。これは俺からだ。誕生日おめでとう」

 「えっ、せ、関先輩!? こ、これ……良いんですか?」


 関先輩が小包みを渡してきた。それを受け取りつつまさかプレゼントを貰えるとは思ってなくて驚きながら関先輩を見る。


 「ははっ、後輩の誕生日なんだ。祝ってやらないと先輩として示しつかないだろ?」

 「あ……ありがとうございます。その……開けても良いですか?」

 「あぁ。まぁ、気に入るかは分からないが……」


 小包みを開けるとオシャレなケースが出てきてそれを開けると中には少し高そうな香水だった。


 「あ、ありがとうございます……あの、どうしてこれを?」

 「実は何買うか迷ってたんだよなぁ。お前ってあまり何が欲しいとか言わないだろ? それであまりオシャレとかもしてるの見たことないしだったらこれにしようってな。妻木つまぎにアドバイス貰ったぞちなみに」

 「えっ!? か、香織から!?」


 なるほど。このプレゼントは香織先輩の提案によるものなのか……。確かにこういったものを関先輩が選ぶとはあまり思えない……というか関先輩も僕と同じようにあまりオシャレに詳しく無い節がある。だとしてもこうして貰うのは嬉しいな。


 「ほら、お前たちも早く昼飯食うんだぞ。時間」

 「あっ! そーだった! いこ! 琉椰くんっ」

 「あ、う、うん。関先輩、それと先輩方! 祝っていただきありがとうございます! 今までで一番自分の誕生日が好きになりました」


 バッと頭を下げてから香織先輩の後を追った。


 「ほーんと香織ちゃんの彼氏くん律儀だよね〜」

 「ははっ。だな」







 そして時間は過ぎて部活終わり。


 「鏑木くんっ。誕生日おめでと〜! はいこれプレゼント! じゃあねー!」


 弦宮つるみやさんは先を急いでいるのか分からないけどそう言って僕に可愛らしいラッピングされた包みを渡して颯爽と帰っていった。あまりの唐突さに舌を巻いた。


 「お礼言いそびれちゃった……」

 「にゃはは、気恥ずかしかったんだと思うな〜」

 「ふふっ、かもね」

 「開けてみないの?」

 「帰ったら開けるよ」

 「そっか。じゃあ、帰ろ?」

 「うん」


 中身は気になるけれど今開けるのを我慢して鞄の中に入れて歩く。


 「ね、琉椰くん。私たち付き合ってもう5ヶ月経つんだね」

 「そういえばもうそんなに経つんだったっけか……早いね」

 「うん。琉椰くんの誕生日を祝えて嬉しいなぁって思ってから気付いたんだ〜」

 「ははっ、確かに。なんかさ……こうして一緒にいる時間が長いとそれ以上も一緒にいたんじゃないかって思う時あるんだ」


 香織先輩の手の温もりを感じながら彼女との出会いを思い出す。思い出しては懐かしさを感じながら笑みをこぼす。


 「それくらい相性が良いってなんだね私たち」

 「そうかもしれないね。これからも香織の知らないことを知っていくんだと思うと嬉しいと思うよ」

 「ほぇ? それはどして?」

 「好きな人のことは精一杯愛したいから……かな。今の香織も僕は好きだけれど、いつか知らない面があるかも知れない。もしそれを知ったなら僕はそれも含めて君を好きになれたならきっとより深く愛せる……と思う」

 「琉椰くん……」


 視線を感じて横目で見ながらも照れ笑いを浮かべる。


 「とは言ってもさ、まだまだ高校一年の子供なわけだから出来ることも限られるし僕は僕のペースで……いや、僕たち二人のペースでやっていこう」

 「ふへへ、そだね。覚悟しててよねぇ〜? 私は琉椰くんを逃したりしないんだからね?」


 ツンツンと右頬を突かれる。僕は笑って頷く。


 「分かっているつもりだよ。僕は逃げることはしないしちゃんと香織を見てるよ」

 「ふふっ。ん、言質げんち、取ったからねー琉椰くん。ずーっと私を見ててよね」


 ぎゅっと僕の右腕に抱きついて抱き締める力が強くなる。それほどまでに強い愛を僕は貰ったことがない。初めての恋愛ってのもあるからだろう。僕には分からないが赤坂くんや弦宮さんたちが言うには香織先輩は重い方らしい。それがどう言う意味なのかは分からない。それは多分僕にもあるのだろう。


 「あ、そうだ。家に帰ったらさ、ケーキあるんだ〜。ごはん食べたら霞澄かすみと一緒に食べよ」

 「分かった。ちなみにどんなケーキなの?」

 「ふふ〜んそれはその時までのヒミツ〜」

 「えぇ、気になるなぁ……」


 そうふざけ合いながら少しずつ暗くなっていく帰り道を歩く。


 「あ、忘れてた。とりっくおあとり〜とっ」

 「えっ今!?」


 まるで今思い出したかのように言ってきた香織先輩は意地悪げに笑って頬にキスした。



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