5. 眠り姫は目覚めるって相場が決まってるんだ




 救急搬送で、かれこれ数時間は経った。診察室前の長椅子に座る僕に声をかけられる。


 「琉椰りゅうや君……!」

 「……あぁ、弓音ゆみねさん。お仕事の方大丈夫ですか?」

 「それは構わないわ。そんなことより娘は、香織が運ばれたって……大丈夫なの?」


 香織先輩のお母さん……名前を弓音さんと言い、いつも遅い時間まで勤務しているのだ。朝早く家を出て遅い時間に帰ってと体を壊さないでくれると良いのだけど。と話を聞いてから少し心配になるくらい労働をしていて今日もそんな状態から抜け出してくれたのだ。


 「まだ診察中です。けどもうすぐ終わると思いますよ。レントゲン諸々をしてるんだと思います」

 「そう……何があったの?」


 僕の隣に座り綺麗な背筋の伸びた姿勢で僕の方に体を少し向ける。佇まいは本当に弓を引いているときの香織先輩にそっくりだ。僕は少し沈黙してからゆっくりと言葉を選ぶように訥々とつとつと語る。みるみるうちに弓音さんの顔は変化していった。


 「そ、そんな……貴方は大丈夫なの?」


 その問いに頷く。怪我もない。ただ。


 「……なんでこうなったんですかね」

 「…………」


 診察中と点灯されているものに目を向けて静かに言う。


 「もっと良い方法があったんじゃないか。昼休みにすぐに香織のいる教室に行っていれば大丈夫だったんじゃないか。そうしたら香織は怪我することもなく意識を失うこともなかった……もっと危機感を感じていれば……って答えの出ないたらればにいつの間にか堂々巡りしてるんです」

 「琉椰君……」


 すべての発端は体育だ。その時からもしかしたら選択を誤っていたんじゃないかとすら思う。あぁ、ダメだ。僕がこんなふうなことを思ってちゃ。大丈夫。僕は大丈夫。『明鏡止水』だ。そう。落ち着け。……ふぅ、良し。うん。落ち着いた。


 「診察と治療は完了しました。病状を説明したいので来ていただけませんか?」


 その時診察室の扉が開かれ、看護師さんが出てきた。僕と弓音さんは頷き、促されるまま部屋に入る。そこには発光されてる黒板のようなものに……レントゲン写真だろう。数枚貼られその前に先生が座っていた。


 「座ってください」


 椅子が二つ分用意されていてそちらに座る。


 「まず、意識は少なからず取り戻すでしょう。頭の方には異常が見られませんでした」


 その一言に安堵する。まずは目が覚めるならそれだけでも安心だ。けれど……。


 「怪我の方は……どうなんですか?」

 「怪我は右腕が完全に折れており、指も折れていますね。階段から落ちたとのことですが咄嗟とっさに右手でカバーしたのでしょう。妻木つまぎさんは何か部活はやってらっしゃいますか?」


 先生は優しい目でこちらを見る。僕は目を逸らさないように見つめる。


 「僕と同じ弓道です」

 「……なるほど。であればこれから数ヶ月は出来ないと思ってください。ギプスを付けていますが頻繁にガーゼや包帯を変えてください。次に腫れていた右足首ですが……」


 先生は神妙な面持ちで頷き、言葉を選ぶようにそう言ってきた。覚悟はしてたけど……やっぱりそうだよなぁ。出来ないよな。途中から先生の説明が耳に入らなかった。現実を受け入れたくないという心理があるのだろう。けれど頭の中ではちゃんと受け止めている。








 翌日、僕は学校に行けば先生に連れられ校長室に来た。そこには弓音さんと知らない女性と一緒に板井さんがいた。恐らく板井さんの母親だろう。


 「鏑木かぶらぎ、座っていいぞ」

 「はい」


 板井さんと向かい合うように弓音さんの隣に腰掛ける。


 「まずは板井に関しては停学処分。警察の方では落ちた瞬間のことが確認できないため事故として処理されるそうだ」


 まぁそうだろうな。僕は落ちる瞬間というより香織先輩が二階踊り場に落下したところしか居合わせていない。


 「本当にすみませんでした……!」


 板井さんの母親らしき人は涙ぐみながらそう謝罪した。


 「……謝るのは僕たちじゃないですよね」


 その言葉に僕はついそう呟いてしまった。僕はハッとしたけど口から出た言葉は戻せない。


 「弓音さんは香織のお母さんだから聞く権利はあると思います。でも違いますよね? 謝るのは香織本人に謝るのが筋じゃないんですか? 今はまだ意識は戻ってませんけど、でも……」

 「良いのよ琉椰君」

 「弓音さん……」


 頭を左右に振り、そっと制止してくる。


 「このことはしっかりと目を背けず向き合ってください。私は親の一人として子供がしたことに怒りはあります。けれど起こってしまったことは仕方ありません。ですが、慰謝料はいただきます」


 まぁ、うん。それはそうなんだろうけどそうはっきりと言葉にするのは強かな女性だなと思った。


 「自慢の娘ですもの。人を惹きつけるものはありますよね。今回はただ悪い方に転がっただけ。そうよね? 琉椰君」

 「…………そう、ですね。僕自身彼女に惹きつけられた側なので」


 唐突に話を振られるが頷く。


 「い、幾らでもお支払いします」

 「そんなこと言っては行けないわ。私だから良かったけど他の人なら取られるものは取れるだけ取るものよ。けどそうね……板井君……だったかしら?」

 「……」


 なんとも気迫が薄れたというより無くなったが正しいだろう。そんな目出来るもんなんだな。


 「もう金輪際娘には近づかないでくださいね。私は本当は女子校に入れさせるつもりだったのよ。こんなふうに男が寄ってくるから」


 こんなふう……ということはやはり以前にも言い寄られたことがあるんだろう。確かに香織先輩は気品があるし美人で可愛らしい笑顔をするからな。


 「でも、香織の意思を尊重してこの学校に入れさせたんです。香織が大怪我を負ったって報せを聞いて転校も視野に入れようとすら思ってました」


 ん? 思ってた? なぜ過去形……ってどうして僕を見たんだ? なんだろうか。


 「でもこんなに香織を大事に思ってくれる子がいるし仲良くしてくれる子たちもいる中を割くのは親として駄目かもしれないでしょう? だから娘はこのまま卒業までこちらの学校の生徒でいさせます。ですから今後私の家族に、この子に近づかないでください。誓約書も書いてもらいます。良いですね?」


 柔らかな雰囲気や物言いなのに否と言えないそんな雰囲気があった。板井さんはコクコクと何度も頷いた。それで弓音さんは満足したようだ。


 「私からは以上です」


 スッと頭を下げ話を終える弓音さん。まぁ僕も話すことはない。そこからは諸々の確認事項等を行い、板井さんは誓約書を書かれ、お開きとなった。弓音さんは仕事を午後からにしてもらったようでこれから病院に行くそうだ。僕は授業があるからほぼ一日診てもらうことになった。


 「ほら、私……普段家にいないでしょう? お母さんとしてのことはしてあげたいの」


 そう言う弓音さんの顔は忘れることができなかった。








 香織先輩が入院して2日経過した。休日だから朝早くから僕は病室に来ていた。花を差し替え、カーテンを開けてほんの少しだけ窓を開ける。ちょっとだけ心地いい風が個室の病室を涼ませる。窓に背を向け椅子に座り、眠り姫のように眠っている香織先輩を見つめる。息は診察時には盛り返しているようで今もしっかりと息をしていることが確認できる。僕はそっと彼女の左手に手を置く。


 「……………天気、良いよ。風も心地良くて……あ、そうだ。今日部活あったけど関先輩に「今のお前はさせてやれない。だから休め」って言われちゃってさ。もう、困っちゃうね……ね、香織。長い夢を見ているのかな。起きたらどんな夢を見ていたのか覚えてる範囲で良いから聞かせてよ香織」


 どんな夢を見ているのだろう。重ねた左手が僕の言葉に呼応するように握られる。その反応に一度左手を見てから顔を見る。もしかしたら目を覚ますんじゃないか。そう淡い希望を抱く。けれど。


 「……………」

 「…………………っ」


 今日もまた目が覚めなかった。








 香織先輩が入院して一週間経過した。病院から連絡が入った。香織先輩が目を覚ましたと。僕は早く会いたかった。スマホと財布と鍵を手に持ってバスで向かえばいいものを走った。


 「……っ、はぁ、はぁ……す、すみません……っ!」

 「あ、は、はいっ! いかがなさいましたか!?」


 息も絶え絶えで両膝に手を当てて息を吐く。夏に近づき気温もそれなりに高いのもあり病院に入れば立ち止まった瞬間に感じなかった汗が止まらなかった。受付にいた看護師は僕の状態を見て慌てて受付から駆け寄ってきた。


 「あ、の……連、絡受けたんです。香織が、はぁ……目が覚めたって……っ……」

 「だ、大丈夫ですか? って、やだ……すごい汗じゃない!」


 そういえばここまで来るのに一度も水分摂ってなかった気がする。腰を上げようとすると一瞬立ち眩みがして目頭を抑えながらふらつく。


 「あー、その……その家からそのまま走ってきたので」

 「お、お家から!? 大変、お水! 水飲んで! そっちに給水機あるから!」


 看護師さんの勢いに押されて案内される。小振りの紙コップに並々に注がれた水を手渡され一気に呷る。飲み終えた紙コップを潰して隣にあるゴミ箱に捨てる。


 「……っあ。あ、ありがとうございます。なんか砂漠歩いた後のオアシスの感じですねこれ」

 「それはこちらに来るまで飲んでいないからよ!? どうしてバス等で来なかったのよ!」

 「いや、まぁ……バス待つ時間すら惜しくて……はい、すみません」


 軽く巫山戯ようとしたら叱られたので素直に頭を下げる。香織先輩が入院している間ほぼ毎日来ているため顔を覚えられているのだ。この看護師さんはまさに応対してくれた看護師さんその人なのだ。


 「はぁ……もうないと思いますけど、気をつけなさいよ? それに夏場は気温も上がります。適度に水分を摂らないと倒れる原因にもなりますからね?」

 「は、はい。気を付けます」


 なんだか少し歳の離れたお姉さんに叱られている気分になった。人差し指を立ててそう注意してくる看護師さんにコクコクと頷く。それを見て安堵したのかいつもの優しい微笑みになった。


 「妻木さんはつい先程目が覚めたばかりなの。案内するわね鏑木さん」

 「お願いします」








 香織先輩の入院している部屋の前に着いた。看護師さんは数回ノックした。


 「妻木さん。入っても良いですか?」

 『は、はいっ。良いですよ』

 「………っ!」


 たった一週間なのに久し振りな感覚に陥った。それくらい愛おしい声が僕の耳を震わせた。ただそれだけで涙が出そうだった。香織先輩の声に看護師さんはゆっくりと戸を開ける。開けた後僕に先に入って良いという手を出されて僕はゆっくりと中に入る。病室のカーテンとベッドを囲むために使用されるカーテンが微風になびきふわりと舞う。ベッドの上には病院服に身を包み痛々しいギプスを付けているけれどそれよりもいつも通りの笑顔を浮かべた香織先輩がそこにいた。僕はベッド横まで駆け寄るように近づいて片膝を乗せ、ぎゅっと抱き締める。


 「ち、ちょっと〜? 少し痛いよー琉椰くん」


 少し茶化したような声すらも愛おしい。僕の背中を左手でポンポンと叩くその温もりも鼻腔びこうくすぐる彼女の匂いも僕にとってとても久々で「あぁ、ここまで僕は香織のこと……大好きなんだ」と自覚した。


 「……目が覚めて、良かった……っ!」

 「も〜。泣いてるの?」

 「な、泣いてないっ……けど、もうちょっとこのままでいさせて」

 「しかたないなーもう。琉椰くんは甘えん坊さんだね」


 一週間も寝たきりだった彼女の髪は少し傷んでいた。けれど僕はそんなの気にせずに彼女の後頭部に手を置いて背中に腕を回して彼女の首筋に顔を埋めて小さく嗚咽おえつを漏らす。香織先輩はえて元気そうにそう言ってくれているのが僕には分かった。だから背中を優しく叩いてくれるその手が僕に安心感を与えてくれた。







 数分そのままでいて、さすがにもう辞めておこうとスッと離れる。


 「あはっ、目元赤くなってる」


 僕の目元にそっと指を当てる。僕は苦笑する。見られちゃったなぁ。けど全然良いや。


 「もう良い?」

 「あっ、は、はい。す、すみません」


 少し後方でそう優しく言われてそういえば看護師さんを放ったらかしにしてたと思って慌てて振り返る。


 「もう。謝らなくて良いのよ。確かに嬉しいものね。妻木さん初めまして。あなたの看護を勤めている麻木あさぎと言うの。しばらくあなたの退院までサポートすることになっているわ。よろしくお願いするわね」

 「はい。よろしくお願いします」

 「ふふっ。二人とも礼儀正しいわね。妻木さんは良い彼氏さんを持ったわね。毎日来ていたもの」


 それは言わなくて良いんじゃないかなと思ったけれどそのうちバレることだし良いか。


 「え、そ、そうなの?」


 香織先輩は僕を見て驚きつつ首を傾げた。僕は素直に頷く。


 「うん。いつ目が覚めても良いように四肢ししのマッサージも兼ねていつも来てたよ」

 「部活で大変だったよね?」

 「全然大変じゃなかったよ。それに朝は弓音さんが来てたし、たまに霞澄かすみさんと一緒に来たりしてたから」

 「そっか……お母さんと霞澄も」


 僕はベッド横に置かれている椅子に腰掛ける。


 「麻木さん。退院は何時ごろになりますか?」

 「そうね……早くても二週間かしら。もし運動とか問題無ければあとはそのまま学業に戻れるわ」

 「そうですか……良かった」


 僕は一先ひとまず安堵する。香織先輩も同じようだ。


 「けど、確か妻木さんも弓道やってるのよね?」

 「あ、はい。やってます」

 「それはしばらくしないでね」


 看護師さん……麻木さんの一言に香織先輩は目を見開いた。僕は顔を俯かせる。


 「……ど、れくらい、ですか?」

 「腕が治るまでね。最低でも半年近くは掛かると思って」

 「………………そんな」


 ショックなのは分かる。僕だってそうだ。でもきっと僕がこうして怪我をしてしまってそれを聞いたら「仕方ない」とすぐに諦めてしまうかもなと自分のあまりの浅薄せんぱくさに自嘲する。


 「けど、することは出来ないけどやっている人のサポートはできるわ。鏑木さん。そうさせたいって彼もお願いしていたから」

 「り、琉椰くんが?」

 「あ、えっと……まぁ……香織が良いなら部員たちのコーチングもしてほしいかな……って」


 二人の視線に僕は少しの気まずさに頬を掻く。香織先輩が小さく微笑む。


 「琉椰くんは?」

 「えっ?」

 「琉椰くんは私にどうして欲しいの?」


 彼女の問いに僕は少し躊躇ためらいつつ口にする。


 「…………矢嶋やじまさんと一緒にコーチをして欲しい。僕は香織の分まで頑張りたい。香織が見ていてくれるなら僕は頑張れる……と思う」

 「そこは言い切って欲しかったなぁ〜」

 「あんまり自信はないからうん」


 そっかそっかと頷きながら僕の頭を優しく撫でてくる。僕は香織先輩の目が見れなくてちょっとだけ目を逸らす。


 「じゃあ私、コーチ? マネージャー? 頑張るね」

 「良いの?」

 「うん。だって今私から弓を取ったらなーんにも楽しみなくなっちゃうもん。だから、ね?」

 「決まりね。一先ず妻木さん、お風呂に入りましょう。一週間も寝たきりで汗を拭いていたのも鏑木さんと妹さんとお母さんがやってましたから」

 「ふぇっ!? そ、それって琉椰くん……見た、の?」


 まぁ、そう思うよなぁ。僕は目を逸らす。


 「せ、背中は僕がやったよ」

 「前は私や妹さん達がやったわ」


 さすがにその度胸はない。というより麻木さんにそうお願いした。割り切れば問題はないけれど、やっぱり裸を見るというのはまだダメだ。


 「そ、そっか……………見ても良かったのに」


 彼女の呟きは一生懸命聞こえていないフリをした。


 「さ、お風呂に案内するわ。鏑木さん。妻木さんをベッドから立たせてくれる? スリッパはそこにあるから」

 「あ、は、はい。香織、左腕を僕の首の後ろに回して」

 「うん。あ、でも自分でも出来るよ?」

 「一応、ね。もし体勢崩れた時に僕がカバー出来るから」

 「そっか。じゃあ連れてってくれる?」

 「うん」


 スリッパを床に置いてから布団を捲り、彼女の両膝の後ろに右腕を回してベッド横に両足を持って来させる。僕は香織先輩の立つペースに合わせて腰を上げる。スリッパに足が通ったのを確認して首の後ろに回していた左腕を離す。


 「大丈夫?」

 「うん。今のところは問題なしっ」

 「良かった。それじゃあ案内お願いします」


 麻木さんは頷いて、病室の扉を開けて待ってくれた。香織先輩を支えながら病室を出る。麻木さんが少し前を歩きながら僕と香織先輩は歩く。今のところ確かに普通に歩けている。僕はそれが見れて結構安心した。









 それから怪我が治るまで利き腕が使えないため左手で物を書くことや箸やスプーン、フォークを持てるようになるための練習等をやり、慣れてきた頃合いで退院した。僕もそれに付き合ったけどかなり難しかった。特に箸で豆を掴んで別皿に移す作業が鬼畜だった。


 「ふわぁ〜久し振りに帰ってきたなぁ〜」

 「うん。部屋の掃除は霞澄さんと一緒にやったりしてたから大丈夫だよ」

 「そっか。琉椰くんはこれからどうするの?」

 「一旦家に戻るよ。着替え何着か持ってもっかいここに戻ってきみのサポートをするよ」


 香織先輩の家に帰ってきて、リビングでそう話をする。香織先輩は頷く。


 「そっか。一緒に過ごすんだね」

 「まぁ……そうなるね。寝るところは……そこのソファで良いかな」

 「え……一緒に寝ないの?」

 「あ、あのねぇ……きみ、怪我人なんだよ? それにあのベッドは一人用なんだから今は控えて欲しいな」


 僕は香織先輩の言葉に苦笑する。香織先輩はしょんぼりとした顔をした。その顔はしないで欲しいな。僕にダメージが入るじゃないか。


 「……わかった。で、でもでも。朝起きた時のキスもおやすみのキスもして。そうじゃなきゃやだ」

 「分かった。それで良いよ。着替えに関しては……霞澄さんにお願いするつもりだよ」

 「どうして?」

 「……僕に下着をつけさせる気かい?」

 「あっ……確かにそだね」

 「分かってくれたなら安心したよ」


 着替えに関してもお風呂に関しても僕は関与しない決まりを作った。あぁ、後トイレも。そこまでのプライベートには僕はさすがに無理なのだ。まだキスだけで手一杯だというのに。


 「それじゃあ、一旦帰るよ。何か欲しいのあったらラインして良いよ。帰る途中にコンビニでなんか買ってくるから」

 「わかった〜。気を付けてね」

 「うん」

 「あ、琉椰くん」

 「うん?」


 きゅっと袖を引かれて慣れたようにキスをする。


 「いってらっしゃい」

 「……うん。行ってきます」


 前もって香織先輩から合鍵を貰っている。ちゃんと鍵ケーブルについてるか確認してから自宅に向かった。






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