5 もにゅもにゅ

 真っ暗闇の中、ふと目を覚ますと、右腕の感触が寝入ったときとちがっていた。


 ちょっと手を動かす。


 もにゅ。


 うん? これは……女の子の、胸の感触……。


 もにゅもにゅ。


 うむ。これはIカップ。それも、キッサのIカップだな。


 いつの間にか交代していたのか。


 しかしまあ、俺もキッサやサクラの胸をけっこう揉んだしなあ、手応えだけで判別できるようになっちまったな。


 それはそれとして、女の子のおっぱいはやっぱり気持ちがいい。


 寝ぼけたまま、ついつい揉み続けてしまう。


 もにゅもにゅもにゅ……。



「エージ様は」



 突然、キッサが俺の耳元で囁いた。



「私のおっぱい触るの、好きですよね?」


「あ、すまん……」


「いいんです、私もエージ様に触られるの、好きですから……」



 あ、やばい、これ一線超えちゃうぞ。



「私もおねーちゃんのおっぱい好きーっ」



 あ、やばい、九歳幼女もそばにいたんだった、一線こえられねーなこれ。


 仕方がない、揉むだけで我慢しておくか……。


 もにゅもにゅもにゅもにゅ……。


 とかやってるうちに、俺はまたぐっすりと眠り込んでしまった。


 うむ、おっぱいというものは男を安心させてくれるいいものだ。





 明け方は俺の見張り番だ。



 なのに、なぜか外で焚き火の番をしている俺の両脇には、俺のかわいい奴隷がいたりするのだった。



「ご主人様に見張りをさせるなど……」


「エージ様と一緒がいいですから」



 ぴったりと俺によりそう二人。


 なんだこれ、こんなモテモテでいいのか俺。


 これがいわゆるモテ期というやつか。


 これはもう、あれだ、3Pの一線を……。



「私もおにーちゃん好きー」



 俺の膝の上に乗ってくる九歳幼女。


 うん、お前もかわいいけど、十年後に同じことをしてくれるかな?


 今は寝なさいよ。


 必死こいて子守唄なんて歌ってみたけど、



「へんな歌ー!」



 とかいってシュシュは大喜びで俺と唱和しちゃったりして寝やしやがらねえ。


 そのうちキッサとサクラの方が俺の肩を枕くーすか眠り始めて、俺とシュシュだけが子守唄を歌う、という本末転倒な事態になったりして。


 などと、アホなことをしているうちに、夜が明けるのだった。





 俺たちはさらに草原を行く。


 首都グラブ市が近いからなのか、遊牧民たちや隊商たちにであうことも多くなった。


 隊商のうちの一人と仲良くなって、さらに情報を得る。


 彼女はやはりハイラ族で、白い髪に赤い瞳。


 名を訊くと、ヨーナスと名乗った。



「あんた、いい奴隷連れてるね。私に売ってくれないかい?」


「悪いな、これは俺の夜伽用なんだ、今回は仕入れにグラブ市へむかうんでな。ハイラ族の奴隷は南で高く売れる」


「夜伽用……この子も!?」


「それは将来の夜伽用」



 かわす会話はやはりちょっとアホっぽい。


 っていうか、俺のせいではあるが、



「やったー! 私、お兄ちゃんの将来の夜伽!」



 変な言葉を幼女に教えちゃったぜ。



「ところで、最近のグラブ市の景気はどうだい?」



 とヨーナスに訊くと、



「知っての通り、最近は駄目だねえ。族長様もグラブ市にいないし、かわりに統治すべき族長筋の人間も……ほら、みんな、ねえ?」



 そう、現在のハイラ族族長、カルビナ・リコリは、族長になれる権利を持つ血族をすべて暗殺したという話なのだ。



「カルビナ・リコリ様とその姉につながる直系血族以外はみんな殺されたらしいよ」


「うーん、こう言っちゃなんだが、ひどいな」



 思わずそう言ってしまう。


 ヨーナスはうなずいて、



「聞いた話だとねえ、リコリ一族に繋がる者は三歳のこどもから産まれたばかりの赤ん坊から、とにかく族長継承権を持つ者全員が毒殺だの闇討ちだので殺されたんだよねえ」



 その話はもうキッサとかに聞いたな。



「そしてね、生きている継承権持ちは誰もいなくなって、カルビナ・リコリ様は傍系なのに族長の地位を確固たるものにしている」


「ほんとうに全員殺したのか?」


「何人か行方不明になっているのもいるけどねえ。ターセル帝国との戦争で殺されたのもいるらしいし、あとは私らの知らないところで暗殺されてるんだと思うねえ。私もひどいことすると思うよ。おっと、これはここだけの話にしておいてくれね。こんな話、カルビナ・リコリ様の耳に入ったら私も殺されるよ」



 なるほど、ハイラ族族長カルビナ・リコリは恐怖政治を始めているらしい。



「許せません……自由さこそが遊牧民たるハイラ族の文化なのに……」



 キッサが悔しそうに言う。


 ま、そのキッサも今は俺の奴隷なんだけどな。


 キッサの首輪から伸びる鎖を、俺が握っている。


 だが、この首輪を外すために、おれたちは婆さまを救出しにいくのだ。





「エージ様……実はひとつ、私たちはエージ様にも秘密にしていたことがあります……」



 ヨーナスと別れたあと、キッサがそう言った。



「ん? なんだ?」


「とても大事な話なのです……。でももしエージ様が私たちに協力してくださったら、……婆さまの救出以上に、大きなことをエージ様が成し遂げられるかもしれません……」



 首都グラブ市まであと半日の道のり。


 その道程、キッサは長い話を俺に聞かせ始めた。


 ハイラ族の歴史と、その族長の血族の話を。


 そして、キッサは俺に、一つ頼みごとをした。


 それは俺が知りたかった、キッサの、いやキッサたちの出自に関わることだった。


  

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