第22話
新興貴族をまとめ上げる貴族派筆頭といえばオーグレーン侯爵家という事になる。
オーグレーン侯爵家は、約二百年ほど前にブロムステン王国から亡命してきた公爵家の末裔で、貿易で実績を上げて今の地位にまでのしあがった事からも分かる通り、非常に優秀な一族という事になる。
オーグレーン侯爵家の長女ハリエットは十八歳、レクネン王子の婚約者候補に名前が上がってはいるのだが、王子よりも二歳年上という事もあって周囲はあまり重要視していない。
歴史があるだけで努力もせず、働きもせず、既得権益にだけはしがみつく。国王派と呼ばれる貴族の勢力を削ぐためにも、オーグレーン侯爵は自分の娘を王妃にしたかった。
一発逆転を狙う侯爵はやる気に満ちていたが、娘のハリエットは全くやる気というものがない。
「私がエヴォカリ王国の王妃になるだなんて!超無理ゲーも良いところよ〜」
ドレス姿のままベッドの上に飛び込んだハリエットは、ゴロゴロしながら呻くように独り言を漏らしていた。
「私なんてモブが王妃になれるわけないって言っても全然言うこと聞いてくれないんだからさ!私は前世のチートを使っているだけで天才じゃないの!天才じゃないから王妃とか無理中の無理だから!」
ハリエットには生まれ変わる前の記憶がある。
前世日本人だったハリエットは『暁のホルン〜前世の知識でチートして国も愛も手に入れます〜』という乙女ゲームをプレイしていた。
自分がどうやって死んだのかとか、どういった理由でゲームの中の世界に転生してしまったのかとか、その理由については全く思い付かなかったけれど、自分がオーグレーン侯爵家の長女であるという事で、ある一つの事実に行き着いた。
「オーグレーン侯爵の名前はゲームでも出てくるけど、ハリエットなんて名前のカケラも出てこないモブキャラでしょ?これがモブキャラ転生ってやつかしら!ヒロインとか悪役令嬢とかじゃなくて良かったー!」
ハリエットは心の奥底からホッとしたけれど、貴族派であるオーグレーン侯爵家は、国王派であるヒロインを陥れるために暗躍するし、なんなら最後には当主は処刑、侯爵家は没落という未来を辿ることになるため、かなり早いうちから父親に前世の記憶については報告する事にしたのだった。
ゲームの中での展開としては、戦力を拡大したいレスキナ帝国の為に、魔法使い狩をするのがオーグレーン家であり、オーバリー子爵家を通じて帝国に攫った魔法使いを売りつけ、多額の資金を手に入れる事になるわけだ。
子供の頃から仲良しの魔法使いを誘拐されたヒロインが奮起をして、誘拐事件の真相に迫る事になる。
国王派であるアハティアラ公爵に認めてもらえないヒロインは、父に認めてもらう為にと真相に迫っていく事になるのだけれど、危機に直面したヒロインを助けたのが同じく誘拐事件を捜査していたレクネン王子であり、二人の仲は一気に深まる事になる。
戦争といえば魔法と剣と槍と弓矢を使って戦うような世界だった為、魔法使いは重要な戦力だったのだが、王弟エルランドが新型兵器を次々と開発していく関係から、エヴォカリ王国軍にとって魔法使いはそこまで重要という事では無くなっているらしい。
オーグレーン侯爵家は隣国ブロムステン王国から亡命してきた一族となるのだけれど、今のブロムステン王家とは完全に和解が成立しているし、ブロムステン王家の血を引くペルニア王妃の支持を表明している家でもある。
ブロムステン王国派とも言えるオーグレーン侯爵家が、敵国となるレスキナ帝国に靡くわけがない。侯爵家は帝国に靡かないけれど、ヒロインが帝国に靡く可能性は滅茶苦茶ある。
何せ、ゲームの中で出てくる帝国のアリヴィアン皇子は攻略対象者となり、アリヴィアン皇子エンドでは、ヒロインは皇子と結託してエヴォカリ王国の闇を暴く事になるわけだ。
王国の闇とはどんな闇なのかというと、実はハリエット、アリヴィアン皇子については未攻略なので詳細が何もかも分からない状態なのだった。
「ヒロインはレクネン王子の攻略を進めているみたいだし、早いところ二人が結婚してくれたら良いんだけどな・・」
レクネン王子エンドが一番王道であり、迷惑がかかるのは悪役令嬢であるイングリッドただ一人という無難なエンドという事にもなる為、モブであるハリエットとしては、早いところ二人には結婚してもらって、心の底から安心したかった。
「お嬢様・・お嬢様・・まあ!お嬢様ったら!」
専属侍女が寝室に顔を出すと、昼間からベッドに寝転がるハリエットを引っ張り起こしながら言い出した。
「旦那様が至急、お嬢様に執務室へ来て欲しい仰られています」
「はあ?なんで?」
「旦那様は侯爵家存亡の危機だと言っておられましたが」
「えええええ!嘘でしょうーー!」
オーグレーン侯爵家はヒロインと敵対する家である事は間違いない。レクネン王子にもヒロインにも嫌われないように立ち回ってきたというのに、何の危機が訪れたというのだろうか?モブのハリエットには何ひとつ思いつかないのだった。
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