第3話 守護者の資格
鳥の鳴き声が耳に優しい。
カーテンの隙間から差し込む光が枕元を照らし、その眩しさに寝返りをうった。
物珍しかった寮のベッドも、数日寝起きをともにすれば家族同然のような存在になる。
それは言い過ぎかもしれないけれど、それほど寝心地が良いのだ。
「ふわ~……もう朝かぁ。よしっ起きないと!」
一つ大きく伸びをしてあんりはベッドから起き上がる。
寝起きがいいことはあんりの自慢の一つで、一度起きてしまえば二度寝の誘惑に負けることはない。
すぐに洗面所に行って顔を洗い、髪の毛を耳のあたりで二つに括る。
あんりは鼻歌と共に制服に袖を通した。
聖エクセルシオール学園では休日や外出する時でも制服の着用が義務付けられている。
この学園の生徒だという自覚を持つためらしいのだけど……確かに、制服を着るだけで身が引き締まるというものだ。
「カイくん、今日は入学式だよ!早く朝ごはん食べに行かなきゃ!起きて~!」
寮は二人部屋だ。
一人用にしてはやや大きなベッドが部屋の両端に置かれており、プライベートを保持するためにベッドにはカーテンが備え付けられている。
向かいにあるカイのベッドのカーテンは締め切られていて、あんりの声にも反応がない。
カイはあんりと比べて寝起きが悪いのだ。よく昼寝もしているみたいだが、そのせいで夜寝付きが悪いのかもしれない。
まあそれはともかくとして。
ここは早起きの得意な自分が起こしてあげよう。
「カイくん、カーテン開けるよ?いい?開けるからね!」
後から文句を言われないように免罪符を並べる。
良く寝るとは思っていたけれど入学式に遅刻するわけにはいかない。入寮式に遅刻したことを棚に上げて、あんりはカーテンをそっと開けた。
しかしそこにカイの姿はなく、脱ぎ散らかされたパジャマと乱雑に捲られた布団があるだけだった。
あんりはカーテンを掴んでぽかんと立ち尽くす。
一緒に食堂に行く約束をしていたわけではないけれど、肩透かしを食らった気分になってしまった。
「……ううん、諦めないよ!今日こそはカイくんに、一緒に
鼻息も荒く意気込んだあんりを
◇
ざわざわと体育館に生徒達がひしめきあっている。
ずらりと並んだ椅子に在校生が座り、新入生が入場するスペースを開けていた。あんり達は入口よりさらに手前に列を作って入場の時を待っている。
カイの不在に気付いたあんりは急いで食堂に向かったものの、そこにはあの長身は見当たらなかった。
仕方なく白米に納豆、卵焼きエトセトラ……と、日本の朝食をお腹いっぱい食べてきたのだった。
そして入学式直前、あんりは列の前にいる生徒の背中をツンツンとつつく。
「カイくん、おはよっ!昨日の話の続きなんだけど、一緒に
「あんた、こんな場所でもその話かよ……」
「だってこういう所じゃないと逃げちゃうじゃない!」
「ていうか、あんたの並ぶところここじゃないだろ。さっさと戻れよ」
「まあまあ、ちょっとくらい良いでしょ、ねっ?」
珍しく制服をきちんと着用しているカイがちらりと振り返って眉間に皺を寄せる。
いつもはケープを羽織るどころかワイシャツの裾も入れず、スラックスに付属しているサスペンダーを機能させているところなんて見たことが無い。
さすがに式典では身だしなみを注意されたらしい。
「
先生に見つかったあんりはしぶしぶ自分の場所へ戻る。
そしてあんり達は在校生に見守られながら仰々しく飾られた体育館に向かったのだった。
『話を聞く限り、その『
壇上で挨拶をする
カイが『
『……やはり、あなた達でないとその時計は機能しないということですか』
だが久遠はその事実に少し苦々しい顔をしていた。
『そうなると、
『大丈夫です、カイくんはきっと突然のことに驚いてるだけだと思います。きっと真剣に考えてくれますよ!』
カイの態度を見てきた
その上、手を貸しただけで仲間になる気はないと言っていたこと伝えると、久遠は肩を下げて落胆してしまった。
あんりは久遠の不安を吹き飛ばすように元気づける。
しかしそうは言っても、手応えがない日々が続いていた。
「級長はこのアリビオ寮一年A組をとりまとめてもらいます。もちろん我が学園は生徒の自主性を大切にしていますから、級長に頼りきりではなく皆さんが一丸となって成長できることを祈っています」
ところ変わってここはあんり達の教室、アリビオ寮一年A組。
入学式が終わったあんり達はオリエンテーションを受けるために教室へ戻って来たのだった。
「それでは、級長になっていただく方を決めたいと思います。立候補でも構いませんよ、どなたかいらっしゃいませんか?」
静かにざわつく生徒達の中、ぴっと伸びる手に全員が注目する。
「はい!
「ええと、
目を爛々と輝かせるあんりに気圧されながらも、他の生徒は新たな級長の誕生にパラパラと拍手をしてくれた。
「先生、副級長ならぴったりな人を知ってます!」
「あら、どなたですか?」
あんりは拍手に答えるように周りをぐるりと見渡して、一つの席に近づく。
「カイくん、副級長になってくれない?そしてゆくゆくは一緒に守護騎──」
「やらない。俺に話しかけるな」
そう突き放したカイはそっぽを向き、あんりは席に戻るように注意をされてしまった。
結局副級長は別の人になってしまったし、オリエンテーションが終わるとカイは忽然と姿を消していた。
カイほど優しい人なら副級長どころか級長になったっていいくらいなのだけれど、どうやら彼女の性に合わないようだ。
残念、一緒にクラスを盛り上げながら親睦を深めていこうと思っていたのだが。
しかしこれでは終われないと、昼食の時間になるや否やあんりは急いで食堂に向かう。
学園には立派な食堂がある。
忙しい学生の味方で三食用意してくれるのだが、開いているのは平日のみだ。
自主性を育てるために土日は生徒自身で用意するのだけれど、生徒は寮の共用キッチンを使わざるを得ない。町の校外にある学園の傍にはコンビニなんてない。
そのために、滅多なことでもない限り学園の生徒は食堂で食事をする。だからカイを探すために一目散に食堂へと向かったのだった。
廊下は食堂を目指す生徒達で非常に賑わっていた。あんりはすれ違う人にぶつからないように器用に人の間を縫って歩いていく。
さて、カイはどこにいるだろうか。
「あれ~、どこにもいないや……」
今日の日替わり定食をお盆に乗せてキョロキョロとカイを探す。念のため端から端まで歩いてみたのだけど、どうやら本当にどこにもいないようだ。
ひとまず諦めて近くのテーブルへと腰を落ちつかせた。ご飯を食べたらまた探しに行こう、ご飯も冷めてしまうことだし。
ちなみに、今日の日替わり定食はかつ丼である。
「失礼します、こちらに座っても?」
「ふぁい、もちろんどう……ってあれ、生徒会長じゃないですか!」
「
もぐもぐと咀嚼している時に相席を提案してきたのは、なんと
生徒会長も生徒なのだから食堂を使うことは当たり前なのだけれど、学園長代理もこなしている彼女と自分が同じ席に座っていることが、なんだか不思議に思えた。
周囲の生徒が
高校生とは思えないほど優雅な雰囲気を纏っている彼女は、その美貌もさることながら非常に成績も良いのだという。
まさに才色兼備、その言葉がよく似合う。
「……このような場所で話すことではないのですが……例の件、進捗はいかがですか?」
あんり達はなるべく不自然にならないように小声で話し始める。
一生徒と食事をしている生徒会長が物珍しいのか、周りの生徒はこちらをちらちらと見ていた。
「えーっと、それが……その話をしようとしても、なかなかカイくんが捕まらなくて……。捕まえても話を聞いてくれないんですよね」
「……成程。ですが予想はしていました。彼女の言動から考えても、そう易々と我々の仲間にならないことは感じていましたから」
周囲のざわめきが上手くあんり達の声を場に溶け込ませている。
言いづらそうにもごもごと話すあんりだったが、
「やる気のない人に無理強いしても無駄なだけです。恐らく彼女は自分以外の人に興味がないのでしょう、そんな人が
「で、でも……まだ諦めるのは早くないですか?誘ったのだって数回だけですし、カイくんだっていつかは分かってくれますよ」
「いつかとはいつですか?」
「
人の体に潜り込んで影のように抜け出すことから、
絶望を形にしたような真っ黒な見た目を思い出し、つい背筋が伸びてしまう。
「あなたならシャドーがいかに危険な存在か分かるでしょう。私はお父様からこの学園を任されている身です。この学園の生徒達が巻き込まれているのに、その『いつか』に賭けている時間はありません」
シャドーを撃退するためには
いくらカイが拒絶しようと、そういうことになってしまったのだから変えようがない。
でも、カイの協力が得られないまま、またシャドーが現れたら?
あんりは
カイと一緒に戦いたい。
だが、仲間になってほしいと願うあまり本来の目的が薄まっていたことも、また事実だった。
「……わがままを言ってすみません。でも、もう一度だけカイくんとお話をさせてくれませんか?あと一回だけ、チャンスを下さい」
「……分かりました、では私も一つだけ条件を。その話し合いに私も同席させて下さい。
「
◇
午後のオリエンテーションが終わり寮へ帰る時間となった。
三時のおやつの時間までもう少し。
一休みしたいところだけれど、おやつを摂取するよりも重要な任務がこれからあんりを待っていた。
「……生徒会長様を使って呼び出すなんて、随分な立場になったな」
「ここに私がいるのは私の意思です。
「へぇ、それで?何の用ですかね」
呼び出されたカイは壁にもたれかかり、いつもの如く面倒臭そうな態度をとっている。
あんり達は寮の外、人目のつかない場所に集まっていた。
神出鬼没なカイを見つけるのは骨が折れるので、
これでも来てくれない可能性は十分にあったが、彼女は指定した場所で大人しく待っていた。
「単刀直入に言います。
「断る。そいつに何回も言ってるはずだ。俺には関係ない」
「……あなたも学園の生徒ですよ、関係ないなんてことはありません」
「悪いけど、俺は寮があれば学校なんてどこでも良かったんだよ。あんたみたいに学園に思い入れとかないし。……というか、学園の生徒が大事とか言っておきながら俺達を戦わせようとしてるのはどうなんだよ。俺達のこと捨て駒とでも思ってんのか?」
今までだるそうに返事をしていたカイが明確な怒りを表す。
体重を預けていた壁から離れ、カイと
「生徒会長だか学園長代理だか何だか知らないけど偉そうに命令するな。そんなに戦いたいなら自分でやればいいだろ」
つっけんどんに言い放つカイと押し黙ってしまう
二人の間の空気は触れただけで亀裂が入りそうなくらい張りつめていた。
「……私だって、出来るならそうしたわ……」
しかしそれは一瞬で、彼女はいつも通り真面目な表情で顔を上げる。
「時間を取らせてしまいましたね。あなたの意思は十分に理解しました、この話はなかったことにしましょう。……
踵を返した
いや、動かす気はなかった。
いつまでも立ち去らないあんりにカイは怪訝な目を向ける。
「もう話は終わりだって言ってただろ、あんたも戻れば」
「ううん、私は何も話してないよ」
彼女は愛想を尽かしてしまったかもしれないけれど、あんりはまだ、カイに言いたいことのひとつも言えていなかった。
「いい加減にしろ、俺は手伝わない。何回来ても無駄だ」
「でもこの間は手伝ってくれたでしょ?私のことも庇ってくれたよね」
「それは、ああしなかった俺が危なかったからだ。あんたのことなんて考えてない」
カイは明らかに苛立った声で感情を
「もう戻りましょう」と
「
「そうだね、あの時計は私ひとりじゃ使えない」
『
一人でシャドーに立ち向かった時、それは時計としての役割すらも果たせないただの骨董品になっていた。
「でもね、カイくんが一緒に戦ってくれて良かったって心の底から思うの。私のことを怒るのに私のことを守ってくれたでしょ?それに、こんなに頼んでも私のことを無視したりしない。私ね、カイくんはとっても優しいと思うの!」
「や、優しい……?」
見守っていた
カイもぽかんと口を開けて何を言おうか忘れてしまっているようだった。
「だから、私はそんなカイくんと一緒にこの学園を守っていきたいなって思うんだ」
「……あんた、本当に何も分かってないな……」
考え込むように頭を掻くカイはやがて大きなため息をつく。
そして口を開きかけたところで──
空がふっと、急に暗くなった。
それと同時に背筋にぞくりとした寒気が走る。
春の温かい気候にそぐわない冷気と重苦しい空気が体を蝕むようだった。
「
「よーし、カイくんも行こう!」
あんりは預かっていた『
しかし、カイが反応するよりも先に
「あなたに
だが『
「私はこの学園の跡取りよ!初代学園長の、先代の
「生徒会長……」
この学園に来て数日しか経っていないあんりは、
それでも
堅物で真面目な生徒会長だけど、与えられた使命以上にこの学園を愛しているのだと。
救いの手を伸ばしたいのにその手がないなんて、地獄にでもいるような気分だと思う。
それでも、こうしている間にもシャドーは侵攻を続けている。
早く駆けつけないとまた犠牲者が出てしまう。
「私が何とかしなきゃいけないの。『
そう言って
彼女は気付いてしまったのだ。
不確定な『いつか』に頼ってはいけないと言ったのは自分なのに、どうしようもない感情を未来に願ってしまったことを。
「……言っておくけど俺は無茶なことはしない。ヤバいと思ったら逃げるからな」
力なく握られた『
『我ら
合わせた時計が光り輝き、施されていた宝石からレトロな鍵が現れた。時計の上にある鍵穴にそれを差し込み、回す。
そしてあんりとカイは目の前が真っ白になるほどの光に包まれ、体中に纏った光は服をかたどっては弾けて消えてゆき、古めかしく気品のあるドレスに身に纏う。
鍵を差しこんだ懐中時計にはリボンがあしらわれ、二人の胸元に装着された。
全ての光が霧散した場所には先ほどとは打って変わった二人の姿があった。
「生徒会長は安全なところに避難しておいて下さい!」
「怪物はあっちだな」
「あっちょっとカイくん、待ってってば~!」
取り残された
「……
◇
影を模した怪物『シャドー』は学園の外にその姿を現していた。
標的になった生徒も含め、辺りの生徒は既に避難していてシャドーの周りに人気はない。
シャドーはずるりと体を動かし、少しずつ学園に向かって来ていた。
あんりとカイはシャドーの前に立ちはだかって進行を防ぐ。
「あなた、もしかしてまた誰かにひどいことしたの⁉絶対に許さないんだからね!」
怪物があんり達の姿を捉える。
洞窟に吹く風のごとき低い唸り声は腹の底に重く響いた。
「あんなのに話なんて通じるわけないだろ。前と同じように叩くぞ」
「う、うん、そうだね!」
シャドーはあんり達を補足すると、鈍い足取りでこちらに向かってきた。
ぐんと伸ばした両手が地面へ叩きつけられ、地面が簡単に砕かれる。一気に足場を崩されたあんり達は砕けた瓦礫をつたって空へと逃げた。
だが、シャドーにはあと少し届かない。
「カイくん、足場をお願い!」
「はぁ⁉足場が何だって⁉」
「いっくよー‼」
「おい、人の話聞けって──」
大きな瓦礫の上に着地したあんりは大きく踏み込んでカイの元へジャンプする。
文句を言うカイだったが、あんりの要望を瞬時に理解して両手を組んで腰を低くした。
それに飛び乗ったあんりは振り上げる勢いで更に空高く飛び上がった。
「うおおおおりゃああっ‼」
あんりの拳はシャドーの顔と呼ぶべき部分、つまり時計の仮面にクリーンヒットする。
胴体に拳を食らわせた時は沈みこむような不思議な感覚があったが、時計はその名の通り固く、拳にじんと響くようだった。
しかし時計はびくともしない。もちろんヒビも入っておらず、シャドーは体勢をぐらつかせただけだった。
拳を叩きこんだ勢いは失われ、あんりは地面に向かって落ちていく。
しかし、落ちていく体に伸縮自在なシャドーの腕が絡みついた。
その腕はしっかりとあんりを捕らえ、ぐんとその上体を持ち上げる。
つまりあんりはシャドーよりも高い位置で拘束されてしまったのだった。
「きゃーっ!高い高い!」
「なにしてんだ……!」
「ごめんなさーい!ってこれ全然解けないよ~!」
全力で抗ってもシャドーの腕はきつくあんりを縛りつけていて、そう簡単には解けない。
それどころかシャドーはあんりを地面に叩きつけようと腕を振り下ろした。
まずい、と思った時にはもう遅い。
高速で近づく地面にあんりは目を閉じた。
痛みが全身を襲う──と思いきや。
あんりは地面に衝突する前にカイに抱きとめられていたのだった。
「……油断するなよ、何度も助けてやらないからな」
カイはぶっきらぼうにそう言うと、あんりを降ろす。
「助けてくれてありがとう。やっぱり、カイくんは優しいね」
「はっ、そりゃドーモ」
あんりとカイは再びシャドーに向き直る。
──しかし、シャドーがこちらを向いていないことに気付いた。
先ほどまであんりを叩き潰そうとしていたのに、だ。
「あれ、どこに行くんだろう?」
「知るか。とにかく畳みかけるぞ!」
シャドーはずるずると引きずるように足を進めている。
あんり達を襲っていた覇気は消え、シャドーはどこか遠くを見つめているようにも思えた。
その挙動はよく分からなかったが、とにかく大きな隙が出来たことには違いなかった。
二人の胸に装着されていた時計が眩い光を放って輝きだし、長針と短針が時計から外れる。
長針は長い弦に、短針は光を纏った弓にそれぞれ姿を変える。それを二人で番え黒い怪物に向かって矢を放った。
『
直撃した矢はシャドーを霧散させ、影は薄い煙のようになって拡散する。
主を失った仮面だけが宙に取り残され、地面にカランと落ちていった。
「……何か、あの怪物……シャドーって言ったっけ。私達のこと見えてなかったのかな?」
「さあな。倒せたんだからどうでもいいだろ」
「そうだね、まぁいっか!」
微かな違和感を証明する証拠はなく、あんりの中に引っかかった小さな疑問はするりと抜けていく。
それは考えたことすら忘れてしまうほどの小さな出来事だった。
「とにかく、これからよろしくね!カイくん!」
「はいはい……」
カイは耳を掻きながら目を逸らす。
ぞんざいな返事だったけれど、あんりと共に戦ってくれると宣言してくれた。
それがたまらなく嬉しくてあんりはカイの腕に飛びついてしまう。もちろんそれは振り払われてしまうのだけど。
その力がいつもより少し、ほんの少しだけ緩んだように感じたのだった。
◇
学園長室にはたくさんの本が乱雑に積み重なり、そのどれにも付箋が大量に付けられている。
普段なら綺麗に整頓されている部屋がこんなに散らかっているのは、部屋の主の気持ちが乱れているからに他ならない。
「どうして私ではなく、あんな適当な人が
苛立ちを押さえられず机を叩いた少女は学園長室の主である
彼女は艶のある綺麗な黒髪を悩まし気にかき上げる。
「……いえ、今は
その絵本の表紙に描かれているのはお姫様のような恰好をした少女だった。
この絵本は物語にするために多少フィクションが混ざっているのだけれど、主人公では初代学園長・
言い伝えでしか聞いたことは無いけれど、
その意思を受け継いだのが、あの二人。
あんりは
「言い伝えにはない怪物……あれが何なのかも分からないのに、
それは絵本よりもかなり古ぼけていて、保存状態が良くなければ朽ちていたかもしれないものだった。
黄色くくすんだ紙には何処かの地図が描かれている。
宝の地図といっても過言ではないほどのそれには──しかし何も記されてはいなかった。
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