第23話
「オーバリー子爵家が裏切った」
「はあ?」
「ハリエット、オーバリー子爵家が裏切ったんだよ」
「えええ?」
オーバリー子爵家は侯爵家傘下の子飼いの貴族家であり、ゲームの中ではオーグレーン侯爵家の手足となって影で暗躍する事になる。
「早々に子爵家は切った方が良いと言いましたよね?」
執務机の上で項垂れる父を鬼の形相となってハリエットが見下ろすと、薄くなった栗色の髪の毛をかき回しながら父が言い出した。
「子爵家とは疎遠にしていたのだが、国王派筆頭となるアハティアラ公爵家のスキャンダルを手に入れて来たとか何とか言ってやって来てだな、その話の内容があまりに面白かったので、もっと詳しく調べるようにと子爵に命じてしまったのだ。どうやら、それが仇となったらしい」
「破滅したくなければアハティアラに近づくなと言いましたよね?アハティアラ公爵家はヒロインと悪役令嬢の生家になるし、オーグレーン侯爵家にとってはアンタッチャブルだとあれほど言ったのに!」
「だって、公爵が溺愛しているフィリッパ嬢が、夫人が浮気している間に出来た娘なんじゃないかなんて言い出すんだよ?イングリッド嬢を押し除けて殿下の婚約者へ大手をかけたフィリッパ嬢の足元を掬うチャンスだと思うじゃないかあ!」
「思うじゃないかあ!じゃないですよ!なんでヒロインの足を引っ張ろうとするんですか!」
「だって!だって!ハリエットを王子の妃にしたかったんだもん!親だったら誰でも娘を王妃様にしたいとか考えるでしょう!ねえ!ねえ!」
中年太りをした父親がキャイキャイ言い出す姿を見下ろしたハリエットは大きなため息を吐き出した。
隣国であるブロムステン王国は美男美女が多いのだが、ブロムステン出身となるのに、オーグレーン家の人間は、全員そろって地味だ。
栗色の髪に琥珀色の瞳を持つ一族は、色味も地味なら容姿も地味。あまりにも華やかさに欠ける為、美に執着する国王がブロムステンに誕生した際に、その容姿が認められなかった為に放逐されたという過去があるほどなのだ。
ちなみに前世でゲームをプレイしたハリエットの最大の推しはレクネン王子だった。王子様らしい金色の髪に王家独特の金色の瞳を持つレクネンは王子様そのものの美丈夫で有り、膨大な魔力を有する黒髪の王弟エルランドとのBでLな物語が大好物なハリエットにとって、王子はただ遠くから眺めたい存在という事になる。
父が望むように王妃となって隣に並ぶような存在になるなど、とても!とても!モブゆえに考えられない事でもあったのだ。
「それで、オーバリー子爵が裏切ったってどういう事なんですか?話が見えないんですけど?」
「ハリエットはさぁ、最近、王妃様の使者が我が家を訪れたっていうのは知っているよね?」
「ええ、お話として聞いていましたけど」
そこから父が話す内容は、オーバリー侯爵家が破滅へと導かれる序章の物語としか思えない内容で、聞いている間にハリエットは何度も失神しそうになってしまった。
「要するに、オーバリー子爵が国内の貴族を唆して、国内で麻薬の生産や密売に関わっていると。特に深く関わっているのがアハティアラ公爵家であり、近々、摘発される予定であると言うのですね?」
「私の方でも調べてみたが、オーバリー子爵の後ろにはレスキナ帝国が確実に存在する。帝国は子爵家が所有するレックバリ商会を利用して、帝国独自の麻薬を王国に蔓延させようとしているような状態である。すでに貴族派の子弟が麻薬中毒となって、帝国の間諜に成り下がっているというのだよ」
貴族派筆頭であるオーグレーン侯爵家は真っ当な商売しかしていないし、麻薬に一切関わっていないという事はペルニア王妃も十分に把握されている。
だがしかし、侯爵家率いる貴族派の人間の多くが麻薬に汚染され、その汚染を広めているのがオーバリー子爵である事は間違いのない事実。子飼いの子爵家を管理しきれなかったのは間違いなく、全く言い逃れが出来ない状態に陥っているというのだった。
「うちは何もしてないのに、足元掬われて引き摺られて、没落まっしぐら状態になっているんだよ〜!どうしたらいいんだろう?僕にはもう分からないんだよ〜!」
「だから!あれほどオーバリー子爵は切れと言ったのに!」
怒りで震えながらもハリエットは小太りの父親に即座に子爵と子爵に関わった者全てを捕まえるように指示を出した。
これは帝国のアリヴィアン皇子エンドに関わる事かもしれない。皇子については何の知識もないハリエットだけれど、今打てる手は全て打たないとギロチンまっしぐらなのは間違いない。
「とにかく私は知識の塔へ参ります」
突如、麻薬がどうのと言われても、ハリエットには麻薬に対しての知識がないため、知識の塔の長であるミカエルをまずは突撃訪問しようと心に決めた。
海千山千を潜り抜けた、王国の間諜を取りまとめるミカエルならば、侯爵家が有利になる策の一つや二つは授けてくれるかもしれないと思ったのだった。
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