第19回 低刺激なノイズ
先日の朝、目覚める直前から目覚めた直後のほんのわずかな時間の中で、それを長いと表現するべきなのか、大きいと表現するべきなのか、兎にも角にも見上げた空が視界の形状そのままで抜け落ちた程度、もしくはその形状が重くのしかかってくるような量のとある情景が、頭の中を駆け抜けていった。
「記憶」として認識された像に反応した私は、その情景の中に思い出した私自身を、
「あの頃はいろいろ悩んでいたよなぁ」
なんて振り返った目覚めた直後の私自身は、無論「あの頃」の位置なんてまるで把握していなかった。というか、そんなの知らなかった。
ともすればあなたは
「あぁ、いよいよこいつは豆腐の角と間違えて、使いたての消しゴムの角に頭をぶつけて重傷を負ったな…」
なんて思っているかもしれないけど、ハッキリ言ってしまえば――真実を言えば、本当に私はそんな情景に立ったことがないし、場所も知らない。
要するに、私はその日、目覚める直前――むしろ睡眠が解けて、目を開ける寸前の短時間で何かとてつもなく巨大な夢を見ていたらしい。
いや、場所を知らないと言ったら嘘になる。
というのは、私はその場所にいつかの夢の中で訪れたことがあったからなのだが、
「じゃあ、その夢はいつ見たもので、どういう内容だったのか?」
と問われると、それを驚くほど覚えている自分が怖い。
でも、なにより怖いのは、その「覚えている」も、実は先日の夢の記憶――いまこうして喋っている私が「あのとき――」と、現実の日時を記憶しているのではなく、夢の中の私が「あのとき」と理解している事実を、いまの私が現実だったと誤認してしまっている可能性だ。
って、もしもあなたが根気よく、ここまで私の話についてきてくれたとしても、さすがに「こいつはホントに…」と悲しい顔をしているだろうから、この話はもうやめることにして。(予想、予測には際限がないから)
じゃあ、もうひとつ夢の話。(結局夢の話じゃんかよ…)
先日、知っている女の子二人と、ムフフな感じの関係になっている夢を見た。
前述のそれとの対比として、一体なにが悲しいのかというのは、言わずもがな、私は朝に目覚めて、「あぁ、夢だった」と完全に理解してしまえたことだ。
前者のような、わからないをわからないまま説明して、あなたまで理解の外側に追い出してしまうような内容に現実味を疑うのではなく、後者のような内容に、
「あれっ、もしかして事実だったのでは…?」
とか
「眠っている間に、別人格が現れて、あんな大胆なことをやってのけていたのでは…」
とかそういう期待を、ほんのわずかでも持たせてほしい。
でも現実は残酷なもので、物事ってのは期待すればするほど、その実、たいした結果を生み出さない。まして夢であれば、そもそも何も生まれていない。
じゃあ何が夢を見せているのか、夢はなにを示唆しているのか。
ハッキリ言ってしまえば、私が私に夢を見せているだけであり、そこにはメッセージ性なんて欠片もない。
だから前者のやけに現実的だった夢は、単に視覚的に近かっただけなのだろうし、後者はモニター越しに見ているような距離感があったというだけなのだろう。
もしそれが「願望の具現化」なのだとしても、後者のような状況になりたいのかと問われれば、
「一瞬の喜びのために明日を捨てるのだとすれば、それこそ無謀というやつだろう」
と、いまの私は答えるはず。
まぁ、もっとも怖いのは、前者の夢が正真正銘の事実、現実なのに、なぜか目覚めた私はそれを常に忘れてしまっている、という可能性なのだけど…。
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