第40話 冷めた熱の味
「遠い他者を自らのイメージの中で潔く構築してしまえるその純粋さが、ある意味羨ましい」
この言葉に滲み出ている、暖房の効いた部屋で、窓越しに降る雪を眺めて「寒そうだなぁ」とかなんとか言っているような他人事感が、我ながらどうにもズルい。
そりゃ私にだって、イメージの中で自由に泳いでいた時期はあったはず。
思春期のころは好きな女の子に関して、
「きっとこんな(自分にとってあまねく肯定的な)性格で、こんな言葉を投げかけたら、こう返してくれるのだろう」
とか、テレビの向こうの同世代の女優やアイドルを見て、
「この子と交際してデートをしたら、こんな場所で、こんなふうに楽しむのだろう」
なんてことを妄想、想像していたはず。
まぁ、「だろう」とか「はず」と曖昧に表現している時点で、私は当時の私の気持ちなんてすでに忘れているのだが…。
アイドルの握手会やライブに行ったことがある。いや、「行っていた時期がある」のほうが正しい。
「なんだよ。お前は前回、ファン心理なんてわからないって言ってたじゃないか!」
言いかたはアレだけど、別にファンになるような人物がいたわけではない。
その当時、個人的にいろいろあって――、この「いろいろ」に関しては鮮やかな色彩ではないし、それでいて説明が長くなりそうだから割愛する。
いろいろあって精神的にホゲっていた時期に偶然テレビで見たとか、偶然CDショップでイベントをやっていたタイミングに居合わせた。
ちょうどその当時、気分転換――、もっと大きく言えば生き方を変えるための断片的な要素、可能性の足元みたいな感じで、どこでもいいから未踏の地(場)に行ってみようという気分になっていた。
でもすでに、そういうジャンルに傾倒するには遅い「いい年」だったから、って、いい年になっても「ガチ恋」という現象に浸る人はいくらでもいるのだろうし、私はそれを否定する気はない。
ただ私は、アイドル諸氏の職業としての「いい顔」に感情が揺さぶられることがなかったというだけ。(嫌な言いかた…)
会場や物販等々を見ても、その「ガチ恋」とかそれに近しいファン心理の特別な、というのか、特殊な、というのか、妄信、盲信状態を上手く利用した商売、稼ぎかたをしているなぁ、くらいにしか思わなかった。(嫌な考えかた…)
とはいえ、それで商売が成り立っているのなら、別に間違っちゃいない。
そういう事柄と私の相性が悪いのは、単に私がそれらの形式的な楽しみかたを拒否したからこその、「私が相性を悪くしていた」だけだったりする。
さらに言えば(だからこそ、なのかもしれないが)、周囲からの評判も悪かった。
ステージ上でのパフォーマンスを見ながら、暴れたり、騒いだりする人たちのような煙たがられかたではなく、むしろ何もしなかったこと(協調性の無さ)が原因でもある。
小規模な会場に顔を出すと、特定の人たち(常連とか呼ばれる深いファン層)から睨まれるのはいつものこと。
ありがたいことに握手会でアイドルに顔を覚えてもらっていて(善くも悪くも覚えやすい顔なのだろう)、楽しく話をした記憶がある。
区切られたブースを離れると、そのアイドルの名前入り法被と名前入りハチマキを装備した人に、親の仇でも見るような目で睨まれていたことがあった。水が合わないと理解して、行くのをやめた。
結局、私はいつでも独りが好きだった。
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