弟18回 聞き分ける音色


 確かに、私にも「夏休み」というものはあった。少し前に話した小学一年生当時のプールの記憶以外にも、学生だったころには夏休みが存在していた。


 いや、学生じゃなくなってからも、年中夏休みだった時期があったけど、もう終わったことだから、ちょいと横に置いておくことにしよう。(逃げやがった…)



 私がまだ幼かったころ――、まぁ、中学生当時くらいまで含めて、テレビがコンテンツとして強かった。


 というのは、単に私がテレビっ子だったというだけなのだが、午前中はアニメの再放送がやっていて、午後や夜は怪談話がやっていて、ドラマは夏の恋愛なんかを描いた作品が多かった。



 私は昔から祭りにも花火にも興味がなかった。一体何故なのかと問われても、明確な答えを持っていないから「わからない」としか答えようがないのだけど…。


 あと、海も苦手だった。海水浴に行ったことはあったけど、「海だ」と示された海が青かったことは一度もなかった。




 当時は――、と振り返ろうとしたところで、録画したまま放っておいたテレビアニメ(再放送を録画した)を見ていたら、夏のシーンで浴衣を着て祭りに行って花火を見る、というシーンが出てきた。


 これはその作品だけではなく、夏に放送されるアニメの大半(といっても過言ではないはず)には、同じようなシーンが組み込まれている。私はそれを見るたびに「またか…」とつまらなさを覚えてしまう。


(夏云々とは別に、録画したその作品は後半に進むにつれて、どうにも視聴者を泣かせようとしているらしい構成になっていたのだが、正直なところ、私は何故主人公がその理由で泣いているのかわからなくて、つまらさなさを覚えてしまった。もし原作からそうなのだとしたら、読者は本を投げ出さなかったのだろうか…)




 あっ、いや、何故それらのシーンを入れるのかに関しては、視覚的に「夏」を印象付けられる、印象付けやすいからだとか、人(日本人は)それで「夏」を実感するとかいろいろあるのだろう。


 まぁ、私みたいなイカれた感覚を持つ人間は、いろいろすっ飛ばした言いかたをすれば、「都合がよすぎる演出が気に食わない」というだけだから、


「それは根本的に夏が好きじゃないってだけだろ」


 と指摘されると、


「アイスクリームが溶けるのは年中おなじなんだから、夏だけを悪し様に言うのは違うはずだよ」


 と、矛盾して夏を擁護するような反論をしてしまうはず。




 現実だろうが、ドラマやアニメだろうが、「夏休み=思い出作り」めいた形が主題になっている像が多い。


 そこんとこはさっきの祭りとか花火、短期間での恋愛という印象に立ち戻るのだけど、それとは別に、ちびっ子諸君は「夏休み」となると「遊べる(学校に行かなくていい)」と喜ぶのだろう。



 それが長い休みだからだとすれば、七月の終わりにカレンダーを見た今年の私は、


「えっ、一ヵ月って短くないか?」


 と、首を傾げてしまった。



 ともすれば、それは過去の私――、夏休みを夏休みとして過ごした学生当時の、無駄に時間を潰すように夏休みを消化してきた私と、いまの私の比較だったのかもしれない。


 つまり「たった一ヵ月弱で何ができるの?」なんて、きっと夏休みを喜んで満喫しているだろうちびっ子諸君に、疑問を抱いてしまった。




 とはいえ、その「たった一ヵ月弱」を喜べる、というか楽しめるのがちびっ子の醍醐味なのかもしれない。



 一日の時間の使いかたに満足しているか、時間の使いかたが充実しているか、これは特にいい年齢になればなるほど、課題として掲げるべきなのかもしれない。


「楽しいと、その時間はあっという間に過ぎる」つまりはそういうことなのだろう。



「じゃあ、お前は一日を楽しく過ごしているのか?」


 と問われたら、


「箱の中身が隙間なく埋められていると、なんかキレイに見える」


 とかそういうある種の錯覚を使っているだけなのだが、まぁ、楽しく過ごそうとは思っている。



 たとえ長く休んでみたところで、思わしくない現実が取り戻されるのなら、そこに戻るよりも、別の方向に突き進んだほうがきっと面白い。


 というのは、やっぱりいまの私の感覚でしかないのだろう。





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