第7回 指先の方向性
夕方のニュース番組、個人的にはニュース番組ではなく、バラエティ寄りの情報番組として捉えているのだが(どのチャンネルも)
その夕方の情報番組の中で、特にゴールデンウィークなんかは、日本にやってきた海外からの旅行者がなにを食べるのか、店までカメラがついていくというような迷惑千万な特集をやっていた。
まぁ、日本でしか食べられない質のいい牛肉とか、新鮮な魚介類とか、多かったのはラーメンだったはずで、でも私は日本人のくせに、そんなのは別にどうでもよくて、むしろ感心したのは外国人旅行者諸氏の箸の使いかた(持ちかた)だった。
箸を短く持ってしまうのは、きっと指の力で「つまむ」という動作をしていると勘違いしているからなのだろうが、それでも二本の箸を持っている手というか、指の形は間違っていなかった。
と、こういう話をしはじめると、ともすればあなたは箸の持ちかたが歪な人なのだとすれば、「うるさいなぁ」と思っているかもしれない。
事実、箸の持ちかたが歪だった学生時代の友人Mに、その当時そのことを指摘したら、「うん、よく言われる」と、面倒臭そうな表情をされたことがあったから、なんとなく察しがつく。
でも一見すればわかってしまうそれは、外側に向けたある種の「品位」だという気がしないでもない。
海外の人々の箸の持ちかたに感心したあたりだと思ったが、とある朝のテレビ番組の中で、それこそ品位の塊みたいに盲信されているナントカ坂の女の子(名前はわからない)が、どこぞのラーメンを食べていたその箸の持ちかたが「あぁ…」という感じだった。
きっとファン諸氏は、その女の子を「可愛い」「キレイ」と持ち上げているのだろうけど、地金というのはそういうところに出てしまうのだろうと思うと、(あくまでも私は)ちょっと悲しい。
あっ、いや、当人がダメなのかと言ったら、そこんとこは半分くらいのダメで、というのは、私の両親は昔から箸の持ちかたが歪な人に関しては、
「(その人は)親のせいで恥をかいている」
と言っていた。
教育とか矯正(強制)という意ではなく、親が「こうやって持つんだよ」と、それとなく、短い時間で教えてあげれば済むその時間すらも面倒がった結果、子どもが人前で恥をかく羽目になる。
相手が口に出して注意してくれればまだいいが、口には出さずに内心で幻滅して、それっきりになってしまう悲しさを考えてあげなかった、一種の悪意を与えたことになるのではないか。
(まあ、箸の持ちかたなんて、いつでも自分で直せばいいと思うが)
おそらく私も、いくら相手が私にとっての絶世の美女だとしても、たったそれだけで、「あっ、箸…」となってしまうだろう。
なんてことを考えていたら、これも学生当時、大抵「間に合わない」と言いながら、授業中も同人誌用のマンガを描き続けていた同級生の女の子のペンの持ちかたが、まるっきりグーだったのを思い出した。
グーにした手の中にペンを握りこんでいるというのか。でも絵や字はちゃんと描いたり書いたりできていたし、なにより当たり前のようにマンガを作れる、絵を描けるその技術が、私はいまでも羨ましい。
前回私は「後天的な遺伝」という、ずいぶんと矛盾しているというか、妙な言い方をしたのだが、特に箸の持ちかたなんて後天的なもの以外の何物でもない。
って、箸の持ちかた、使いかた等々の立ち居振る舞いや所作に関しては、人それぞれだし、おまかせするしかないから、これ以上なにを言うことも無くなってしまった。
これも前回、「私はもういい年だけど、独身だ」なんてどうでもいいことを言ったそれを考えるのは、明らかな遺伝に関係していて、とはいえ、それは身体的な何かとかそういうことではなく、あくまでも性質とか性格の話。
というそれ――諸個人の性質、性格なんて、それこそ私やあなたが生きている「私」や「あなた」自身の時間の中で体験、実感してきた事象によって形成され得るものなのだが、でも、生まれたばかりのそこにある私やあなたは、決して真っ白では、ゼロではなかったはずだ。
「というそれ」が、さっき言った「明らかな遺伝」というやつ。
私もあなたも、私やあなたの両親のあらゆる一部の合成、混合によって形作られているのは、なにも肉体だけの話ではなく、精神(性質、性格)もある程度受け継いでいるその地点を「真っ白」「ゼロ地点」として考えるべきなのではないか。
いや、別にそこからなにかを考えようとしているのではないから、すでに話が逸れてしまっているのだけど、でも全くの無関係ではないからこのまま続けるが、果たしてそれが善いんだか悪いんだか、どうにも私は他者のことを分析しようとしてしまう一種の癖があるらしい。
じゃあ私なりの公式があって、それに当てはめれば、おおよそ相手がどういう人物なのか判明するのか、理解出来るのかと言ったら、きっとそうじゃない。だから「らしい」なんて曖昧な表現しかできない。
しかし特殊な能力めいたものが無くても、長年見てきている人については、どういう人なのか、その性質、性格が大体理解できる領域にあるような気はしている。
つまり、長いこと両親を見てきてしまったせいで、両親の人としての、性格的な悪い部分も見えてしまったせいで、
「あぁ、自分にも多少なりともこういう部分が遺伝している可能性は否定できないんだなぁ」
と思ったら、それを出さない自制心があるとしても、上手いこと遺伝していなかったとしても、ほんのり自分自身が嫌になってしまったその嫌さ加減が、思春期の復活みたいで情けないし、誰かに共有してもらうのは、申し訳ないよなぁ、なんて、共有してもらう相手もいないくせに考えてしまったのです。
でも、別に落ち込んでない。
(どういう…)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます