第49話 知恵の居住地
「成功のためのいくつかのルール」なんていうのが、成功者からそこかしこで発信されている。私が視聴したその人物は、自らに課したルールを守ったことで年収が1億円に達して、早期退職後は悠々自適の生活を送っているのだという。
そのルールのひとつに「毎日8時間眠る」というのがあった。
ともすればあなたは(創作をしているという前提で)自身の作品が書籍化されて、それがヒットしてメディアミックス化を経て、年収が1億円に――という流れを望んでいるかもしれない。
だとすれば、これから私が書く内容は首を傾げたくなるかもしれない。
まあ、同一の事柄に触れていたとしても目的に差異があるのはしかたがないことだから、とりあえず話を進めよう。
「毎日8時間眠る」そりゃ毎日そのくらい眠れりゃいい。ぜひ眠りたい。しかし、私はあくまでもそのルールは、お金持ちになりたい人に向けたルールでしかないと思っている。
「成功者って、なんで常に成功者の側からしか発言しないんだろう」
「無論、成功者だからだろ」
つまり、成功者は「成功者」をやりたい人だ。
だったら創作している人は「創作者」をやりたい人だ。そこに明確なルールがあるのかなんて私は知らないが、でも創作者をやりたい側として「そんな気がする」ことはそれなりに(私は)持っている。
真っ先に私は、大きな意味で創作をしている時間が好きだから、触れている時間が楽しいから眠る時間を削ってでもそれをやっていたい。好きだからこそ、深く掘り下げたい。
そこでは作品が商業的にヒットするかどうかなんてまるで考えていない。私が私の「面白い」のために時間を費やす。
じゃあ最初から売れることを考えて、メディアミックス化を狙って創作をすることは間違っているのか。
いや、先の先を考えることは別に間違っちゃいないはず。実現可能なのであれば、その地点からはじめたっていい(と、私は思う。私にはできないけど…)。
いつぞやに言った覚えがあるのだけど、私は絵を描きたかった。でも極度にへたくそだから絵で表現することが難しい。
その代替として小説を書いているのかといったら、否、それは小説表現に失礼だ。小説表現じゃなきゃいけない「何か」があるから、到達したいそこを目指しているのだろう。
「だったら、生活が苦しくても書くことはやめないのか?」
お金持ちのルールの延長線上にある「悠々自適」というある種の様式。
もとより「創作」という方法が人としての諸衝動によって生み出され続けるモノなのだとすれば、毎日8時間眠れる環境に身を浸した時点で本質が抜け落ちた殻(空)の状態になるような気がするのは、単に私が大金を得たこともなければ、大抵若干の睡眠不足を背負っているだけなのだろうから、ホントにそんな気がするだけなのかもしれない。
「論ずることはいい。主張したいこともよくわかった。でも、ちょっと気になったんだが、お前、小説書いてるの?」
じゃあ、今回はこのへんで。
(逃げやがった…)
ホントは書いてるんです。ホントに。(はいはい…)
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