第2話 翌日
翌日、僕は普段通り登校した。いやあ、恥ずかしい。昨日の僕の叫び声が、時折フラッシュバックするのだ。席に着いた今も来た。うわあ、今の僕はきっと赤面している。ふと何か感じて顔を上げると、クラスの女子二人が、僕を見ているではないか。彼女らは僕と目が合うとすぐさま顔を逸らし、こそこそ話、にやにやしてやがる。
机に突っ伏して、あれこれ考える。昨日の事をなるだけ思い出さぬように。筆箱、そろそろ買い替えようかな。いや、小学校一年の時分から使い続けてきたのだ。既にボロボロだが、まだ使える。そうだ、散髪に行こう。最後に切ったのは確か三か月も前だ。我ながら忙しかったのだ。このようにして思考を巡らせていると、何者かに肩をとんとん叩かれた。突っ伏していた顔を向けると、僕を見て笑っていた先程の女子の内の一人であった。名前はわからない。身長が百八十くらいあって短髪だから、恐らくバレー部である。
「女の子、紹介してやろうか」
とバレー少女は僕に言った。その声の調子には嘲笑の情が込められていた。
「だ、大丈夫。心配しないでくれ」
と僕は一人にしてくれと思いながら答えた。
「本当か? あんなに叫んでたのに」
「聞いてたのかい」
「うん。部活のランニングの時にね」
「あれね、実は僕の双子の兄なんだ。僕じゃないんだ。その兄は昨日、転校しながら成仏しちゃったんだけども」
「え! ウソ!」
バレー少女は大層驚いた表情である。まさか、信じたんじゃないだろうな。彼女は「うぅ」と声を上ずらせながら僕の肩に手を置き「ごめん」と言って去って行った。
うーん、どっちなんだろう。信じちゃったのかな。そんな訳あるまいな。
再び、肩をとんとん、いや、つんつんかな。振り返ると春野だ。
「女の子、紹介してやろうか」
と春野は如何にも邪悪な笑みを浮かべ顔を傾けた。髪がさらさら垂れて、小さな幕みたい。
どうやら、僕とバレー少女との会話を盗み聞きしていたようだ。
「いいえ」
元を辿れば、こいつが原因なのだ。
「ふふ、かわいちょうに。坂田、貴様はこれから恥さらしとしてしばらく暮らすことになる。さっきの色々でかい女は本物の阿呆だから騙せたが、他の者はそうではない。かわいちょう、かわいちょう」
春野はそう言って、たっぷり春の日差しを浴びるたんぽぽみたいに微笑んで、どこかへ歩いて行った。
ああっ! 誰か、穴を掘ってくれ。顔だけ埋めるから。
僕はこの日、やはり多くの人にからかわれた。一度も会話したことのない上級生の先輩にもからかわれた。これは、仕様がない。
そうだ、春野についても説明しよう。僕は昨日、大恥をかいてすぐ、彼女に質問責めした。口外しないことを約束に、春野は僕に「一瞬を永遠に引き延ばした世界」について説明してくれた。曰く「あの世界はがっちりしていて崩れない。一人きりになりたい時、あの世界をつくる。でも、貴様に邪魔された。だから、貴様はいつか殺す」とのことであった。
学校から、出られません @umibe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。学校から、出られませんの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。