24 ねっとり

 ねっとりとしていた。


 なにがねっとりしていたかって?


 全部だ。


 全部が、ねっとりしていた。


 ぱっと目を開ける。


 飛び込んできた光景は、ミエリッキの顔のドアップ。


 強い光を放つ彼女の瞳と目が合う。


 俺が目を覚ましたのを見て、少しほっとした顔をするミエリッキ。



「どうやら、助かったみたいね……」



 俺はまだ、ダンジョンの最奥、地下四階で仰向けに倒れていた。


 その俺に、ミエリッキが跨るようにして重なってきている。


 ハイラ族特有の、白い肌、白い髪、赤い瞳。


 何か声を出そうと思ったが、口が動かない。


 身体も痺れていて、ぴくりとも動かせない。


 そんな俺に、ミエリッキがぽってりとした唇を押し付けてきた。


 舌と舌が触れ合う。


 唾液と唾液が交じり合う。


 これがねっとりの正体だった。


 彼女の法力が俺に流れ込んでくる。


 ぼうっとした頭で、ああ気持ちいいなあ、と思った。


 はぐはぐと貪るようにミエリッキの唇を味わう。


 ぷるんとしたミエリッキの唇はあったかくて心地いい。


 小柄な割にでかい彼女の胸が俺に押し付けられている。


 むにゅっとした感触がまた気持ちいい。


 ああ、いいなあ、これ、いいなあ。


 ぷはっ、と口を離すと、ミエリッキは俺の顔を潤んだ瞳で見て、



「……粘膜直接接触法は初めてだけど、……うまくできたかしら?」



 と言った。


 うん、最高だよ最高、超気持ちいい。


 だけどまだ身体は動かない。


 寒い。


 身体が冷え切っていて、ガタガタと震えがくる。



「……あたためないと、いけないのよね……」



 ミエリッキはいったん俺から身体を離す。



「痛っ」



 顔を歪めるミエリッキ、足の骨が折れているのだ、そりゃ痛いだろう。


 一応シュシュの治療法術は受けているはずだが、まあシュシュ程度の能力じゃあ、多少の痛み止めにはなっても回復まではいかなかったのだ。


 と、彼女はいきなり自分の衣服を脱ぎ始める。


 同時に、そばにいたキッサとサクラが俺の上着を脱がせ始めた。


 同時に、イーダが俺のズボンを引っ張って脱がせる。


 ほとんど素っ裸になる俺。


 そんな俺に、裸同然で大きな胸をさらした四人の女の子が抱きついてくる。


 前もこうして温めてもらったことあるよな。


 ってか、四人だと同時に俺に抱きつけないのか、かわりばんこに俺に胸を押し付けてくる。


 花びら大回転だ、何をいってるんだ俺は。


 四人の女の子に代わる代わる胸を直接押し付けられたことがあるだろうか?


 もにゅもにゅむにゅむにゅふかふかぽかぽかで、まさにこの世の天国だ。


 四人は摩擦するかのように細かく身体を動かして俺の身体を温めてくれる。


 ついでにいうと、シュシュは俺の足元で冷たくなった足をこすってくれているようだったが、ちょっと待て、そこは足の裏だ、こしょばいこしょばい!


 身悶えもできないほど身体が疲弊しきっているのに身悶えしたくてたまらん。


 しっかしなんつーか、ミエリッキのおっぱいはキッサやサクラとくらべてさらにぽちゃぽちゃしていて柔らかくて気持ちいいなあ。


 イーダは貧乳だけど、逆にその分柔らかさが強調されてる気がするし。


 ってかイーダってまだ十四歳だよな、こんなことさせちまっていいんだろうか……。


 そうこうしているうちにも四人は交互に俺にキスをしてくる。


 これは粘膜直接接触法の副作用だから仕方がないんだけど。


 美少女に裸で抱きつかれておっぱいをムニュムニュ押し付けられながらキスされまくるとか、うーん、やっぱりこれ、俺はもう死んでいて天国にでもいるんじゃないだろうか……。


 そして再び、俺は意識を失った。





「ふぁっ!?」



 目を覚ました。


 覚ましたら、ちょうどミエリッキが俺の唇に貪りついているところだった。


 いまだに四人の女の子に抱きつかれているままで、冷え切っていた身体も今はあったまり、ちょっと汗ばんでいるほどだ。


 キッサとサクラとミエリッキの肌が、俺の肌と汗でぴったり吸い付きあっている。



「こ、今度は私の番です……」



 キッサが俺にキスをしてくる。


 それが終わると、次にサクラ。


 そしてイーダ、ミエリッキと続く。


 ほんと、粘膜直接接触法の禁断症状は麻薬の十倍っていうんだから、これは仕方がないよなあ。


 しかも、三十六時間も持続するという。



「あのさ……」



 俺は女の子たちに話しかける。



「あ、起きたわね」



 ミエリッキが言う。



「よかった、死ぬのかと思ったわよ」



 うん、気持ちよすぎて死ぬかと思ったよ。


 いや、そんなことより。



「俺たち、この状態でここからどうやってダンジョンを脱出するんだ……?」



 俺にキスしまくりたいという副作用は三十六時間も続き、その上ミエリッキは足を骨折しているのだ。



「食糧はありますので……干し肉とかですが……ここでキャンプをはって三十六時間、我慢するしかありませんね……」



 まじかよおい。



「お腹すいたぁー!」



 シュシュのいつもの元気な声が聞こえる。


 うん、この声聞くと、なぜだかほっとするな。


 しっかし、この状態でダンジョンの最深部で一日半……。


 ほかに魔物が襲ってくるなんてことあったら、一発で俺たちやられちまうぞ……。


 大丈夫か……?




 結論からいうと、一度だけ、トリケラトプスの化物、カスモラトが二頭ほど襲ってきた。


 ただし、その頃には俺もすでにほとんど回復していたので、俺にキスしたくてまとわりつく四人の女の子を振り払いつつ、ライムグリーンの剣で倒してやった。


 カスモラトの肉は相変わらず素晴らしかったぜ。


 ま、あたりにトロールの死臭が漂っている中での食事はあんまり美味しいとは感じないんだけどな。


 シュシュは夢中でカスモラトの焼肉にかじりついていたけど。


 粘膜直接接触法から三十六時間後。


 俺とキッサで足の骨を折ったミエリッキに肩を貸しつつ、俺たちはダンジョンをあとにした。


 若干の苦戦はしたけど、無事にダンジョン攻略を終えたのだ。


 騎馬で首都グラブ市に帰るのは、さすがに骨折したミエリッキにはつらいようだったので、途中で馬車を手に入れ、それを馬に引かせて俺たちは傭兵ギルドへと凱旋したのだった。

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