30 ファニポンの聖石



「この首輪の術式、外せますか?」



 俺は婆様に聞く。


 婆様は薄く笑って、



「まあ難しいがのう。無理ではない。ただし、必要となる聖石があるの」


「それは……なんです?」


「ファニポンの聖石と呼ばれるものが必要じゃ」


「ファニポンの聖石!?」



 タニヤ・アラタロが驚きの声を上げる。


 なんだ、そんなに有名な聖石なのか?



「有名も何も……」



 キッサが顔を暗くしていう。


「極めて希少な聖石で、大きな結晶ともなると世界で三つほどしか知られていません。そのうちの二つは魔王軍に滅ぼされた王家が持っていたもので、もはやどこにあるかは探しようもありません」


「じゃ、残りの一つは?」



と聞くと、



「……ハイラ族の秘宝といわれ、族長のシンボルとなっています。ちょうどターセル帝国のマゼグロンクリスタルと似たようなものですね」



 つまり。



「つまり、カルビナ・リコリが持っている、というわけだな……」


「そういうことになります……」


「ちょうどいいじゃないか」



と、俺はいった。



「え、何がですか?」



 俺たちの目的が一つに集約されたってことだろ? 俺たちのやるべきことに道標ができた。カルビナ・リコリを探し出し、キッサの母親の仇をうち、ファニポンの聖なる石を手に入れ、キッサとシュシュを奴隷から開放し、シュシュがハイラ族の族長としてたつ。うん、最高にシンプルになった。


 つまりはカルビナ・リコリを探し出し、倒す。


 それだけだ。



「とはいっても、そのカルビナ・リコリがどこにいるかを探し出せなきゃなにもはじまらないわよね」



 ミエリッキがそういった。


 それはそうだ。



「傭兵ギルドでカルビナ・リコリの場所は把握していないのか?」


「さすがにねえ。むこうもかなり警戒しているようだし、わたしらの情報網には全然ひっかかりもしないね」



 そこに、婆様が口をはさんできた。



「遠視の法術で、さがせばええ」


「いえいえいえ、婆様!」



 キッサがすぐに反論する。



「私は遠視が使えますが、最大でも数キロマルト先が見えるくらいです。この獣の国は全体でどのくらい広いとお思いですか?」


「まあ確かに人を一人探すのはこの広さでは無理じゃの」


「では……」


「だがの、ファニポンの聖石を探すとなると話は別じゃ。あれは特別な力を発揮する聖石じゃからの、遠くからでも感じ取ることができる」


「でも……、それでも……」


「ふふふ、帝国内最良の法術使いがコントロールし、帝国内最大の法力を注ぎこめば、可能じゃろう」



 んー、よくわからないぞ。どういうこと?



「エージ・ア・タナカよ、おぬしは直接粘膜接触法で、奴隷どもたちから法力を引き出し、……そしてそれをこの遠視の術が使える奴隷――いや、キッサ・リコリといったか、このものに渡せ。わしがその遠視の術をコントロールしてやる」



 あ! そういうことか!



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