たからばこ
憂杞
たからばこ
血も汗も金も痛みも捧げられなお誰のものでもない子ども
回りつづけるこの星で回すたび落ちるしかない砂を見ている
蒼穹をただ吸いこんで広がりしネモフィラの正しいうつくしさ
塗りたくった軟膏が手になじむまで握れずにいるコントローラー
囚人のジレンマ 皆で裏切りを選ぶみたいに死なないでいる
産まないと決めたからだは変わらずに生ごみとなる経血を生む
空蝉がうつせみを踏みつぶす午後ヒトの寿命も七日でいいよ
肉としてスーパーで冷やされている牛も豚も鶏も私も
誰一人抱かず彼方の壁になる名もなきだれかを守りきるため
撤去され三年後にもないままの待合室の絵本コーナー
生理痛持ちのわたしが立つだろう産婦人科のソファーが混めば
限りある居場所を広く見せるよう母という字はすこし傾く
絨毯に落としたしずくを飲むならば三秒以内に決めろ覚悟を
奪われてなお動かないからっぽの宝箱たちみたいにひとり
賛美歌のごと口ずさむ幾夜もの殺意を押しころしたララバイ
生きるとはそういうことだ晩餐に子持ちししゃもを食う罪深さ
今はまだ一人のままでいたいけど母をひとりにさせすぎている
捕食後に天使にもどるクリオネの気持ち悪さも愛したいのに
さむくなる鳥の遺物で膨らんだシングルベッドに籠もっていると
たからばこ 憂杞 @MgAiYK
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