第3話 そのスキルは、伝説のっ!!
この世界では1日をディエと呼ぶ。
「ヒュドールまでは大人の足でだいたい18ディエぐらいって言われてる」
リリーはそう言い、俺たちは焼け跡から旅に使えそうなものを集めて、村を後にした。
まず目指したのは、「女神の祠」と呼ばれる小さな祠を護る、堂守じいさんのところだ。
おじいさんは村を襲われて焼け出されたリリーを心配し、暫くここで暮らすことを提案したけど、リリーは断って「ヒュドールに帰る」と告げた。
「最後になっちゃったけどこれ、頼まれていた花」
リリーはカゴからシャボン玉に包まれた花を手渡した。
「おぉ! 大変だったのにありがとう」
おじいさんがシャボン玉を割ると、閉じ込められていた強い花の香りが一面に漂う。まるで金木犀の匂いのようだ。
「旅の無事を女神様に祈っていきなされ」
そう勧められて祠に行くと、そこには先端が丸い棒のようなものと、やたら足の長いワイングラスを掲げた女性の石像が飾ってあった。
俺は神社でお参りするように手を2回叩いた。
「えーっと、無事にリリーの故郷にいけますように!」
まずは1番近いチョイノ村へ向かう。
そこでリリーはマダラウマの卵を売って、古着屋で旅に必要な物を揃えた。
「ユーダイは何ができる? 得意なことって何?」
リリーに尋ねられた俺は答えに困った。
俺は普通の小学5年生で、得意な科目は理科と体育。総合も好きだ。ゲームも大好き。よく友達と遊ぶ。サッカーはできても、リリーみたいに弓ができるとかは無い。剣道や空手もやったことない。
「この世界にきたら、すっごい魔法とかスキルが使えるようになるかと思ったんだけどな」
苦笑いしながらそう打ち明けると、リリーは「護身用ね」と包丁ぐらいの大きさのナイフを俺に渡した。ズシリとした重さに、俺はちょっと緊張した。
こうして、俺とリリーの旅が始まった。
11歳の子供だけの旅だ。ちょっと不安だけど、それよりワクワクした。
魔物だって現れた。
最初に出会ったのは森を貫く路で、狂ったように飛び跳ねる、狂乱ハネウサギだった。
「後ろ足が強いの。蹴られたら怪我どころじゃ済まない」
俺は弓を構えたリリーに促されて、近くの木の影に隠れると、地面に手をついた。その横に動物のウンコが。
俺、どんだけウンコ運にまみれてるんだよ! いらねぇよこんな運!
そう思ってウンコを見た時、再びそのウンコがなんの生き物の糞なのかが解った。
これは、狂乱ハネウサギの天敵、陰湿キツネの糞だ。その時、狂乱ハネウサギが俺に向かって飛びかかってきた。俺は石を投げつけるつもりが、間違えてすぐとなりの陰湿キツネのウンコを握って投げちゃった!
そのウンコがものすごい勢いで飛んで、狂乱ハネウサギに当たる! というか……ウサギ、砕けてる。うわぁ……
「あんた……一体何を投げたの?」
「あ、いやその……石と間違えて、陰湿キツネのウンコを……」
終わった……ウンコ握って投げたって言っちゃったよぉ。この旅の間、俺はウンコマン扱いされるかもしれない。
しかし俺の予想に反して、リリーは瞳をキラキラと輝かせて俺を見つめていた。
「あんたのそれ……伝説のスキル『ウンコ鑑定』だわ。その破壊力、間違いない。『ウンコ鑑定』よ」
ウンコ鑑定スキル? なにそれやだ怖い。ていうかカッコ悪い……それよりかわいい女の子がウンコを連呼するのやめて……俺の精神削られる。
「トイレの神様しか持っていないと言われる、超希少スキルよ」
目を輝かせて話す彼女によると「ウンコ鑑定スキル」とは、文字通りそのウンコがどの魔物や生物から排出されたものかを鑑定し、それを武器として扱えるスキル。標的に投げたウンコが上位の魔物のウンコであれば破壊力を増す。更に腕を磨けば――そう、神様級だと健康状態なども解ってしまう、非常に稀有なスキルなのだというのだが……
俺、ウンコ投げて戦わないとダメなの? というか手を洗いたい……今すぐ洗いたい……なんなら今すぐ帰りたい……
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