32 三人分の法力

 俺はサクラを抱き寄せた。


 まあ、慣れたもんだ。


 サクラはなんてことない、って感じの表情で俺に唇を向ける。


 俺はそこに、ゆっくりと口づけをした。


 サクラ特有の溶岩のような熱くて力強い法力が俺に流れこんでくる。


 っていうか、天幕の中、みんなの衆人環視の中、自分の奴隷とキスするとか、まあなんというかやべーやつだよな俺。


 サクラの法力が俺の身体の中に充満する。



「よし、じゃあイーダ」


「はい」



 イーダのことも抱き寄せる。十代前半の女の子の身体は軽い。


 中性的に整っている顔立ち、白いベリーショートの髪に白い肌、そして碧い瞳


 まだこどもだ。


 ちょっと悪い気もするが、これもキッサとシュシュの首輪を外すためだ。


 イーダはつま先立ちになって口を寄せてくる。


 その口に吸いついた。


 そのとたん、ライトブルーの光とともに法力が俺の中へとなだれこんでくる。


 サクラとイーダ、二人分の法力をもらって、ちょっとクラっときた。


 まあ法力を吸われた二人の方は地面にへたりこんじゃってるが。



「じゃあ、次は私ね」



 ミエリッキが近づいてくる。


 ハイラ族特有の赤い瞳。


 ちょっと見つめあう。


 ミエリッキは少し笑って、



「私は慣れてないから緊張するね」



 といった。


 キッサがむくれた顔で、



「いいからさっさとしてください」



 わかったわかった。


 ミエリッキの肩を抱き寄せる。


 うん、こいつは鍛えてるだけあってしなやかな筋肉をしているな。


 などと思いながら、そのねっとりした唇にキスをした。


 ぶわっと法力が流れ込んできて、俺を満たす。


 うーん、さすがに三人分の法力をためこむと、なんか身体がふわふわするってか、すごいなこれ。



「はい、エージ様、今度はお待ちかねの私です」



 なんだかなぜか得意げなようすでいうキッサ。


 そんな自信満々にお待ちかねといわれると、そんなような気にもなってくる。



「じゃあエージ様、私に法力をくださいね」



 キッサは俺の手をとると、自分の腰にまわし、俺の顔を見上げるとはにかむように笑って目を閉じた。


 キッサとのキスはなんか慣れもあるんだけど特別感もあるような、そんな不思議な感覚だなー。


 いまいちな点は、そんな俺たちを婆様がじぃっと見ていることだ。


 いや、老婆に見つめられながらキスってほんと、なんか微妙。


 そう思いながら、俺はキッサにそっと口づけをした。

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