第2話 25歳 美奈

2023年のゴールデンウィーク、春風が心地よく吹き抜けるある日、美奈は会社の仲間たちとバーベキューを楽しむために、郊外の公園へ足を運んでいた。木々の若葉が静かにざわめき、花々の香りが甘く漂い、子供たちの元気な声が遠くから聞こえてくる。


美奈の視線は、同僚の拓真に釘付けだった。彼は、社内でも有名なイケメンで、趣味は登山。彼が山で見つけた美しい景色を写真に収めるのが得意で、美奈もその写真に魅せられていた。彼と一緒に過ごす時間が増えるにつれ、美奈は拓真に対する想いが募っていくのを感じていた。


「美奈さん、焼き加減はどうでしょう?」

拓真が、ちょうどいい焼き加減の肉の塊を差し出す。その瞬間、ジューシーな肉の香りと炭火の匂いが広がる。美奈は、

「ありがとう、拓真くん。すごく美味しそうだね」

と笑顔で受け取り、その場を立ち去る。


バーベキューが進む中、美奈と拓真は少しずつ距離を縮めていく。拓真がコンロに炭をくわえ、うちわで風を送る。美奈は拓真の力強い腕の動きに目を奪われる。


美奈子の心は少しずつ彼に惹かれていく。彼の頼もしい姿に安心感を覚え、彼の腕に抱かれたいという願望が募る。彼女は想像の中で、彼の腕に包まれる自分を描く。美奈子は彼の腕に包まれながら様々な感情が交錯することに気づく。安らぎと安心感、そして甘美な恍惚感が彼女の心を満たす。彼の腕の中で見つけたこの感情が、彼女にとって新鮮だった。


徐々に美奈子の心は彼の腕に抱かれることへの渇望が強まり、その想いが彼女の心を支配する。彼女は自分の心の中で彼との触れ合いを求め続け、彼の温もりに包まれることを夢見るようになる。


拓真もまた、美奈の優しい笑顔に惹かれていた。


美奈が焼きそばを作っていると、ふとした拍子に二人の手が触れ合う。その瞬間、二人は顔を赤らめ、互いに目をそらす。美奈は、煙に顔を近づけ、焼きそばの甘辛い香りが彼女の心を満たす。


夕暮れ時、拓真は勇気を振り絞って

「美奈さん、実は……僕、美奈さんのことが好きなんです。」

彼の真剣な瞳に、美奈は心が躍る。


「私も、拓真くんのことが好きだったの」と素直に打ち明ける美奈。

ふたりは互いに笑顔を交わし、夕日が沈む空の下、初めて手をつなぐ。


その後のゴールデンウィーク、美奈と拓真は初デートで映画を観たり、遊園地で大笑いしたり、そして並木道を歩きながらお互いの夢や将来について語り合った。美奈は、これまでの強がりを捨て、恋愛に対して素直な自分を受け入れ始める。



仕事が再開され、二人はどうすれば同僚に自分たちの関係を伝えるべきか悩む。しかし、その恋愛関係を隠すために必死であることが、かえって周囲の注目を引く結果となってしまった。


ある日、美奈と拓真が社内のカフェテリアでランチを共にしていると、同僚の里美がやって来て、ニヤリと笑いながら言った。

「なあに、二人でランチ? 仲良くなったみたいね。」

美奈は顔を赤らめ、焦って答える。

「えっと、実は、その、ちょっと聞きたいことがあって……」

拓真も苦笑しながらフォローする。

「そうだ、僕もちょうど美奈さんに話があったんだ。」


次第に、二人の関係に気づく同僚たちが増え始める。二人が偶然にも同じ電車で帰る姿を目撃したり、休憩時間にふたりきりで話しているのを見かけるたびに、社内では囁かれる噂が広がっていった。


とうとう、二人は言わざるを得ない状況に陥ってしまう。ある朝、拓真が美奈に向かって目を細め、囁く。

「美奈さん、そろそろみんなに話さないと、もっと噂が広がっちゃうかもしれないよ。」美奈は緊張しながらうなずく。


その日の夕方、美奈は自分を変える決意をし、勇気を持って恋人同士であることを周囲に伝えるタイミングを待っていた。そして、その機会がついに訪れる。同僚の結婚式の二次会で、仲間たちと楽しい時間を過ごしていると、司会者がマイクを手に「さあ、次は恋バナタイムですね。新しいカップルがいたら、今のうちに報告してください!」と呼びかける。


緊張が走る美奈の手を拓真が握り、二人は互いに励まし合う視線を交わす。美奈は勇気を振り絞り、マイクを手に取る。「皆さん、実は私たち、拓真くんと付き合っています。これからもお互いを大切にしていきたいと思っているので、皆さん、どうかよろしくお願いします。」


会場は一瞬の静寂が訪れた後、祝福の声や拍手が飛び交う。美奈と拓真は互いにほっとした笑顔で手を握り、固く決意を新たにしたのだった。そして、二人の仲間たちは彼らの幸せを祝福し、結婚式の二次会はさらに盛り上がることとなった。

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