第20回 いつか見る今日
その日の午前中、路地で私を追い抜いて行った車の後部の荷台に、某Aマゾンの段ボールが目一杯に積み込まれているのが見えた。
きっとその量を一日かけて配達するのだろうけど、たった一台の車にパンパンになるくらいだから、一体どれだけの人が――、私が住む地域だけでもどれだけの人がネット通販を利用しているのだろう。
なんてそれとなく考えている私だって、ときどきは利用しているのだから、その荷台に積まれたドライバーさんの苦労の一端を私自身も重ねてしまっている。
なんていうふうな考えが、ドライバーさんを考えることに繋がるのかといったら、それは微妙なところだろう。
もしそういう「負担の是非」みたいな考えが広まって、ネット通販を利用する需要が減れば、必然的に荷物が減るから、ドライバーさんも減らされる。ということは、会社自体も売り上げが減ってしまうから困ってしまう。
って、それをこうやって平然と羅列してしまえるのは、「まぁ、そうはならないだろ」と笑ってしまえるほどに、人は「利便性」というやつにおんぶに抱っこ状態なのだし、それを一度味わってしまえば、そこから抜け出すのは難しいとわかっているからでもある。
「おいおい、一体どの立場から語ってるんだ。お前だってネット通販を利用してるんだから、利便性におんぶに抱っこは他者と変わらないじゃないか」
確かにそうだ。でも私は、ネット通販が苦手だ。
いや、好き嫌いと利便性の善し悪しは同一に語れないものなのだけど、でも「届きますよ」と言われて待っているその時間が、ものすごく苦手だ。
時間指定ができるとしても、その時間には幅がある。
つまり、その数時間(荷物が届くまで)は「待っている」の意識が続いているから、他のことに集中できなくなる。
まぁ、もう少し深く掘り下げれば、ドライバーさんの人柄の善し悪しも引っかかるのだが、受け取るときに「ご苦労様です」と挨拶をするほんの一瞬の感覚でしかないから、そこんとこは割り切っている。
だから(この「だから」がどの理由に帰結しているのか、自分でもわかっていないのだが)私はネット通販で買った商品を近所のコンビニエンス・ストアで受け取るようにしている。
「ちょっと待った。だったら置き配ってのにすりゃいいじゃん」
ともすればあなたはそう思っているかもしれない。でもそれは、私にとっては「待つ」の仕組みのひとつでしかない。
自分で受け取りにいけば、用事の帰りにでも受け取りにいけば、「待つ」の意識は最初から持たなくて済む。
「でもそれって、『ドライバー』の部分が『店員』に変わっただけじゃないのか?」
うん、負担という意味では、そういうことだと思う。
なにより、私はその方法でまた荷物を注文して受け取りに行ったのだから、そういう部分のなにをどこを、解消、解決させる気もないらしい。
しかしその日、帰宅して荷物を開封したとき、新品の本の1ページから17ページまでの下部に折れ目が入っていたのを見て、なんだか残念な気持ちになったのは何故なのか。
それが古本であれば、十数年前、数十年前に発売した古い本であれば、たとえ折れ目がついていようが、シミ、ヤケがあったとしてもまるで気にならないのに…。
ネット通販はなんでもかんでも売っているから、買う側がなにのどういう部分を大事にしているのかまでは考えようとしていないのかもしれない。
だったら、やっぱり自分の足で直接書店に行って、折れ目の有無も確認して選んで買ったほうがいいんだな。
あぁ、なるほど。「餅は餅屋」というやつだ。という結論に至った。
というか、そんなの最初からわかっている。
「あなたが見た、買った商品の傾向から、こんな商品をオススメします」
なんて、通販サイトは気を利かせてくれる。
安物のジャージを一本買っただけで、女性用下着をオススメしてくれた。
って、なんだ、女性用下着を買えってのか?
冗談じゃない! バカにしてるのか!
だったら私は、その下着をどこかの女の人が着用している姿を見たい!
(お前が一番のバカだよ…)
そうやって、買い物傾向やおおよその好みがわかっているから、おすすめを提示できる仕組みは、どことなくマッチングアプリとかお見合いサイトみたいなものに似ているのだろうか?
って、使ったことがないし、使う気もないから、その実、どういう仕組みなのかまったく知らないのだが…。
探せないから、条件を選択するところまでは自分でやって、誰か(機械)に探してもらうみたいな。
だとすれば、直接書店に足を向けるのは、自ら出会いを求めている、あるいは運命的な出会いを信じているとかそういうことになるのか。
まぁ、人も物も、プロセスがどうであれ、結果がよければそれがいいと思うけど。
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