第13回 無意識の予兆


 先日、ようやく秋葉原に行った。


 なんでそんな「念願かなって」みたいな言いかたをするのか。

(私だけが言葉にそこまでの重みを実感しているのかもしれないが…)


 というのは、行きたかったけど、外側になんらかの理由、弊害があったとかではなく、単に私が私に「行けない」と言い聞かせていたというか、行かない理由を付けていたというか、要するに外に出るのを面倒がっていただけでしかない。


 でも、電車に乗っていて、ふと車窓の向こうの景色を見たとき、あるいは停車した途中の駅を見たとき、


「なんでこんな簡単なことが、さっさと実行できなかったんだろ…」


 と、自分の中でよくわからなくなった。




 この「よくわからない」は、私自身の行動力に対しての疑問。いつだってひとつの行動に関して、熟考に熟考を重ねて、実行するまでに無駄に時間がかかってしまう。


 でも、いざ実行すると、それはなんてことない、短時間で済んでしまう、別段当たり障りのない事柄だった、なんてことはよくある。


 なんとなく、夏休み終盤になってようやく宿題にとりかかる心理に似ているのかもしれない。なんて言えるのは、無論、私は学生時代、常にそういうことだったからなのだけど。




 確か半年以上前に秋葉原に行ったときは友人と一緒だったはず。誰かと一緒だと入る店の選択肢が変わるのは、共通して楽しめる事柄や話題を真っ先に考えるからで、あとは苦手にしているジャンルがあれば、それには自然と触れなくなる。


 だから、その半年以上前のそのときは(調べたら去年の12月だった)私が個人的に通っている店には顔を出さなかった。


 だからのだから、先日、その店に久しぶりに行ったとき、すでに一年以上も顔を出していなかったと知って、結構な具合で驚いた。(それでよく「通っている店」なんて言えたな…)



 でもお店の人と話していたら、その店員さんは一年以上前に私と話した内容をものすごく細かく(私が店のどの位置にいたのかも)覚えてくれていて、そういうのは、なんかこうグッとくる嬉しさがある。





 その反面――、というある種の比較はちょいと間違っているのかもしれないが、私はそうやって自分で自分に「行かない理由」を与えていたくせに、でも出かけたい欲求はある。


 まぁ、無意味に溜め込んでいたと言ったほうが正しいのかもしれないけど、秋葉原の現在を画像や動画にして切り取って、提示してくれている人たちのSNSなんかをよく見ていた。(いまもよく見ている)



 ようやくその中に入れたのだから、それは喜ばしいはずなのだが、そこんとこは先に記した、


 「いざ実行すると、それはなんてことない、短時間で済んでしまう、別段当たり障りのない事柄」


 になってしまう。





 きっとなんでもそうなのだろうけど、そこだけを切り取った1コマ、一瞬というのは、なぜかとてもきれいに映ってしまう、見えてしまう。


 その内側に入るということは、映し出された一瞬や一部に触れるのではなく、全体という大きな流れに触れる、見えなかった内側に入ることになる。


 なんとなく悲しいのは、内側に入ってしまうと、外側から眺めていたときのそれとない感動が消えてしまうことだ。


 それはつまり、事柄の「日常」に私が溶け込むということでもある。




 秋葉原の通りにあふれている人々――、外国人観光客が悪いのかと言ったら、そうではない。


 店のパネルを持って、通りにずらっと並んで立っている客引きの女の子たちが悪いのかといったら、そうではない。(裏で犯罪行為をしていたら悪いが)


 そこんとこは、単に私が私の外側からの影響によって、街を街として素直に受け止めるのではなく、「日常」から離れて、どことなく美化して捉えようとしているある種の錯覚が悪い、という言いかたが正解に近いはず。




 どんなことにも言えるはずなのは、「それ」を自分なりの形で面白がれるかどうかで触れる意識が変化する、とかそういうこと。


 あるいは、外側から「それ」の形や方法を変えられてしまう場合もある。



 でもそういうときは「もう終わった」みたいに嘆いたり、憤ったりする前に、「じゃあ、新しい魅力ってなんだろう」と考えてみるのが楽しいのは、「時間」という流れの中に在る人間に関してだって同じことが言えるのではないか。


 と、適当なことを言ってみる。(おい、コラ…)




 ちょっと新しい楽しみ方を見つけたから、これからも面倒がらずにちゃんと遊びに行こうとは思う。でも、夏は暑いからなぁ…。

(もう心が折られてやんの…)






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