第36話 現実は虚像の中


 時期が時期だけに、幼い頃にどんなクリスマスプレゼントをもらったか、なんてことを考えていた。全ては覚えていないけど、思い出せるものはいくつかあった。


 それらはおもちゃだとかゲームだとか、子どもが子どもらしさを全開にして、


「サンタさんにお願いする!」(いいセリフだとは思う)


 なんて言ってみても、ひどく現実的な「商品」ばかりだった。



 プレゼントとしてもらったものは、いまでは手元に残っていない。残っていないけど、記憶には残っているから、どこぞの中古ショップで探せばそれらは簡単に手に入るだろう。言わずもがな「商品」だから。


 なんていうか、わざわざそうやって「クリスマス」という名称で、視覚的、聴覚的に特別な感じを演出するのなら、プレゼントの価値として「忘れられないもの」をサンタクロースに願うほうがいい。



「なるほど。でも、その忘れられないものって、具体的にはどんなものだ?」



 そう問われると私は困る。「これ」と明確に指し示したくせに、「これ」の説明がまるで出来ない。というか、「これ」の実体すらロクにつかんでいない。だからわからない。(どういうつもりだよ…)



 参考書や解説書で「マンガでわかる〇〇」というのがあるけど、マンガだったらわかりやすい理由が私にはわからない。


 結局のところ、説明するのは言葉なのだから、言葉が示している方向がわからなければ、イラストを見ても意図や内容は理解できないのではないか。


 いや、ともすればそれは、私がいい年になるまで、ちゃんとマンガを読めていなかったからかもしれない。



 正直なところ、絵画もまともに見ることができていない私には、マンガは複合的すぎてやけに難しく感じた。


 というのは、近年になって気付いたことで、幼いころはそれでもマンガを買って読んでいた覚えがある。ちなみに私はコミックボンボン派だった。(知らんがな…)



 もし幼い当時に戻れるのなら(という回顧的な発想の種は好きではないのだが)、伯父にマンガよりも偉人の伝記を勧められたあの日、素直に従ってそっちを買ってもらいたい。ズッコケ三人組でもいい。


 みんながマンガを、ある一定の作品を面白がっているから、自分もそれを面白いと思えるだろう、なんて期待はさっさと捨てるべきだ。これは前回だったかの話にも、それとなく通じるところはある(はず)。



「で、さっきの忘れられないものって、一体何なんだよ」



 何が欲しいのか、何を望むのかという問いに関しては、否、あいにく私はもらえるものがない。サンタクロースはもう来ないから。



 でも、ROSSOの「シャロン」は聴く。


 そういう意味で今年が特別なのではなく、毎年この日は必ず聴いているから。





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