星道暦

 ーー星道暦せいどうれき、三十三年。 四月の初め。


 森に囲まれた山奥で、小さな木造の一軒家がある。


 夫婦二人と子どもが二人、一家四人で静かに暮らすその家では自給自足が重視されていた。


 双子の子どもはその影響で、齢五歳にして元素全てを扱えるようになっているという。


 その噂が村に流れ始めたのは、丁度双子が村に降りてくるようになってからのことであった。


 切り株の上で斧を振る。


 子気味いい音を立てて割れた木の柱は、今夜の燃料として使われるだろう。


「リトは力仕事が得意だな」


「まあね、父さんのおかげかな」


 赤と黒が混ざりあった服を着ている少年は、髭を伸ばした男性に対してそう言い放つ。


 カサリ、と茂みから音が聞こえてそちらに目線を向けると、太い木の幹に手を当てている青と白が混ざった服の少年が立っていた。


「ルト! そっちはもう終わったのか?」


「じゃなかったらここにいない」


 あっさりと言い放つのは双子のルトだ。


 リトはルトの発言が気に食わなかったようで、可愛くないとボソリと呟いている。


「あ、父さん。母さんが呼んでたよ」


 ルトがそう言うと、父親はリトの頭を一瞬撫でてから家の方へと向かっていく。


 それを見送ってから、リトは先程まで木を切っていた切り株に腰を下ろして斧を置いた。


「変わんねーよな、ルトは」


「リトだって変わってない」


 リトは切り株に手を当てて空を見上げる。


「前世の記憶があります、なんて父さんや母さんには言えないしな!」


「そうだね。それでどうしたの?」


「どうしたって、何が?」


「話があるんでしょ?」


 ルトがそう言ったのに対して、リトはニヤリと笑みを浮かべる。


『前世の話がしたいなら、テレパスでいいでしょ』


 リトの頭の中にルトの声が響いて、リトはゆっくりと身体を起こした。


 女神に、チートにはしないと言われていたが、何故かルトと脳内会話で繋がることが出来た。


 双子特有の能力かは分からないが、十分特別な能力だとリトは考えている。


『目の前にいるのにただ向き合ってるだけはおかしいだろーが』


 父と母に見られでもしたら、ついにどこかやられたのかと心配されてしまうだろう。


 ルトは昔からどこか外れている。


「とにかく平和に行きたいよなって思ったんだよ」


「当たり前でしょ?」


「まあそうなんだけどさ」


 前世で死んだ理由は覚えていないが、とにかく平和に何事もなく生きたいと願うのは、脳にでも染み付いているのだろうか。


 ルトはリトのことを不思議そうに見ている。


「やりたいことぐらいは見つけないとなー」


 こくりと頷いたルトもやりたいことが見つかっていないようだった。


 この世界では学校というものが存在しない。


 過去住んでいた日本に近いものはあるが、成人年齢も早いし、働き始めることは当たり前である。


 魔力の高さが有無を言わせる訳でもないし、とにかく平凡な世界である。


「やりたいこととか、よくある展開が削られすぎてよくわかんない」


「ルトはよくわかんないこと言うよな」


「そう?」


「そうだよ」


 ルトはリトのことをじっと見てから、何かを思い出したように口を開いた。


「リトのことも母さん呼んでた」


「それ、今言う!?」


 リトはルトに文句を言いながら、母の待つ家へと走って行った。


 それを見送ってからルトはその場の片付けをする。


 何かを考えたように自分の手の平を見つめてから、ぽつりと呟いた。


「空気中の水をここに」


 ルトの言葉と同時に、手の平に水が集まってくる。


 集まって直ぐに少量の水は弾けるように消えて行った。


「もっと自由に使えるようになればな……」


 そう呟いて顔を上げた。

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