ましろの空間で

「あれ……ここは」


 白い雲の上のような空間で目を覚ます。


 現実的にはありえないだろうその世界に、理人はここが死後の世界だと決めつける。


 それ以外に説明がつかないのだから、仕方がないだろう。


「……りと」


「瑠斗! お前、ほんと、先に、いやいい! どこも欠けてないな? よし!」


 名前を呼ばれて直ぐに振り返り、瑠斗の身体をくまなく触れて確かめる。


 天井に潰されても身体が欠けていないなんて奇跡のようなものだ。


「お前の方こそ」


 感情のない声でそう言われて、いつも通りの瑠斗であることに安心する。


「あの、そろそろいいですか?」


 静かな声で問いかけられて振り向けば、そこには学生服を着た女性が立っていた。


「どちらさまで?」


「こほん、私は神と似たような存在ですね。またの名を女神とでも名乗りましょうか」


 変な人に絡まれてしまったと瑠斗を見るが、瑠斗は何故か受け入れられているようで静かに頷いていた。


「りと、深く考えたらダメだと思う」


 更には瑠斗にそう言われて目を回す。


 瑠斗は変な所に疑問を持たずに納得するタイプである。


「で、その女神が何の用ですか?」


 問いかけると女神は理人と瑠斗を見てから、人差し指を立てて告げた。


「魔法世界への転生が決まりました!」


「……は?」


 意味が分からなくて首を傾げていると、瑠斗はぼそぼそと何かを呟いてから女神に向き直る。


「チートにしてくれるんですか?」


「しません」


「じゃあ、不死身に」


「それもしません!」


 瑠斗は女神に対して強く舌打ちをする。


「普通に生まれ変わるんですよ、あなた達二人で」


 興味を無くした瑠斗を置いて、女神は話を続ける。


「生まれ変わってから何をするもあなた達の自由です。あ、ただ前世の記憶ってやつが残るかもしれないから私が来たんですよ」


「前世の記憶?」


「そうです! 死んだ人は皆全てをリセットされて生まれ変わるんですが、あなたたちの記憶は消せなかったので、こうして私が説明に来たんですよ」


 女神の説明に興味を持った様子の瑠斗が顔を上げて、口を開く。


「それで、どう生まれ変わるんですか?」


「よくぞ聞いてくれました! あなたたちは双子として生まれ変わるんですよ!」


 双子って、瑠斗と?


 疑問を顔に出しながら首を傾げていると、女神はゆっくりと頷いて言葉を続ける。


「もう時間が無いので、サクッと行きましょ!」


 女神の言葉と同時に目の前が白に染った。

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