二四章 戦わないための旅立ち
アーデルハイドたちが
とは言え、かつてのレオンハルト王国の領土はすでに、王都ユキュノクレストをのぞいた全体が
「
などと発言して周囲をあわてさせはしたが。
ともかく、周囲の勧めもあって
これは、いまもただひとり、
なにしろ、
「
そう言う意見は
また、大陸における人間同士の戦いはあくまでも内陸でのものであり、海を舞台にした戦いなどはなかった。そのために、『海軍』と呼べるほどの存在もなく、軍隊を運べるほどの船団を用意できなかった。
さらに、いくら
しかし、たった三人が小舟で乗り込む分にはそれらの問題はない。
そのことは逃げ兎が見事に侵入に成功したことからもはっきりしているし、その逃げ兎の報告によって『本当に』
アーデルハイドは港町に用意された小舟の上に
やってきたカンナとチャップはそろって『ほう……』と、溜め息をついた。
それほどに様になる姿。
アーデルハイドがふたりの同行者に訪れに気がついた。視線を向け、短く口にする。
「来たわね」
その姿がやはり、女神のよう。人の魂をもつものなら黙ってひれ伏すしかない美しさに満ちている。
「カンナ。舟の扱いはお願いね」
「はい、任せてください!」
敬愛する女主人にそう言われ、カンナは力強く請け負った。〝
一方でチャップのほうは緊張した
当時はまだエンカウンが
これまでずっと男の振りをしていなければいけないという事情もあって、常に大きすぎる鎧を身にまとっていたチャップだが、さすがに小舟で海に出るとなれば鎧などまとっていられない。そもそも、もう男の振りをする必要もなくなったし、アーデルハイドから武器だけではなく防具も身につけていてはいけないと
「わたしたちは戦いに行くのではなく、
と言うわけで、いまは飾り気のない私服姿である。長年、まといつづけてきた鎧を脱いでいるとあって心細そうだが、こればかりは仕方がない。
単純な作りの服だけに体の線がよくわかる。
カンナとチャップが舟に乗り込んだ。そんなふたりにアーデルハイドが話しかけた。
「出発前に確認しておくけど。武器はもっていないでしょうね?」
「えっ?」
アーデルハイドの言葉に――。
カンナの表情が引きつった。
「何度も言ったでしょう。わたしたちは戦いに行くのではなく
「も、もももちろんです、はい!」
カンナはあからさまにうろたえた。まっすくで素直な性格だけあって嘘やごまかしはできない
「そう。それじゃあ、確認させてもらうわ」
「えっ? いや、ちょ、アーデルハイドさま……!」
「や、うわ、きゃああっ!」
小舟の上に若い娘ふたりの悲鳴が響いた。アーデルハイドの
「何度も駄目だと言ったのにね」
アーデルハイドは手厳しい視線でふたりの同行者を見た。
「で、でも、やっぱり、護身用の武器ぐらいはないと……」
両手で自分の身を抱きしめ、肝心なところを隠しながらカンナが言った。その横ではチャップがやはり、両腕で自分を抱きしめた姿でうずくまっている。
「わたしたちは敵の本拠地に行くの。護身用の短剣なんかをもっていたとして、
「い、いえ……」
その状況では短剣どころか、巨大な両手剣をもっていても役には立たないだろう。
「だったら、もっていても意味はない。
「……はい」
「これまでの経験から
「……はい」
そう言われてはカンナとしてもうなずくしかない。
アーデルハイドははぎ取った服をふたりに返し、短剣や暗器はすべて海に放り投げた。チャップが急いで服を着込みながらアーデルハイドに尋ねた。
「で、でも、アーデルハイドさま……。服を脱がせるの、やたら慣れてません?」
「我がエドウィン家は
言われてチャップはカンナにささやきかけた。
「な、なあ……。アーデルハイドさまって実はけっこう……」
カンナはチャップを睨み付けた。
「……その先を言ったら殺す」
第四話完
第五話につづく
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